現代はよく「不確実な時代」と呼ばれているが、2020年から2021年にかけてはまさにその言葉を痛感した1年だったと言える。誰も予測できなかった新型コロナウイルス感染症の拡大により、あらゆる産業は大きな打撃を受けた。コロナ禍だけでなく、米中貿易摩擦や大規模な自然災害への懸念も続いている。不確実性への危機感は今後も収まることはないだろう。

こうした状況の今、日本を支える製造業界はどのような戦略で生き残りを図ればいいのだろうか。

9月7日に開催されたTECH+フォーラム「製造業DX Day 2021 Sept.事例で学ぶDX推進~課題と成功の勘所~」では、基調講演に経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 室長 伊奈友子氏が登壇。「2021年版ものづくり白書」を基に、製造業界の生き残りに向けた方策を語った。

製造業の現状

ものづくり白書は、1999年に施行された「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づき、毎年経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省によって共同執筆される法定白書だ。その構成は、第1部が「ものづくり基盤技術の現状と課題」、第2部が「令和2年度においてものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策」となっており、内容は全てWebサイトにて一般公開されている。

今回の講演では、同白書の第1部で記されている「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」(経済産業省)をピックアップし、詳細が語られた。

伊奈氏によると、日本の製造業企業の売上高、営業利益は減少傾向にあり、さらに今後3年間の見通しも減少傾向が続いているという。設備投資額についても、2019年までは増加傾向だったものの、2020年からはコロナ禍の影響を受けた業績低迷により減少。その後、やや持ち直した時期もあったが、2019年の水準には届いていない。

コロナ禍だけではなく、米中貿易摩擦や大規模な自然災害、中国など新興国経済の停滞を懸念して、多くの製造業が設備投資には慎重な姿勢を見せているのが現状である。

こうした状況を踏まえて、各企業はどのような取り組みを始めているのだろうか。

伊奈氏によると、まず挙げられるのが、サプライチェーンの強靭化である。

「サプライチェーンへの被害はこれまで、東日本大震災や局地的豪雨災害など自然災害によるものが中心でした。経産省としては、災害などへの備えとして、BCP(事業継続計画)を策定することを推奨しています。実際に、BCPを策定する企業は中小企業を含め年々増加しています」

しかし、コロナ禍は、自然災害のような局地的被害ではなく、世界全体にサプライチェーンの被害が拡大し、需要減や受注減に加えて、調達や物流なども影響を受けており、今後も世界的に「不確実性」の高まりは続くと見られている。

そうしたなかで、重要なのは自社の被害を想定するだけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰して、レジリエンスを強化していくことだと伊奈氏は指摘する。

サプライチェーンはニューノーマルの生活様式にも影響を受けると伊奈氏は言う。

「テレワークや”巣ごもり”が浸透したことで、人の移動が減少しています。一方でECの需要は増しており、物を家に届けてもらうライフスタイルの浸透から物流量は増加しています」

だが、物流のキャパシティには限界がある。当然、製造業における物流も影響は避けられない。今後、製造業は物流をどう効率化していくのかという点も重要な経営課題になるだろう。