人工知能(AI)が高度に発展した未来に、私たちの社会はどうなっているのか。アンドロイドが人と同じ見た目を手に入れたとき、私たちは彼らにどんな感情を抱くのか。――アンドロイドが普及した未来を描くゲーム作品『Detroit: Become Human(デトロイト・ビカム・ヒューマン)』を題材に、来たるべき社会の姿を想像し議論するイベント「イマジネーション×サイエンス ~人工知能がつくる未来を想像する~」が9月13日、日本科学未来館で開催された。

トークセッションには『Detroit: Become Human』の脚本/ディレクターを務めた仏クアンティック・ドリーム CEO デヴィッド・ケイジ氏、スクウェア・エニックスのリードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏、筑波大学システム情報系助教の大澤博隆氏が登壇。異なる立場から未来のAI社会について意見を交わした。

スクウェア・エニックス リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏(写真左)、仏クアンティック・ドリーム CEO デヴィッド・ケイジ氏(写真中央)、筑波大学システム情報系助教 大澤博隆氏(写真右)

AIやロボットが発展したときに現実社会はどうなるのか

『Detroit: Become Human』は仏クアンティック・ドリームが開発し、2018年5月25日にソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売されたPlayStation4用ソフト。AIやロボットが高度に発展を遂げた2038年のデトロイトを舞台に、AIと人の物語を描いた話題作だ。

AIをテーマにしたSF作品は媒体を問わずこれまでにも数多く存在し、それらは現実のAI研究や開発にも影響を与えてきた。例えば、メイカームーブメントやスペキュラティブデザイン、シンギュラリティなどの概念はSFの物語からヒントを得たものだと大澤氏は説明する。

一方、ケイジ氏は「『Detroit: Become Human』はSFを作りたくて作ったわけではない」と話す。AIやロボットが発展したときに現実社会はどうなるのか――という物語を描いた結果、それがSFというジャンルに分類されるものになっただけなのだ。

『Detroit: Become Human』ではアンドロイドは人間そっくりの見た目で登場する。まばたきなど細かい部分まで完璧に人を模倣したビジュアルだが、彼らはあくまでもツールであり、人権は存在しない。それ故に、アンドロイドに対する人の姿勢はさまざまで、道具のように扱う者もいれば、家族のように愛情を注ぐ者もいる。”人のようで人ではない存在”に対し、人はどう振る舞うのか。それこそが『Detroit: Become Human』が投げかけるテーマだ。

パネルディスカッションでは、あらかじめ会場来場者、そして世界中の『Detroit: Become Human』ユーザーにAIやアンドロイドに関するアンケートを実施。その結果を基にトークが展開された。

最初の問いは「見た目が人間のアンドロイドと付き合えるか?」というもの。興味深いことに、会場と世界の答えは「はい(付き合える)」が約6割とほぼ一致していた。回答を見たケイジ氏は「この(付き合えるという)回答は、本当はもっと多いのでは」と述べ、ソニーのaiboがサポート打ち切りになった際、落ち込んだオーナーが多かったことを例に挙げて「皆、ロボットと友だちになりたいはず」とコメントした。

アンケートではロボットへの親近感や愛情を示す人が多数派を占めたが、『Detroit: Become Human』では人と同じ見た目のアンドロイドがショーウインドウに陳列され、まるで物や奴隷のように扱われる。

こうしたシーンを描いた意図を尋ねられたケイジ氏は、「人によってアンドロイドへの対応は違うし、嫌う人も愛する人もいる。白黒はっきりではなく、複雑な関係性が存在する。そういう関係性について描く必要があると思った」と想いを語った。

作中では、主人に頼まれた買い物をしに街へ出たアンドロイドが、アンドロイドに仕事を奪われたと感じている失業者の集団に襲われる場面も描かれる。

このシーンにショックを受けたという三宅氏は、「現実社会でもAIに仕事が奪われる可能性が問題になるが、実は90年代にコンピュータに仕事を奪われた人のほうが多い」と指摘。「ただ、そういう論理では割り切れない人の感情もある」と複雑な思いを示した。