KDDIとハウステンボスは2月18日と19日、セルラー通信を用いて遠隔地でもドローンを利用できる「スマートドローン」のアイデアソンを長崎・ハウステンボスで開催した。
アイデアソンの開会にあたって登壇したハウステンボス 取締役 CTOの富田 直美氏は、室内で利用できるミニセグウェイに乗りながら登場。さらに、こちらも室内で航行可能な289gのドローンを飛行させる派手なパフォーマンスで、アイデアソン参加者を沸かせた。
「人を幸せにする」という信念
初めに富田氏は「(自身がロボット会社を設立していることから)ロボットやドローンは未来のモノであって、15分じゃ何も話せない」と語り出した。
アイデアソンということで、ドローンが持つ可能性を自由に、無限大に考えることがイベントの趣旨だが、富田氏は冒頭から「ドローン配達って本気になってやるべきだと思う?」と問いかけ、間髪を入れず「僕は思わない。日本で、特に東京で配達とか絶対にありえない」と話す。
富田氏は、以前より陸海空、すべてのラジコンを経験したそうで、ドローンも30機を保有、世界最大のコンシューマー向けドローンメーカーであるDJI製品のすべてを所有しているという。ドローンを概念として見ているのではなく、実体験として”知っている”富田氏は、「1kg2kg(のペイロード)を持つためにどれほどの大きいドローンが必要なのか考えると信じられない」と語る。
「配達ドローンは大嫌い」とまで言い切る富田氏だが、ハウステンボスの親会社であるエイチ・アイ・エスの代表取締役会長 兼 社長(CEO)の澤田 秀雄氏から、ロボットなどを大胆に活用した「変なホテル」のオープン時に「荷物を運んで」と言われ、しぶしぶ製作したそうだ。ただ、製作して改めて配達ドローンの必要性に疑問を感じたそうで、このエピソードを語りかけた上で「世田谷区の上空に、毎日100機、200機と飛行している光景は想像できないだろ?」とアイデアソン参加者に強く迫っていた。
これと似たような話を続ける富田氏。それは「理想のロボットは何か」という設問に対して日本人の多くが回答する答えへのアンチテーゼだ。筆者は「ドラえもん」が浮かんだのだが、「アトム」を挙げる人もかなりいる。富田氏はこのアトムが「理想ではない」と言い切る。
「アトムが嫌な理由。アトムは、どういうエネルギーで動いてるか。原子力だよね。家の中に原子炉持ち込める? それと、両足はジェット、100万馬力もある。それが家にあったらどうなのか。インスピレーションとリアリティのギャップを埋めないとダメなんだ」(富田氏)
富田氏は現在ロボット会社を立ち上げているが、「(現時点で)なんのロボットを作りたいのか自分でもわかっていない」そうだ。ただ、アトムの例にもあるように、現実と理想の狭間を行き来し、実際に試行して改善していくことを重要視している。そして、成果へと結びつけるための思考の根底にあるものは「人を幸せにする」という希望だ。
「アイデアを出すなら、人を幸せにすることを考えるべき。『人を楽にする』と話す人がいるけど、人が楽することは幸せじゃない。人の幸せは、人の能力を出す(発揮させる)こと。みんななんでも自動化する自動化すると話すけれど、僕は自動運転なんか大反対。なぜか、それは運転したいから反対。
運転できる人は運転したいんであって、運転できない人がいるならば、補う技術があるのはいい。アイサイトなんかはとてもいい技術だと思う。自動化だ何だって言ってるから、『シンギュラリティ(技術的特異点)』なんて言葉が出てくる。シンギュラリティは一つの技術のことを表す言葉なんだけど、技術が一つだと正しいかどうかなんてわからない。(PC市場で圧倒的なOSシェアを誇る)マイクロソフトの技術は最高だと思う?思わないよね。
人間が何をしたいのか、何をすべきかというと能力を引き出すことで、他人の真似をすることじゃない。あの先生が言ってるから『◯◯をやります』なんて考えは、ただのその人のコピペになっているだけ」(富田氏)
ドローンの可視飛行制限は「くだらない」
KDDIとのアイデアソンは「ドローン」がテーマ。ハウステンボスというテーマパークでなぜドローンなのか。それは富田氏のドローンに対する愛情と、エイチ・アイ・エスのCTOとしての立場を融合させた結果のようだ。
「ハウステンボスは世界唯一の環境。埋立地でヘドロだらけ、モナコ大の土地を工場として誘致しようとしてた。でもこんな場所に工場建てようと思わないでしょ。そんな土地環境を改善して、土を入れ替えて、水の都にしたのがハウステンボス。COP21なんて言って環境改善を強いてるけど、ハウステンボスは環境を改善しながら、なおかつお客さんを喜ばせている。
それだけの土地の改良をやっていたから、2100億円の借金を抱えた。借金が返せないから赤字だったし、エイチ・アイ・エスに買われた。でもその後に半年で黒字化したし、一昨年は300億円の売上、利益も100億円出た。3月に69歳になる男がこういう場所でCTOやってるし、エイチ・アイ・エスでCIOやってるし、ロボット会社も作った。
本来は引退するような年だけど、(アイデアソンに参加している)若い人たちにラジコン(操作は絶対に)負けないと思うよ。言い切るほどに自信あるし、本気だし、そういう情熱を持って、本気になって(スマートドローンの)アイデアを出してほしい。ドローンなんて、本当は30km先、40km先へと飛ばしたい。
法律で『可視飛行』なんてくだらないこと言ってるけど、KDDIが考えてるセルラー通信を使って映像をFPV(First Person View : 一人称視点)で見られるような技術が本当に重要だと思ってる。改めて言うけど、別に配送ドローンやめろとは言わない。でも『離島にドローンを持っていく』とかエマージェンシー用途を強調して言わないでほしい。『テクノロジー』は空気になることが大事。スマートフォンをマニュアル見なくても利用できるように、そうした技術に昇華することが大事だよ」(富田氏)
日本のドローン産業が勝てないと考える理由
アイデアソンの挨拶後に行われた記者向けの囲み取材でも「富田節」は止まらなかった。
ドローンの可能性について問われると「IoTとかもそうだけど『儲かる』だけで物事を考えたら何も生まれない。『是』『非』を最初から論じていかないとダメ。洋服にセンサーを載せてなんて話もあるけど、ビジネスチャンスだけじゃなくて、お客さんがそれを(気持ち悪いと思わずに)身につけたいと思うか。ドローンも素晴らしいと思うし、ビジネスチャンスもある。だけど、良さがあれば怖さもある。ドローンで撮った映像は綺麗ですよね?でも、目の前にドローンがあると、うるさくてみんな近寄らずに逃げてしまう。どうやったら音が出ないようになるのか、逃げないようにできるかを考えなくちゃいけない」と一気に語りだした。
厳しい意見をドローンに持っている富田氏だが、その可能性を否定しているわけではない。