2008年11月にサンフランシスコで開催された「Adobe MAX 2008」のロードマップセッションで、「Meermeer」という開発中の製品のデモが披露された。Webブラウザのプレビューを表示するオンラインサービスだ。

WebページやWebアプリケーションを作成したら、主要なWebブラウザでの表示または動作を確認する必要がある。Windows PCとMacで、Internet Explorer、Safari、Firefox、Operaなどで開いてみる。まだ使用されている可能性がある過去のバージョンも対象にすると、さらに大変な作業になる。その苦労を緩和してくれるのがMeermeerだ。ログインしてファイルまたはURLを指定し、プラットフォームとブラウザを選択するだけで、その環境でのプレビューが表示される。デモでは、異なる環境を並べて比べるサイドバイサイド、重ねて比べるオニオン・ビューなどの表示方法が披露された。

Webブラウザプレビューのオンラインサービス「Meermeer」にログイン

バージョンの異なるFirefoxでの表示をサイドバイサイドで表示

PC用Webブラウザでの表示確認のひと手間のために、専用サービスと契約するのはもったいないと思う人もいるだろう。プレビュー用に仮想ソフトを使ったパソコンを整えておけば、マシンを変えなくても一通り確認できる。それに主要Webブラウザの標準準拠が進む昨今、クロスブラウザの実現は以前ほど難しくなくなっている。それでは、なぜ今AdobeがMeermeerなのかというと、同社はPC以外のWebブラウザも視野に入れているのだ。

今日フルHTMLブラウザを搭載する機器は、PC、スマートフォン、PDA、ゲーム機、セットトップボックスなどに広がっている。MAXの基調講演でAdobe CTOのKevin Lynch氏は、「ブラウザ戦争と形容される状況で、しばらくは(フルブラウザの)種類が増えることはあっても減りはしないだろう」と述べていた。すでにiPhone 3Gのようなモバイル版フルHTMLブラウザを搭載した多機能携帯での表示確認は必須になりつつある。これまで「クロスブラウザ」に配慮していたように、今後は「クロスデバイス」のサポートが必要になってくる。そうなると、Meermeerのように手軽かつ正確に表示や動作を確認できる方法が貴重になる。

iPhoneはWebに非ず

先週参加したAdd-on-Conでも、Mozilla、Microsoft、Googleが参加したパネルセッションで、モバイルを前提としたクロスデバイスが話題になった。「オープンネスがWebブラウザの進むべき道である」という点で3者の意見が合致し、それはモバイルブラウザでも同じだった。GoogleのChromeのプロダクトマネージャーであるBrad Rakowski氏は「デスクトップ(PC)Webが、今後のモバイルWebの進むべき方向になると確信している」と述べ、モバイル用フルブラウザの成長に期待していた。Googleの場合、iPhoneでのモバイル検索で表示される広告をPC用のページにリンクさせるオプションをAdWordsに用意するなど、すでに積極的にモバイル用フルブラウザをサポートしている。

そのiPhoneの評価については意見が分かれた。GoogleのRakowski氏が、エンドユーザーにモバイルWebを広めた功績を称えた一方で、MozillaのMike Shaver氏はプロプリエタリーな技術、アプリケーションやコンテンツに制限のあるiPhoneはウエブの進むべきオープンな道の障害になっていると手厳しかった。たとえば今やPC用Webでは至るところで見られるFlashがiPhoneでは使えない。これでは「Webを使える」とは言い難い。Webブラウザの進む方向がオープンネスであり、クロスデバイスがモバイルを含むWebのイノベーションにつながるという視点から評価すれば、やはり「今日のiPhoneはWebではない」(Shaver氏)となる。

ただ制限はあるものの、iPhoneに最適化されたアプリやサイトがモバイル環境で快適に利用できるのも事実である。一方で「デスクトップWebがモバイルWebの進む方向」と言われても、何か使いにくそうだなと思ってしまう。オープンネスを維持しながらPCのように快適にPC用Webを利用できるモバイルデバイスがあるかというと、答えに窮するのが現状だ。今日ならさし当たりネットブックが思い浮かぶが、ほとんどの製品は超低価格のミニノートにとどまっている。

昨年から今年にかけてスマートフォン/多機能携帯やネットブック市場が急成長したものの、その変化はまだ序章に過ぎないということだ。Webのオープンな未来を見すえて、快適なクロスデバイスを実現するように設計されたハードウエアの登場が期待される。Good OSの「Cloud」が搭載されるというGIGABYTEのタッチスクリーン搭載ネットブックには惹かれるものがあるが、実物に触れていない現時点ではまだくすぶっている程度だ。