AIやIoTをはじめとするIT技術が日々新たな展開を見せる今、ビジネスの現場では、以前にも増してイノベーションの必要性が叫ばれている。しかし、「誰もが必要だと思っているにもかかわらず、なかなか変革が進まない」――これが、多くの企業の現状でもある。

イノベーションとは何なのか、どうすれば現場を改革することができるのか。ここでは、10月4日~7日に開催されたCEATEC JAPAN 2016におけるVSN 代表取締役社長 兼 アデコ 代表取締役社長 川崎健一郎氏の講演「なぜイノベーションにつまずくのか~経営と現場視点の融合で生み出す最強の企業改革」をレポートする。

世界で進む第4次産業革命 - 遅れをとる日本の現状

登壇した川崎氏はまず、世界における第4次産業革命の状況から話を始めた。

VSN 代表取締役社長 兼 アデコ 代表取締役社長 川崎健一郎氏

VSN 代表取締役社長 兼 アデコ 代表取締役社長 川崎健一郎氏

第4次産業革命(インダストリー4.0)とは、ドイツ政府が2011年に発表した産官学共同プロジェクトである。「スマートファクトリー(考える工場)」をコンセプトに、ITを活用して製造業の高度化を図ろうというもので、その中核にあるのはIoTの概念だ。特に、産業分野に特化したIoTは「IIoT(Industrial Internet of Things)」とも呼ばれる。

その翌年、米国でも同様の取り組みとしてGEが「インダストリアルインターネット」を打ち出し、2014年にはGE、AT&T、シスコシステムズ、IBM、インテルの5社によってインダストリアル・インターネット・コンソーシアムを設立。いずれの国の活動も、にわかに盛り上がりを見せ始めている。

ならば日本はどうかと言うと、2014年ごろからやっとIoTという言葉が普及し始めたものの、2016年の現在においてもまだ浸透の度合いは浅く、「米国やドイツとは数年の差があります」と川崎氏は指摘する。

ただし、現実にそれらの国の企業がIoTを取り入れ、ビジネスを創出できているかというと、そこにはまだ疑問符がつく。

アクセンチュアの調査レポート「インダストリアル・インターネット・オブ・シングスで成功を収めるために」によると、「IIoTによって新たにサービスベースの収益源を創出する能力が自社にある」と答えた企業が84%もある一方で、「自社がIIoTの領域で具体的な取り組みに着手できていない」とする企業も73%に上る。

動き出せない企業の主張/出典:「インダストリアル・インターネット・オブ・シングスで成功を収めるために」(アクセンチュア)

つまり、多くの企業が「IoTを活用できる自信はあるが、現時点ではまだ着手できていない」と主張しているということだ。だが、本当にそうなのだろうか。

同レポートでは、IIoTの普及に向けてフォーカスすべき点として「産業モデルの見直し」「データの有効利用」「未来の職場環境に向けた準備」の3点が挙げられている。さらに、マネジャー層に求めることは「硬直した体制構造やたこ壺的文化をなくして、組織の壁を越えたより大きな協力体制を構築すること」だとしている。

「最終的にどうしていくのかは人に依存するものです。たとえIoTを導入しても(それだけでは)変革は起きません。テクノロジーよりもマネジメントこそが重要なのです」(川崎氏)

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