ユーザー企業では、設計・開発・運用の大部分を外部に委託することが一般的となっています。それに伴い、調達側であるユーザー企業からは「合意した品質・内容のサービスが受けられていない」という不満の声が、また、サービス提供側であるベンダーからは「合意事項にないサービスを要求される」という声が上がってトラブルとなるケースが続出しています。

一方、政府は行政サービスの調達における根拠のない安値落札から派生する問題に着目し、2001年に「情報システムに係る政府調達府省連絡会議」を設置し、2004年4月に政府調達改善方策をまとめました。その中に「調達管理の適正化」という項目があり、SLA導入の検討が明記されています。これにより、民間企業間の調達においても、次第にSLAが浸透し始めているというわけです。

なぜここでSLAについて触れるかというと、非機能要件は調達・契約時のSLAの締結内容に大きく関係しているからです。誌面の都合上、これ以上の説明は控えますが、参考資料として「情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン 平成16年3月 独立行政法人情報処理推進機構」を紹介しておきます。

非機能要件に関わる評価

先にも触れたように、調達段階ですべての非機能要件が明確になっているケースは少ないです。しかし、契約しようとするベンダーの実績やユーザー企業訪問、あるいはRFI(情報提供依頼)を発行するなどして、できるだけベンダーのスキルについて把握することが大切です。一部ではありますが、提案書において非機能要件にかかわる評価項目の例を以下の表にまとめたので、参考にしてください。

非機能要件に関連する提案書評価項目の例

信頼性・継続性

→様々なトラブルに見舞われても継続して提供できる機能・仕組みを備えているか

障害発生時の対応プロセスが明確に規定されているか。

障害発生時の他システム・他業務への影響の最小化が考慮されているか。

システムダウンによる影響度が予測されており、そのリカバリなどの対策が検討されているか。

災害対策について、具体的な提案がなされているか。

バックアップの仕組みや機器、UPS、ディスクアレイなどの考慮がされているか。

提案したハードウェアが(部品も含めて)、継続的に市場供給される保証があるか。

信頼性、可用性について提示している要件に対して、要件が正しく理解され、具体的で実現性のある提案がなされているか。

性能

設定したレスポンスタイムを達成できることの根拠が明確になっているか。

前提条件を明確にした上で性能が提案されているか。

十分な処理スペックを有したハードウェア構成であるか。

ハードウェアのサイジング根拠に妥当性があるか。

性能について提示している要件に対して、要件が正しく理解され、具体的で実現性のある提案がなされているか。

拡張性・柔軟性

→規模の拡大や機能修正に対応可能か

ハードウェア、ソフトウェアの配置、構成が柔軟で、拡張性を有しているか。

要件の変化に伴う機能修正、機能追加に柔軟に対応できるか。

トランザクション増加に伴う拡張性を有しているか(ソフトウェア、ハードウェア)。

ロードマップ(将来リリースを予定している製品)は考慮されているか。

汎用的なソフトウェアで提案されているか。

拡張性・柔軟性について提示している要件に対して、要件が正しく理解され、具体的で実現性のある提案がなされているか。

以上が、非機能要件に関する説明となります。非機能要件とは、突き詰めれば「ユーザー要求を仕様化した機能要件を長期的かつ安定的に一定品質を保ちながら提供するための機能」と言えます。また、非機能要件は開発工程のうち、主としてシステム運用設計やアーキテクチャ設計のフェーズで実現させるものであるため、この領域で実績があり、この領域のスキルに長けた技術者を抱える企業とのパートナーシップは、今後ますます重要度が高まっていくことでしょう。

執筆者プロフィール

石森敦子(Atsuko Ishimori)
株式会社プライド システム・コンサルタント

『出典:システム開発ジャーナル Vol.4(2008年5月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。