スマートウォッチを日常的に利用する人を見かけることが多くなってきた。リストバンド型やメガネ型、ヘッドマウントディスプレイ型など、近年さまざまなウェアラブルデバイスが登場している。

IDC Japanの調査によると、2017年には約1億3000万台だったウェアラブルデバイスの出荷台数は、2022年には約2億2000万台に成長するものと予測されている。

そうした中、靴型のデバイスに着目し開発を続けているのが、no new folk studioだ。

同社は、内蔵のモーションセンサで足の動きをリアルタイムに検知し、動きに合わせてソール部分のLEDの光を自由にコントロールすることができるスマートフットウェア「Orphe」を開発している。

AKB48や水曜日のカンパネラなどの有名アーティストによって、Orpheを利用したパフォーマンスが行われたこともある。今回は、no new folk studioでCDO(Chief Design Officer)を務める松葉 知洋氏に、Orphe開発の背景や今後の展望についてお話を伺った。

no new folk studio CDO 松葉 知洋氏

米国のクラウドファンディングサイトで開発資金を調達

no new folk studioは、現在同社の代表取締役を務める菊川 裕也氏が首都大学東京大学院在学中に研究を行っていたLEDスマートシューズシステムの製品化を進めるため、2014年に設立された。

菊川氏の大学時代の後輩で学生時代から付き合いがあったという松葉氏は、その1年後に同社のCDOとして参画することとなる。

Orpheは、約100個のフルカラーLEDとモーションセンサ、Bluetooth通信機能を搭載しており、ユーザーはスマートフォンアプリを利用して、センサから得た動きのデータを、音や光、他のアプリや音楽制作ソフトなどと連携することで、自由にカスタマイズできる。

LEDスマートシューズシステム「Orphe」。スマートフォンアプリと連携し、LEDが光るパターンを変えたり、足の動きにより特定の音をスマートフォンから出したりができる

たとえば、足の動きや音楽に合わせてLEDを光らせたり、靴を電子楽器として用いたり、ゲームや家電のコントローラーとして利用したりなど、アイディア次第でさまざまな使い方が可能となる。もともと音楽をやっていた菊川氏が、足を使って演奏する楽器がほとんどないことに気づいたのがアイディアのきっかけだったという。

会社設立直後にオープンしたDMM.make AKIBAでプロトタイプの開発を進め、2015年4月に米国のクラウドファンディングサイト「Indiegogo」で開発資金を募集。

紹介動画が海外のメディアで大きく取り上げられ話題となり、約11万ドルの資金を集めることに成功した。その後、いわば”逆輸入”の形で日本でも反響が現れはじめた。

デザイナーとしてアプリやロゴなどのグラフィックデザインを担当した松葉氏は、「Orpheのようなこれまで世の中になかったモノを広めていくにあたっては、まずこの製品が何かを定義しなければなりません。現在では、『スマートフットウェア』と呼んでいますが、言葉にして形を与えていくという作業にかなりの試行錯誤を要しましたね」と振り返る。

靴底に配置されたLEDの色は、スマートフォンアプリによって制御できる

ライブからスポーツ業界まで幅広く

ライブパフォーマンスなどのエンターテイメント分野だけでなく、より日常的に使ってもらえるものを――こうした思いから現在では、ランニングを主としたスポーツおよびフィットネス分野への展開を進めている。

具体的には、AI搭載のセンサモジュールを靴に埋め込むことで、足の動きのデータから機械学習を行い、ランニングフォームのコーチングや健康状態のアドバイスへとつなげるプラットフォーム「ORPHE TRACK」の構築を目指す。

ORPHE TRACKを搭載した靴の試作品

中敷きの下、ソール部分の専用スペースにORPHE TRACKが組み込まれている

同モジュールには、モーションセンサや気圧センサ、振動モーターなどが搭載されており、リアルタイムで高精度の運動解析が可能となる。Orpheの特徴であるLEDも、そのまま受け継がれている。

「リアルタイムでの運動解析には従来、大規模なモーションキャプチャの技術が必要でしたが、ORPHE TRACKでは靴のみで高精度解析できることを大学との共同研究で確認しています。これは非常に画期的であると考えています」(松葉氏)

2018年7月には三菱UFJ信託銀行が提供する情報信託プラットフォームの実証実験に参加し、アシックスとともに研究開発を進めていくことを発表している。2019年春にはORPHE TRACKが搭載されたスマートフットウェアの一般発売を開始したい考えだ。

no new folk studioには、最終的にすべての靴をスマート化していきたいというビジョンがある。

松葉氏は「初代のOrpheでスマートフットウェアのさまざまな可能性が見えてきました。スマートフットウェアがまだ踏み込めていない領域は、たくさん残されていると考えています。個人的には、街中を歩いている人たちの靴すべてにORPHE TRACKが導入されている状況になると嬉しいなと思いますね。以前、電車の中でOrpheを履いている方を見つけたときには、嬉しすぎて声をかけてしまいました」と語る。

気づいたら自分の靴の中にもOrpheが搭載されていた――そんな時代が来るのも、そう遠くはないかもしれない。