昨年10月~12月期の決算発表でAppleが、スマートフォンメーカーの勢力図を変えるような爆弾を落とした。同社のデバイスのアクティブ端末数が1月時点で13億台に到達したことを明かしたのだ。アクティブ端末数というのは、ユーザーが実際に使っている端末の台数である。

FacebookやTwitterなど、オンラインサービス企業は決算発表時にアクティブユーザー数の公表し、それが投資家やアナリストがサービスの伸びを分析する材料になっている。だが、デバイスメーカーはアクティブ端末数の公表を好まない。Appleも節目の数字や過去にiPhoneの販売台数の伸びが5%にとどまった際に「インストールベースは二桁の伸びだった」というように言及したぐらいで、今回のようにアクティブ端末数を強くアピールしたことはなかった。

MicrosoftでWindows 7の開発を率いたSteven Sinofsky氏によると、デバイスメーカーが公表しないのは競争の物さしが変わってしまうから。ビジネス戦略にも大きく影響するので慎重にならざるを得ない。

販売台数だけを比べると、AppleとSamsungは伸び悩んでいるように見える。Gartnerによると、昨年のホリデーシーズンに、同社が2004年に調査を開始してから初めて第4四半期にスマートフォンの販売台数が前年同期比で下落した。GartnerのAnshul Gupta氏によると「フィーチャーフォンと競争する廉価帯のスマートフォンは品質が乏しく、高品質なフィーチャーフォンが好まれ、フィーチャーフォンからの買い替えが鈍化した」、そして「高品質な機種を購入して長く使い続けるスマートフォンユーザーが増え、スマートフォンの買い替えサイクルが長くなった」。Appleが昨年発表した「iPhone X」は大きな話題になったものの、999ドルからという価格が嫌われ今年に入って減速していると報じられている。Gartnerのランキングで、販売台数を伸ばしたのはHuaweiやXiaomiなど、手頃な価格帯で高機能端末を提供している中国メーカーである。成熟期を迎えたスマートフォン市場は、このまま低価格競争へと突入するように見える。

  • スマートフォンの販売台数がホリデーシーズンの第4四半期に初めて前年同期比で下落 (出典: Gartner)

しかし、アクティブ端末数に目を向けると、今日のスマートフォン市場の違った面が見えてくる。

Appleのデバイスは2年前にアクティブ端末数が10億台を突破しており、iPhoneの販売台数が横ばいに近づいた期間にも約30%増加した。では、アクティブ端末数が何を示すかというと、AsymcoのHorace Dediu氏によると、製品に対するユーザーの満足度や支持が明らかになる。

Appleデバイスのこれまでの累積販売数は約20億5000万台。1月時点のアクティブ端末数が13億台だから7億5000万台が使われなくなったことになる。累積販売台数が7億5000万台だったのは2013年の第3四半期。それからこれまでの17四半期 (4年3カ月)を1月時点のAppleデバイスの寿命 (lifespan)と見なすことができる。Macを含むとはいえ、これはとても長い。

  • Appleが公表してきた販売台数と新たに公表したアクティブ端末数からAppleデバイスの製品寿命を算出 (出典: Asymco)

同じように過去のAppleデバイスの製品寿命を推測すると、2013年の第3四半期はわずか5四半期 (1年3カ月)だった。それから伸び始めて、今の17四半期に至る。買い換えサイクルの延びも理由の一つだろうが、それでも多くの人が2~3年のペースでiPhoneを買い換えている。17四半期もの長い寿命となったのは、同じデバイスが第2・第3の所有者の手に渡るようになったから。中古市場や再調整品を提供する仕組みが充実し、新品ではなく、中古/再調整品を求める人が増えたことも大きな要因である。

  • Appleデバイスの製品寿命の推移 (出典: Asymco)

SamsungのD.J. Koh氏も最近のインタビューで、中古製品の需要の高まりから製品ポートフォリオを見直していることを認めている。同社は市場によって、廉価帯や普及帯の新製品ではなく、フラッグシップモデルの再調整品の提供に力を注いでいるそうだ。

中古/再調整品の需要増をハイエンド製品の「魅力不足」と見る向きも少なくない。しかし、ハイエンドの高い製品を買う必要がないなら、同じような機能を提供する低価格な製品にもっとユーザーが流れ、Appleのアクティブ端末数も下落しているはずである。実際にはその逆で、スマートフォンなら何でも良いのではなく、「iPhone」や「Galaxy」にこだわる人が増えている。Dediu氏は、アクティブ端末数から「Appleのビジネスの価値が読み取れる」としている。