The Informationの「DOJの反トラスト調査でAppleのRobloxへの対応にスポットライト」というレポートによると、米司法省が2年前から行っているAppleに対する反トラスト法(独占禁止法)を巡る調査で、オンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」に「ゲーム」と「エクスペリエンス(体験、知識/技能)」の違いについて説明を求めたという。

「何のこっちゃ」と思った人が多いかと思うが、Robloxは"ゲーム版のYouTube"と呼ばれるオンラインゲーミングプラットフォームだ。配信されているマルチプレイ対応の多種多様なオンラインゲームを無料でプレイできるだけでなく、子供たちが自分自身でゲームを作成して公開できる。日本での知名度はまだ低いものの、欧米では知らない小学生男子を見つけるのが難しいほど浸透している。そのRobloxが今年の春に、Webサイトやアプリなどあらゆる場所で「ゲーム」という言葉を使うのを止めて「エクスペリエンス」など他の表現に変更した。

今年の春といえば、Epic GamesがAppleを訴えた裁判の第1ラウンドの真っ最中。法廷闘争においてEpicは、App StoreでRobloxの配信が認められていることをとり上げて、ゲームの集合体であるRobloxが認められるなら、独自のゲームストアの提供も認められるべきだと主張した。そのタイミングでRobloxが配信しているコンテンツをゲームと呼ぶのを止めたのだ。

Robloxで遊んでいる子供に聞いたら、10人中10人がRobloxのことを「ゲーム」と呼ぶだろう。それなのに「ゲーム」という言葉を使うのを止めたのだから、不適切な圧力や事業があった可能性がある。米カリフォルニア州北部地区の連邦地方裁判所での一審裁判は9月に判決が言い渡されたが、独占問題を調査する司法省がRobloxの表現変更に関心を持ったというわけだ。

  • ホストしているコンテンツを"ゲーム"ではなく"エクスペリエンス"と表現

    ホストしているコンテンツを"ゲーム"ではなく"エクスペリエンス"と表現

訴訟の資料によると、2014年にApp Storeのアプリ審査においてRobloxのサービスがガイドラインに抵触する可能性が議論されたが、最終的にRobloxが修正を加えることなくアプリは承認された。RobloxのゲームはRoblox以外の場所で単独で配信できるものではなく、ゲームはRoblox内で動作してOSに影響を与えない。また、Robloxのコンテンツを作っているのはゲーム開発者ではなく、プレイヤーでもあるコミュニティメンバー達であり、創造がテーマになっているという点でMinecraftの体験に近いことから、Robloxユーザーのプロジェクトはゲームの定義に当てはまらないと判断された。

今年の春からRobloxのWebページやアプリでは表現が以下のように変わっている:

  • Games → Experiences
  • Games → Discover (Webサイトのタブでの表現)
  • Playing → Active
  • Continue Playing → Continue
  • Join Games → Join
  • Friends playing → Friends visiting

変更のタイミングを考えるとEpicの裁判でスポットライトが当たったことがきっかけである可能性は高い。だが、The Informationで指摘されているような突然の変更だったかというと、以前からRobloxはゲーミングプラットフォームにとどまらず、メタバースを目指していることを公言しており、しばらく前からRobloxは同社のサービスのコンテンツやアクティビティを「エクスペリエンス」と表現し始めていた。

2020年にIPO目論見書の中で、RobloxのDavid Baszucki氏(CEO)は次のような記している。

「私たちのビジョンは、メタバース・プラットフォームで異なる人生経験を持つ人々を新しく興味深いアイデアで結びつけることです。人々が多様な意見を聞き、安全な環境で異なる視点に触れることで、そのようなつながりが共感を生むと信じています。そしていつの日か、メタバースがより幅広い教育的または社会的な経験をサポートすることで、世界中のすべての人々にチャンスが広がることを願っています」

  • Robloxの創設者の1人でありCEOのDavid Baszucki氏

Webページやアプリの表現を全て変えたのはEpicとAppleの訴訟の影響がきっかけかもしれないが、ゲームの会社が「ゲーム」という表現を禁句にするのは子供達に自身のことを伝えるのを放棄するも同然である。App Storeでの配信を継続するための苦肉の策であったり、Appleへの忖度でゲームの会社がそこまでやるのはリスクでしかない。Robloxのビジョンを踏まえると、EpicとAppleの裁判でゲーミングプラットフォームの烙印を押されそうになったのをきっかけに、Robloxは仮想世界のオンラインコミュニティの会社であることを明確に打ち出し始めたと考えるのが自然だ。

  • Robloxの世界がアバターを通じた交流の場に

この分野では最近、FacebookがMetaに、SquareがBlockに社名を変更したのが話題だが、それよりずっと前にRobloxはメタバースの会社を宣言していた。とはいえ、今もRobloxのコンテンツはゲームに占められ、ウチの子供はRobloxのことをゲームと呼んでいる。しかし、小学生にして達者にメッセージを交換し、友達と1日中つながり、いつの間にかデジタルリテラシーも身につけている様子を見ていると、彼らにとってRobloxは"社会的メディア"であると言いたくなる。