「アノニマスとは何か?」について解説する集中連載の2回目。今回は、アノニマスの抗議方法について説明します。

著者プロフィール

辻 伸弘氏(Tsuji Nobuhiro) - ソフトバンク・テクノロジー株式会社


セキュリティエンジニアとして、主にペネトレーション検査などに従事している。民間企業、官公庁問わず多くの検査実績を持つ。

また、アノニマスの一面から見えるようなハクティビズムやセキュリティ事故などによる情勢の調査分析なども行っている。趣味として、自宅でのハニーポット運用、IDSによる監視などを行う。

Twitter: @ntsuji

アノニマスの抗議方法

筆者はアノニマスなどの特定の組織や団体、集団を擁護しているわけではありません。この集中連載では、事実を事実として皆さんに知っていただければと考えています。

アノニマスのトビラ(1)

どうしてもメディアで「国際的ハッカー集団」とされてしまうアノニマスですが、その抗議手段は様々です。以下に、過去に用いられた抗議手段をいくつか紹介します。まずはハッキングとも言える手段から見てみましょう。

  • 情報漏洩(Leak)

抗議対象となった組織などから情報を盗み出し、その情報をネット上に公開する抗議手段。多くの場合は抗議対象となるWebサイトの脆弱性(SQLインジェクション)を利用し、データベースの内容を盗み出すというもの。

盗み出した情報をネット上に公開したとTwitterなどで喧伝するケースもあります。

  • (D)DoS

サーバの脆弱性や設定不備を悪用するほか、大量のアクセスを行い、負荷をかけることでサーバへの通常のアクセスをさせないようにする抗議手段です。

多くのケースでWebサイトをダウンさせており、それが攻撃によるものとTwitterなどで喧伝することがあります。その際には「#TANGODOWN」というハッシュタグが用いられる場合があります。

  • Webサイト改ざん(Deface)

Webサイトやその関連ソフトウェアの脆弱性を利用してページを改ざん、追加するものです。自分たちの主義主張を掲示するという抗議に出るわけですが、こちらも前述した抗議手段と同様にTwitterなどで広めることもあるようです。その際によく用いられる言葉として、"改ざん"の意味を持つ「Deface」「Defaced」があります。

次は、「ハッキング」と異なる抗議手段について紹介します。

  • デモ

決められた場所と時間に集まり、オフラインで行う抗議デモ。過去には世界の複数の都市で同じ目的で行われたものもあります。参加者はアノニマスの象徴ともいうべきマスク(映画:Vフォー・ヴェンデッタの主人公が被っているマスク)を被ってプラカードなどを持ち抗議を行います。

日本ではデモという形ではないものの、違法ダウンロードの刑罰化への抗議として2012年7月7日に渋谷でオフ会と称した清掃活動が行われました。

  • 特定(Dox)

抗議の対象となっている組織の人物や個人を調査し、その情報を暴露する抗議手段。

暴露される情報としては、その個人のハンドルネーム(ソーシャルメディアのID)や本名、住所など。過去にはヘイトグループとされている団体のメンバー情報を多数公開したこともあります。

  • TweetStorm

日時を決め、"特定のキーワードを賛同する者たちでTweetする"という、いわゆるTwitter上のデモ。特定のアカウントに対してメッセージ(メンション)する場合もあります。

ツイートする内容を事前にネット上で共有。自分たちの主義主張を伝えるという目的がありますが、特定のキーワードやハッシュタグをトレンドキーワードに押し上げて、多くの人の目に触れるようにするという目的もあります。

アノニマスは単一のグループではないからこそ、抗議の手段が多様に存在する

いくつかの抗議手段を紹介しましたが、紹介した中には多くの国で違法とされるもの、そうでないものがあります。メディアで取り上げる内容の殆どがハッキングで、「アノニマス=ハッキング」という印象をお持ちの方が多いのだと思います。

しかし、アノニマスの作戦の中には違法なことを行わず、合法的な手段で抗議を行うというポリシーの行動も存在します。日本で行われた掃除もその1つといえるでしょう。

ハッキングという手段を用いず、抗議も行わない変わり種の作戦としては「OpSafeWinter」というものがあります。

この作戦は、世界中のホームレスに対して食糧や金銭など、生活に必要なものを提供して「安全に冬を越してもらおう」という意図があるようです。

紹介してきた多くの作戦では、行動する宣言として抗議文やグラフィック(フライヤーなど)、ビデオを作成し、公開します。それらの中にはクオリティが高いものも多いことから、客観的に見ていて人の心を惹きつけることもあるのかなと感じます。

そして、彼らの抗議行動の目的には、色々なアクションによって人の注目を集め、自分たちの主義主張や問題意識を多くの人に届け、広めるという要素が含まれています。

前回、アノニマスは「世界的な抗議共同体」ということを書きました。抗議するということだけであれば、そこには違法も合法もありません。その抗議に用いる手段によって違法、合法が判断されるわけです。

○○の人は××が嫌い。

(あえて何かと明示しません。○○と××には皆さんが思い浮かべる言葉を入れてみてください)

こういった言葉はよく見聞きしますが、必ずしもそうではないと思います。中には好きな人もいるでしょう。それはアノニマスも同じなのだと思います。色々な人が集まっては離れ、それぞれのルールや方法で抗議を行い、消えていくという存在なのだと思います。

筆者は別段アノニマスを擁護しているわけではありません。「事実は事実」として、皆さんに知っていただければと考えています。

次回は、過去に日本がターゲットになった作戦から起きた誤認について解説します。