作業服のワークマンのビジネスが好調である。2020年3月期は対前年同期比で37.8%の増収を記録し、コロナ禍に見舞われた2021年3月期もプラス成長を維持する見通しだ。

12月3日から4日にかけて行われた「マイナビニュースフォーラム2020 Winter for データ活用」では、急成長の立役者であるワークマン 役員席 専務取締役 土屋哲雄氏が登壇し、「データ経営を武器に成功を遂げた、ワークマンのアウトドアウェア進出」と題した講演を行なった。

「データ経営」の本質

1982年創業のワークマンは、流通大手ベイシアグループの一員で、作業服チェーンとしては国内最大手である。総合商社などでの勤務を経て2012年の4月にワークマンに入社した土屋氏は、2014年から2019年までの中期経営計画に相当する「中期業態変革ビジョン」を策定し、現在「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」として知られる新業態へ乗り出すことを決定した。作業服リテーラーとしては圧倒的な強みを持ちながらも、成長の限界を目の前にした同社は変革の目標を「客層拡大」と定めた。

その実現手段として土屋氏が考えた方針が2つある。1つは「データ経営」であり、現場の社員全員がデータを用いて考え、変革することを目指すことだ。同氏が強調するのが、データ経営の実践を、売上を増やすためではなく、組織が持続的な競争優位を確立する「ダイナミックケイパビリティ」を獲得するためと位置付けていることである。

もう1つが「しない経営」だ。土屋氏が2020年10月に出版した著書「ワークマン式『しない経営』- 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密」(発行:ダイヤモンド社)のタイトルにもあるように、新業態の開拓という1つの目標の達成に不要なことは一切やらないのだという。例えば、社内行事もやらない。社内でのあいさつも必要ない。ノルマや期限を廃止して社員にストレスを与えずに目標の達成に取り組んでもらうことを徹底している。

変革を試みる組織にとってのチャレンジが、過去の選択や意思決定の制約を受ける「経路依存性」という特性である。これを踏まえると、ツールの導入だけでは変革の達成は困難であり、企業文化から変えなくてはならない。

ワークマンの場合、「変えたことが7割、変えずに強化したことが3割」であり、土屋氏は変えたこととして、他社が5年は追いつけないPB(Private Brand)製品の開発を挙げた。今までのノウハウが使えない。上司も部下もない。上司の意見が間違っていることもあるので、部下は自分の考えをデータで検証して実行に移すことが求められる。また、もう1つの強化ポイントとして、顧客、サプライヤー、加盟店と長期的に良好な関係を築く長期「固定化」と前述の「しない経営」を実践しているという。

Amazonに負けないための3つの方針

リアルの店舗を持つ小売業にとって、最大の脅威はAmazonであろう。中途半端では100%淘汰されるため、3つの「負けない」を掲げ、変革を進めている。

1. 定価で負けない

データ経営で在庫を残さないよう、1年目は少なく作って様子を見る。2年目から商品を改良し、プラスマイナス15%の需要予測で生産量を決め、販売する。ワークマンは大量生産ができるので、在庫を残さないと定価でAmazonに負けない。

2. 配送費で負けない

全国900店舗のネットワークを活用し、店頭受け取り(BOPIS、Buy Online Pick-up In Store)サービスを強化している。将来は宅配を止め、店舗受け取りに特化することを視野に入れている。

3. 販促費をかけない

マーケティング戦略で重視しているのが、ソーシャルメディアの評判だけで売り切ることだ。TV CMもやらなければOne-to-Oneマーケティングもやらない。アンバサダーと呼ばれる「濃い」ファンに製品開発から参画してもらい、情報発信もフォロワーへの影響力を持つアンバサダーに任せるやり方を徹底するのがワークマン流だ。

こうした変革に不可欠なのがデータ分析である。調査会社のガートナーはデータ分析を「記述的分析」「診断的分析」「予測的分析」の3つに分類しているが、この3つの中でワークマンが重視しているのは、因果関係を見つけるための診断的分析だという。

データ分析

ワークマンのデータ分析

しかも使うツールはExcelである。例えば、ある商品が売れていない場合、売れない原因に関する仮説を現場の社員が立て、必要なデータをダウンロードし、自分で関数を使って検証を行う。原因がわかったら改善し、標準化するところまでを現場で行う。需要予測のような予測的分析に関しては一部でAIを使っているが、「診断的分析が最も重要」と土屋氏は強調した。