「オウンドメディアを続けることで会社にどんなメリットがあるのか?」

――これは、多くのオウンドメディア担当者が一度は直面する問いである。この問いに答えられず、オウンドメディアブームの終焉と共にひっそりと閉鎖されたサイトは数知れない。

しかし、逆に言えば「会社に対する価値」を提示し続けられるなら、オウンドメディアは1つの事業として社内で確固たる地位を築けるだろう。継続的に何らかの価値を示すには、時代の流れを読み、トレンドに合わせて常に変化していくことが必要となる。

味の素が運営する「AJINOMOTO PARK」はまさにそうした変化を繰り返しながら、さまざまなかたちで価値を示してきたオウンドメディアである。「料理レシピを核にしたコミュニティサイト」として誕生した同サイトは、2020年7月のリニューアルによって「食の体験価値を伝えるメディア」へと進化を遂げた。

AJINOMOTO PARK

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AJINOMOTO PARKは、いかにしてオウンドメディアとしての価値を生み出し続けてきたのか。同メディアの運営を指揮する食品事業本部 調味料事業部 オウンドメディアグループ マネージャーの松本大樹氏に、AJINOMOTO PARKのこれまでの歩みと今回のリニューアルの狙い、そして今後の展望について話を聞いた。

松本大樹氏

味の素 食品事業本部 調味料事業部 オウンドメディアグループ マネージャー 松本大樹氏

オウンドメディアの存在意義をどこに据えるのか

AJINOMOTO PARKは、もともと味の素が運営していた料理レシピサイト「レシピ大百科」を引き継ぐかたちで2012年にオープンしたオウンドメディアだ。開設の狙いは「デジタルを使って生活者とつながる」こと。レシピを提供するだけの一方通行のサイトから、コミュニケーション機能を搭載した双方向型のサイトへと刷新され、キャンペーンなどに応募できる無料会員制度も導入された。当時、運営側のKPIに据えられていたのは会員数だ。

松本氏は、「2014年頃には会員数100万人を達成するなど、AJINOMOTO PARKは順調に伸びていました」と振り返る。

松本大樹氏

しかし、世間のオウンドメディアブームが一段落し、TwitterやLINEといったSNSが浸透し始めると様相は一変する。社内からは「オウンドメディアを続けることに意味があるのか」「もっと事業に貢献できるサイトにするべきでは」といった声が上がり、AJINOMOTO PARKの存在意義を見直す必要が出てきたのだ。

そこで松本氏は、AJINOMOTO PARKのKPIを「事業貢献」を測るかたちに変更した。と言っても、AJINOMOTO PARK自体が物販などを行うわけではない。目を付けたのは「レシピの閲覧数」、つまりPVやUUである。

「掲載しているレシピでは、味の素の調味料を使っています。それを見てもらえたということは、『味の素の調味料を使ってその料理を作った』と言えるのではないかといくつかの調査やアクセスログの解析などを基に仮定しました。つまり、AJINOMOTO PARKのレシピページの閲覧数が伸びれば、それは商品の販売につながっているということです」

KPIをPV/UUに変更し、「レシピページに記載されている調味料の使用量×使用量単位の商品単価×PV」という計算式で売上に換算。AJINOMOTO PARKが間接的に利益に貢献していることを社内に伝えていった。

その一方で、松本氏は次の時代の波を感じていた。2015年頃から料理系の動画メディアが登場し始め、SNSをフル活用して急速な成長を見せていたのである。料理やレシピ紹介といったジャンルは動画媒体との相性が良い。「これまでのようにテキストと写真だけでレシピを提供し続けても苦戦は免れない」という危機感があったという。

改めて見つめ直したサイトの「課題」と「目的」

2019年に入り、松本氏は改めてAJINOMOTO PARKの課題に着目した。

「レシピページを閲覧するユーザーの多くは、料理名や食材名で検索してサイトを訪れます。そういったユーザーはレシピを見れば目的が達成されるので、1ページ見ただけで離脱してしまうんです」

AJINOMOTO PARKのそもそもの目的は生活者とつながること、引いては味の素の活動や想いを伝え、コミュニケーションを通じてファンになってもらうことだ。レシピがメインコンテンツのメディアでは、その目的が十分に果たせない。

「レシピだけでは『モノ消費』にしかならず、コモディティ化したレシピサイトのなかに埋もれてしまいます。このままではジリ貧になると思いました」

AJINOMOTO PARKの価値をさらに高めるためには、サイトの構造そのものから変える必要がある――こうしたことから2020年、AJINOMOTO PARKはリニューアルされた。

味の素のファンを増やしたい

一新したAJINOMOTO PARKのコンセプトには、「食べる楽しさを、もっと。」というフレーズを掲げた。もちろん、今後もレシピの提案は続けていく。だが、「もうAJINOMOTO PARKはレシピサイトではない」と松本氏は強調する。

「サイトを通じて食の輪や楽しみを知ることで、味の素のファンになってもらいたいんです。そして、サイトを訪れるユーザーのデータを商品開発やサービスに反映し、商品のクオリティを高めることで生活者に還元していく流れを作りたいと考えています」

松本大樹氏

リニューアルで加わったのは、ユーザーを巻き込む体験系のコンテンツだ。Twitterを活用し、「和食に関する悩みごと」に答える「和食の壁」や、日頃の料理の現場で起きた”あるある”なハプニングを募集する「クッキンあるある調査団」などさまざまな企画を実施。思った以上に大きな反響を得ているという。

また、「人」にフォーカスした記事にも注力する。例えば、味の素の社員が登場して「ご飯」に関するマイルールを紹介する記事や、料理家にキッチンで役立つアイデアを教わるインタビュー記事など、どれも親しみやすく、日常に寄り添ったコンテンツばかりだ。参加して楽しいコンテンツや、読み物コンテンツを充実させることで、味の素に興味を持ち、ファンになってくれるユーザーを増やしたいという想いがある。

「ファンになってもらうには共感されることが重要です。共感されるために、AJINOMOTO PARKの”人格”をもっと出していきたいと考えています」

ファンを”見える化”し、データを還元する

AJINOMOTO PARKの現在のKPIは「熱心なファンを増やす」ことだと松本氏は言う。なぜなら”熱心なファン”に近づくほど生活者は商品購入しやすくなるからだ。最初はそれほど味の素に興味がないユーザーだったとしても、AJINOMOTO PARKのさまざまなコンテンツを体験してもらうことで、ファン化を促進できると考えている。

松本大樹氏

AJINOMOTO PARKの価値はファンを増やすことだけに留まらない。現在、松本氏が進めているプロジェクトが、8年間の運用で蓄積されてきたデータから「ファンを見える化する基盤」を作ることである。

「AJINOMOTO PARKの閲覧数やリアクション、SNSのフォロワー、キャンペーン参加者、生活者の声といったデータを統合し、商品開発に活かすといったかたちで事業貢献を行っていければと思っています」

各チャネルのデータを統合し、ユーザーの正しい姿を把握する――いわゆるオムニチャネル戦略の根幹を成す役割を今、AJINOMOTO PARKは担う。

大切なのは「ファンを優先すること」

AJINOMOTO PARKは現在、「ファンを育てる」ことと「データの活用」という2つの目的で運用されている。社内的には特に「データの活用」が注目されているものの、松本氏は「決してデータ先行になってはいけない」と強調する。

「データのためにオウンドメディアを運用しようとすると失敗します。まずはファンを優先し、ファンにどういう体験をしてもらうかを考えることが大切です。その上で得られるデータを活用するのであって、この順番を入れ替えてはだめだと考えています」

運営計画は1年単位だが、もちろんPVやUU、MAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー)などは毎月追っている。リニューアルの手応えは「悪くない」(松本氏)。だが、これもゴールではない。

「味の素は今、DXを推進し、フードテックや食とウェルビーイングといった食の未来を見据え、変化しようとしています。そうした動きに合わせて、AJINOMOTO PARKも変わっていかないといけません。食品会社なので固い印象を抱かれがちなのですが、『味の素、最近何だか楽しそうなことをやり始めたな』とまずは身近に感じてもらえるようになりたいと思っています」

オウンドメディアは会社にどんな価値を提供できるのか、オウンドメディアを運営する意味はどこにあるのか。AJINOMOTO PARKは、常にその答えを更新し続けている。