教育をデジタルテクノロジーで改革する「EdTech(エドテック)」が盛り上がっている。オンライン講義や学習用プラットフォームなどさまざまなサービスが登場。個人に最適化された学習や教育格差の是正などが効果として期待されている。

一方、テクノロジーが得意する効率化や自動化だけでは測れないのが教育という分野でもある。情緒や感情といった曖昧な領域に対して、テクノロジーは何ができるのか。11月4日に開催された「Edvation x Summit 2019」に、ワコム 代表取締役社長兼CEOの井出信孝氏と、GROOVE X 代表取締役の林要氏が登壇。デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授がモデレーターを務め、「デジタルのその先にあるもの」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

(写真左から)佐藤教授、井手氏、林氏

差別化のポイントとなるのは「アーツ」

21世紀型の人材を育成するための教育法として提唱される「STEAM教育」について佐藤教授は、「Aはアートだと言われるが、私はアーツ(リベラルアーツ)だと思っている」とコメント。書籍「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(著者:山口周/発行:光文社)を引用しながら、「これまでのようなサイエンス重視の意思決定では、今日のような複雑な世界でビジネスの舵取りはできない」と警鐘を鳴らした。

例えば、iPhoneが良い例だ。2007年に登場し、あっという間に世界を席巻したiPhoneだが、決して技術力の高さで売れたわけではないと佐藤教授は指摘する。

「むしろ日本のほうが高い技術を持っていました。そんななかでiPhoneが売れたのは、製品に”美意識”が組み込まれていたからです」

サイエンスやテクノロジーといった「STEM」の各要素はコピーが可能だが、アーツ(高度な教養がもたらす美意識)については再現することが難しく、これからのグローバルなビジネスにおいて差別化のポイントになると佐藤教授は言う。

現代の優れたプロダクトは、多かれ少なかれこうした美意識を備えており、だからこそ他者には真似ができず、ファンから熱狂的に支持されるのだ。

同セッションに登壇した井出氏のワコムや、林氏のGROOVE Xも、この「アーツ」を重視したプロダクトデザインを行っている。

“無駄”からこそクリエイティブは生まれる

ワコムはペンタブレットなどを開発/販売する企業で、その製品は多くのクリエイターから支持を集めている。

しかし、井出氏はデジタルツールについて、「紙と鉛筆に比べるとまだまだな部分がある」と冷静に分析する。

「ワコムが目指すのは『筆が走る』こと。創造の神が降りてきてアドレナリンがあふれ、手が追いつかないほどのクリエイションを生み出すところまでいきたいと思っています」

クリエイターのインスピレーションは環境に大きな影響を受ける。むろん、道具も重要な要素の1つだ。作業自体はほとんどデジタル化していても、インスピレーションがわく瞬間だけは紙とペンが欠かせないというクリエイターも少なくない。「効率」という言葉では測れない”何か”があるのがクリエイティブの世界なのだ。

ワコムはそうした情緒的な部分にも踏み込もうとしている。LAMYやSTAEDTLER、BICといった文具ブランドとコラボレーションし、鉛筆やボールペンの外観を備えたデジタルペンを開発した。

井手氏のペンケースにずらりと並ぶのは全てデジタルペンだという

「デジタルで効率化することで、創造的な時間を増やしてほしいという思いを持っています。ただ、創造には一見無駄に思えるようなことや回り道も重要です。そのために我々は単に正解に早くたどり着く道具ではなく、回り道をしてもいいという余裕が出るような道具を目指しています」

効率化で見落とされがちな”無駄”からこそクリエイティブは生まれる――そうした考えは、EdTech分野にも活かせるのではないかと井出氏は見解を示した。