非機能要件を作成するにあたっては、調達側・提供側がその難しさを認識した上で、協力しながら最適解を求めていく姿勢が大切です。さらに、提供側はプロとして、顧客から必要な情報を収集した上で、既存資産、IT戦略、機能要件を通して最適な非機能要件を浮き彫りにしていくことが求められます。その際、以下のような非機能要件の特徴や目的に留意する必要があります。

1.ユーザーの理解を助ける工夫をする

非機能要件は機能要件に比べて作成するのが難しい上、ユーザーに理解してもらうことも困難です。要件定義のフェーズで確立される機能要件に対し、非機能要件を確立していくプロセスはアーキテクチャ設計や運用設計のフェーズで実施されることが多いです。ユーザーに納得してもらうために、設計フェーズで作成した成果物を提示して根拠と妥当性をユーザーに伝えるなどの工夫が必要です。

2.運用中のシステムも考慮して予算を検討する

既存の資産だけではユーザーが要求するサービスやシステムを実現できない場合、新たな投資を検討しなければならないことがあります。つまり、非機能要件はプロジェクトの予算を左右する要素なのです。その時は対象の調達案件に加えて運用中のシステムやインフラとのインタフェースも含め、範囲を広げて長期的に考えなければなりません。開発プロジェクトは本来、単体で最適化を考えるのではなく、全社的な視野に基づいて検討した方が安全かつ有効でしょう。

3.当たり前を維持する

非機能要件を満たす機能や機器は、求められる時間・期間に求められるパフォーマンスを発揮しなければなりません。この期間やパフォーマンスは実現されて当然のことである場合もあります。

例えば、上水道の非機能要件は「365日・24時間、蛇口をひねれば、飲用可能かつ数分以内で浴槽を一杯にできる量の水が、一定に出てこなければならない」となります。この非機能要件は給水に対応できる下水道(排水)の非機能要件にも大きな影響を与えます。こうした水道サービスは「給水、排水できて当たり前」であり、たとえ1年のうちたった1日、1時間停止するだけでも各所に影響を及ぼします。

4.社会的信用の失墜を防ぐ

昨今、企業による個人情報の漏えい事件が後を絶ちません。万が一、個人情報を漏えいしたり、災害によって消失させてしまったりすれば、金銭的な損害に加えて、社会的な信用を失うという、計測不可能な痛手を自社にもたらすことになります。 したがって、自社と顧客の資産を守るセキュリティに関連する非機能要件を適切に洗い出し、それを設計に生かすことは最重要課題の1つです。

執筆者プロフィール

石森敦子(Atsuko Ishimori)
株式会社プライド システム・コンサルタント

『出典:システム開発ジャーナル Vol.4(2008年5月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。