「申し込みはオンラインで簡単にできるのに、退会は複雑で苦労した」、「期限を明記していない”期間限定”メッセージで購入を促された」、「無料トライアルのつもりで申し込んだらサブスクリプションが契約されていた」… オンラインサービスで、そのような経験はないだろうか。分かりにくくしたり、煽ったり、誘導またはミスディレクションしたり、Webサイトやアプリで消費者を心理的に欺く手法は「ダークパターン (Dark Patterns)」と呼ばれている。カリフォルニア州で3月15日に、ダークパターンを禁じる初の法令が発効された。

これはカリフォルニア州の消費者プライバシー法「California Consumer Privacy Act(CCPA)」を強化する規制だ。同州ではWebサイトやアプリが収集した個人情報の販売をユーザーがオプトアウト(拒否)する権利を認めているが、その権利がダークパターンに阻害されてしまう可能性がある。ダークパターンを禁止することで、「消費者がデータプライバシー権を行使しようとする際に混乱や誤解を招かないようにする」と、同州のXavier Becerra司法長官は述べている。CCPAを遵守していないと判断されたビジネスには「修正通知」が送付され、30日以内にサービスを修正する猶予が設けられる。

  • 「個人情報販売のオプトアウト」を迷路のように分かりにくくする行為が禁止に

ダークパターンを規制対象とした初めての法令になったが、ダークパターンには様々な行為が該当し、定義が難しい。CCPAの場合、「消費者が簡単かつ最小のステップで実行できる方法でオプトアウトを受け付けなければならない」としており、「消費者のオプトアウトの選択を誤認させる、または阻害するようにデザインした方法または実質的な効果」を禁じている。具体的には、以下のようなダークパターンの例を挙げている。

  • 個人情報の販売をオプトインするよりも多くのステップをオプトアウトに要求
  • 二重否定のようなまぎらわしい言葉の使用(例:Don't Not Sell My Personal Information:個人情報の販売拒否を許可しない)。
  • ユーザーがオプトアウトを実行する前にクリックスルーさせたり、オプトアウトしない方が良い理由を確認させる。
  • オプトアウトの方法を見つけるのにプライバシーポリシーやヘルプページなどを検索、またはスクロールし続けさせる。

例えば、ダークパターンの例としてよくAmazon Primeの退会プロセスが挙げられる。FacebookやGoogleがユーザーにデータを提供させるよう誘導しているという指摘もあった。最近のサービスだと、投資アプリのRobinhoodが投資を促す手法もダークパターンに当てはまると言われている。

ダークパターンはネットユーザーの日常に存在し、カリフォルニア以外の州や連邦議会でもダークパターンに関する規制強化を求める動きが活発化している。では、これから規制が拡大していくかというと、その可能性は低い。というのも、ダークパターンは心理的なトリックであり、多くは違法行為ではない。カリフォルニアの場合、プライバシー法にからめ、同法における適切な保護を阻害する行為に限って規制が行われた。ダークパターンというだけで、その行為全般を禁止するのは難しい。

では、ダークパターンがこのまま蔓延るのかというと、人々のプライバシー保護意識の高まりが脱サードパーティCookieを後押ししたように、ダークパターンの問題に対する注目の高まりが効果的な対策になり得る。ダークパターンは短期的にビジネス目標を達成できても、長期的にはデメリットになるケースが多いからだ。不満を覚えたり、騙されたと感じた消費者はクレームをつけたり、商品の返品を求める。それらへの対応を疎かにするのもダークパターンの1つだが、無視するわけにはいかない。カスタマーサポート、返品や払い戻しの費用がかかり、顧客はリピーターにならず、SNSなどで問題を公表する。本当に価値のあるサービスや商品を扱っているなら、ダークパターンを使うデメリットはメリットを大きく上回る。

  • ディスプレイにゴミが付いているように見せかけてタップさせる、詐欺的に近いダークパターン(出典:darkpatterns.org)

そしてダークパターンの問題が知られるようになれば、いつでも簡単に退会できるようなキレイなサービスに対する評価が上昇する。例えば、Netflixは昨年春、長期間サービスを利用していない契約者(新規契約から1年以上、または2年以上視聴していない状態)に対して、サブスクリプションを継続するかメールで尋ね始めた。そこでキャンセルしたいと伝えるか、メールに返信しなければ課金が自動的に停止する。使っていないのに料金を支払ってくれる契約者を失うことになるが、こうした透明なサービスであるという評判からトライアルし始める人が増え、信頼が長期的な成長につながる。