6月2日、リードエグジビション ジャパン主催の展示会「イベント総合Expo」における特別講演にソニーマーケティングジャパン 執行役員の浅山 隆嗣氏が登壇。『「ソニーファン」創造にむけた、ソニーのマーケティング戦略』と題し、ソニーのマーケティング戦略を解説した。

本稿では、同講演の概要を簡単にご紹介しよう。

高付加価値製品を売るために手法変更

ソニーマーケティング株式会社 ソニーマーケティングジャパン 執行役員 兼 カスタマーマーケティング本部 本部長の浅山 隆嗣氏

ソニーが主戦場としてきた国内のデジタルAV機器市場は、家電エコポイントの施策が終わる2010年をピークに減退を続けている。昨年は2010年当時の約1/3程度。マーケットシェアを増やしても売上が減ってしまう厳しい状況に置かれている。

そうした中、ソニーが選んだ戦略は、高付加価値製品による新たな市場の創造。「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」という同社の理念に合致した、芯の通った施策になる。

近年は、4Kテレビや有機ELテレビ、フルサイズミラーレス一眼カメラ、ハイレゾ対応オーディオ機器など、技術力を活かした新製品を投入。結果として2011年度を底に製品単価の引き上げに成功。年々上昇を続けている。

もっとも、マーケティング担当者からすると高額製品販売は難しい。低価格製品とは異なり、製品スペックと価格を提示しただけでは購買につながりにくい。高画質のカメラや高音質のオーディオの良さは数値に表れるものではなく、体験しないと価値が伝わらないのである。

こうした事情を背景に、ソニーマーケティングではマーケティング方針を大きく転換。商品を中心とした「モノ」のマーケティングから、顧客の体験を中心に置く「コト」のマーケティングへと舵を切ったという。

モノからコトへと、マーケティング戦略をシフト

モノのマーケティングで重視するのは、製品そのものの認知度。テレビなどのマスメディアを使って、新製品をいかに多くの人に知ってもらえるかが大きなポイントだ。

一方、コトのマーケティングでは、製品によって実現できることや経験できることを伝えていくことになる。そのため、ソニーマーケティングでは指標として顧客満足度を重視。購入後も利用価値を高める活動を継続し、顧客の生涯における購買総額である「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)」を引き上げることを目指している。

ライフタイムバリュー向上に向けて、ソニーマーケティングが力を入れて入るのはリアル(現実世界)の接触だ。

オンラインのコミュニケーションで顧客の興味やタイミングを計りながら製品を案内する。そのうえで、「ソニーストアや量販店などのリアル店舗に足を運び、気の済むまで触って、納得するまで体験してもらう」(浅山氏)。購入後は、講習会やコミュニティを案内して活用を促進。商品のファン、ソニーのファンになってもらうことを目指すという。

リアルの価値を高めるべくソニーマーケティングでは、ソニーストアの設置にも力を入れている。昨年4月にソニーストア 福岡天神を、今年4月にソニーストア 札幌を相次いでオープン。既存の東京、大阪、名古屋と合わせ、5都市に拠点を構えた。

リアル店舗で体験会開催、参加者にはすぐに情報送信

講演ではこうした方針の下に、リアルとオンラインを掛け合わせた3つの事例が紹介された。

1つ目は、購入前のファンに向けたアプローチ。ソニーストアで実施する体験会イベントだ。

ソニーマケーティングでは新製品の発表のタイミングで、My Sonyアプリやメールを通じて体験会の案内を送付。ソニーストアへの来店を促し、満足するまで触れてもらうという。

大切なのは、体験会終了後のアプローチだという。ソニーストアでは体験会参加者のメンバーIDを読み取り、社内で「足跡」と呼ぶ参加履歴を残す運用にしている。足跡が記録されるとすぐに、新製品により得られる体験などをメール等で伝達。関心が高いうちに購入意欲を刺激するという方針で施策を展開している。こうした活動の結果、購入率は飛躍的に向上したという。