進行状況によって前提条件も変わる
プロジェクトの上流工程で行う見積りにおいて、発注側と受託側の齟齬をなくすために必要なことや見積りの精度を向上させるために実施すべきことなどをこれまでお伝えしてきました。では、これらのことを実行していけば、きちんと見積りの範囲内でプロジェクトを完遂することができるのでしょうか? 答えは否です。見積りは最初だけでなく、それ以上にプロセスも肝心なのです。
ほとんどの情報システム開発のプロジェクトは、上流工程において多くの不確定要素を抱えています。不確定要素はユーザーの要求仕様だけでなく、技術的な課題や開発要員の調達、他システムとの連携方法など多岐に及びます。この状況下で見積もるためには、見積もった際の前提条件を明確にすることが重要だということは本連載の初回でお伝えした通りです。
しかしプロジェクトが進行するにつれて、これらの不確定要素が徐々に確定し、前提条件も変化していきます。そうなれば、当然見積りも変化しているわけであり、この変化を把握し、コントロールしていくことが必要になります。
何度でも見積もり直そう
そのため、見積りは最初だけでなく何度も実施して当初の見積りとのズレを確認し、必要であれば要求仕様やスケジュールの調整、開発要員の拡充などの対策をとらなければいけません。このコントロールこそが見積りを範囲内に収めるコツなのです。
筆者は以前、見積り精度の高かった(当初の見積りと実績との乖離が少ない)プロジェクトでの見積り方法を調査したことがあります。その結果、調査対象のプロジェクトに共通した行動が2つ見つかりました。1つは対象となるシステムの特性に応じた見積り方法を選択していたこと、もう1つは何度も見積もり直していたことです。システム特性に応じた見積り方法とは、そのシステムの肝を押さえた見積りだということです。
例えば、入出力が主体のシステム、内部処理が主体のシステム、企画型パッケージのカスタマイズなどでは、見積りのパラメータとなる要素が異なってきます。精度の高かったプロジェクトでは、「何が増減すればそれがコストや期間に影響を与えるのか」を把握して見積りを実施していました。さらに工程の途中で何度も見積もり直し、その結果を発注側とも共有し、見積りの範囲内で収めるための調整を実施していました(図1)。
一方、見積り精度の低かった(当初予定額からの超過投資、納期の延期など)プロジェクトを分析してみると、当初の見積りが甘く、かつ途中で見積りをし直していませんでした。このようなプロジェクトは100%失敗しています。視点を変えてみると、多少当初の見積りが甘くとも、途中で見積もり直し、見積り内に収める努力をしていけば充分リカバリが可能だということです。上記の2点を総合して考えると、途中で見積りをし直すことは見積り精度向上のために必要不可欠な行動です。
執筆者プロフィール
藤貫美佐 (Misa Fujinuki)
株式会社NTTデータ SIコンピテンシー本部 SEPG 設計積算推進担当 課長。IFPUG Certified Function Point Specialist。日本ファンクションポイントユーザー会の事務局長を務める。
『出典:システム開発ジャーナル Vol.4(2008年5月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。