2012年3月にCordSmartClipというユニークな製品が発売された。2007年に創業された株式会社PowerWaveが開発したポータブルオーディオで使用するイヤホンのコードを絡まることなく手軽に収納することができる製品だ。小さくて目立たない縁の下の力持ちだが、多くのイヤホンのユーザの悩みにフォーカスしたこの製品には、大岡歩夢社長のデザインと素材へのこだわりが詰め込まれている。そのこだわりを実現したのが超短納期射出成形サービスのProtomoldだ。
課題
- 機能の実現に必須な素材を用いた製品の製造
- 図面を作成することなく3Dの製品データから直接加工できる能力
- 生産における柔軟なロット数の調整と製造コストのバランスの実現
解決
- 設計者自身が持ち込んだ材料を使える射出成形サービスの活用
- 3Dデータをアップロードすることで成形性を検討できるProtoQuote
- 10個でも1万ショットでも柔軟に対応できるProtomoldの活用
洗練されたアップル製品に匹敵する製品開発を目指す
モノづくりに携わる父親の後ろ姿を幼い頃から見ていたPowerWave社長の大岡歩夢氏が、IT業界を卒業して商品開発を主軸に据えた企業を設立したのは思いつきではない。以前から思い描いていた本気でこだわったユニークな製品送り出すべく2007年に起業した。
同社の商品開発に大きな影響を与えたのがiPodなどのアップル製品だ。初めてiPodを見た時に、そのシンプルさと洗練度に衝撃を受けた大岡氏は、そのアップル製品にふさわしい周辺商品を開発しようと考えた。
CordSmartもそのコンセプトに基づいている。ポータブルオーディオが全盛の今、イヤホンのコードが絡まることに悩まされる人は多い。大岡氏も例外ではない。それにも関わらず、既存のソリューションはどれも面倒に思えたのだ。特に高級イヤホンではこれといったソリューションもない。これを見事に解決し、カバンから取り出してすぐにイヤホンを使えるようにしたスマートな製品がCordSmartなのだ。
3Dデータをフル活用できるモノづくりが実現
2012年3月に発表されたCordSmart Clipは、その形状に加え、デザイン、そして素材にまでこだわった製品だ。その開発のスタートは塩ビの板から始まる。自分のアイデアをベースに塩ビをカットして作成したのだ。そしてその出来は大岡氏が理想とする美しさからはほど遠かった。
しかし、今回発表した製品では、厚みやサイズに始まって、溝の入れ方からフィレットのかけ方などのこだわりが洗練された美しいフォルムを実現している。当初は図面も読めなければ設計もできなかった大岡氏は壁にあたったが、3D CADに出会った。幸い3D CADの操作を学ぶ機会に恵まれたこともあって、積極的な活用を始める。それがProtomold射出成形サービスの活用にも役立った。Protomoldでは図面を必要としないが、3Dデータが必須であり、設計した形状が成形される仕組みになっている。
こだわりの材料を活用できる射出成形サービスとの出会い
形状設計がまとまってきたものの、実際に製造を考えはじめた時に課題となってきたのが、使用する樹脂の選定である。当初樹脂に関する知識が全くなかった大岡氏は、塩ビを使うと相手側の素材にダメージを与えることを指摘される。そこで大岡氏は材料探しを開始し、苦心の末G-Shockにも使われている「ドイツ BASF社のエラストラン®」の「TPU」という素材に巡りあう。しかし、ハードルは続く。今度は、この素材を使って射出成形を受けてもらえる委託先が見つからない。
あきらめかけていた時に出会ったのが、プロトラブズ社の超短納期射出成形サービスの「Protomold」だ。樹脂の持ち込みに対応してもらえただけでなく、サイドバイサイドでプロトラブズ社の技術者が、大岡氏のこだわりの厳しい要求に応えるべく、ゲートの位置や表面の仕上げなどの提案を行い、早いサイクルで試作を行った。「製品設計から樹脂の選択など、まだ当時は素人同然でしたが、解析やITなどを活用してサイクルを回すコミュニケーションは、IT出身の私にとって正しいと感じた好感の持てるやり方だと思っています」と大岡氏は語る。このプロセスによって、生産に入る頃には理想と考える仕上がりにたどり着いた。
「CordSmart Clip」は、イヤホンコードを鞄に収納する際に素早く簡単に携帯機器に巻き付け、絡まない状態にしておくことを簡単にするクリップ。鞄から取り出す時に、いつでも素早くストレスなく利用できる。 |
小規模生産の悩みであるロットの柔軟なコントロールが可能に
試作を経て、生産ということになったとしても、即大量に生産というわけにはいかない。まずは小ロットからはじめたいメーカーにとって、数量は悩みの種だ。実はProtomoldを使うメリットはそこにもある。大岡氏はプロトラブズ社のサービスを使うメリットは、試作から生産まで連続的に任せられることだと言う。さまざまな企業に相談をしたが、材料は少なくとも数百キロから、ロットも最低数千個からと言われてしまう。それが前提条件として見積もりが提示される。スタートアップフェーズにある企業ではさらに壁が高くなる。しかしProtomoldを活用すればロットのコントロールができる。製品化したばかりの時は、一度にたくさんつくることは難しい。少量の材料を仕入れ、その量に対応する小ロットの生産をしてくれるサービスが必要だ。CordSmart Clipの試作から生産へ繋げたのがProtomoldなのだ。
Protomoldのメリットはそれにとどまらない。ProtoQuoteというインタラクティブな見積もりシステムを活用することで、生産個数を変えながらシミュレーションができるため、損益分岐点を正確に把握することができ、また何個取りが良いのかということのシミュレーションも可能である。このようなビジネス上も意義あるサービスで対応できたのはProtomoldだけであったと言う。Protomoldに出会ったことが、CordSmart Clipという製品の実現につながったのだ。
大岡氏は、小規模な会社や個人が自分の持つ尖ったアイデアを活用して製品化できる、プロトラブズのようなITを積極的に活用した小回りのきく製造を支援するサービスが拡がって欲しいと語る。「中小企業がアイデアを具現化できるソリューションが拡がることで今の閉塞感も打破されると思います」と続けた。PowerWave社も一層積極的にオリジナリティにあふれた製品の展開にさらにProtomoldを活用していくようだ。
株式会社 PowerWave
IT業界出身の大岡歩夢社長によって2007年に創業された。「見えづらい部分に光をあて、日本のオリジナリティを活かした商品」の企画開発から販売までを行う独立系のメーカーである。CordSmartという現代人に欠かすことのできないポータブルオーディオのイヤホンコードの絡まりという悩みに焦点をあてた身近な製品にとどまらず、天気管や、防災関連の商品など、幅広くオリジナル商品の製品開発を積極的に推進している。
本連載は、「日経ものづくり」2012年10月号に掲載されたコンテンツを再編集したものです。
プロトラブズおよびProtomold射出成形の詳細:http://go.protolabs.co.jp/