ローコーディング・ツールの登場で、アプリ開発の敷居が下がり、業務改善に向けたアプリ開発をはじめた方も多いと聞きます。その反面、セミナーを受講したり、専門書を読んだりしているのに、なかなかアプリ開発に踏み出すことができないという声もよく聞きます。

開発ツールの使い方については、ネット上にたくさんの情報が流れていますし、わかりやすくまとめられた専門書も数多く存在します。学習に時間をかければ、独学でもある程度の技術力を身につけることができます。ところが、ある日突然、会社に業務改善を求められ、アプリ開発の依頼を受け、何から始めたらよいのかがわからなかったり、せっかく開発したアプリも使い続けてもらえなかったりすることがあります。

アプリ開発においては、コーディングや開発ツールを使いこなすために必要な技術力を身につけることは当然ながら、ほかにもさまざまなスキルが求められます。利用者から課題を引き出し、アイデアを出して企画・提案をする能力や、利用者の目線に立って設計をする能力も求められます。このようなスキルを身につけるには、アプリの利用者の声に耳を傾け、試行錯誤をしながら開発経験を積んでいく必要があります。

一般的に、企画力、提案力、設計力といったスキルは、しっかりと時間をかけて身につける必要がありますが、少しでも早くスキルを高めたいのであれば、「開発をシミュレートする」という方法があります。具体的には、ロールプレイングをはじめさまざまな方法がありますが、お勧めしたいのが「ハッカソン」です。

ハッカソンとは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせて造られた造語です。ITエンジニアやデザイナーなどが集まってチームを作り、特定のテーマに対して意見やアイデアを出し合い、限られた期間内でアプリやサービスを開発し、その成果を競い合うイベントとされています。

これをアプリ開発に応用すると、利用者へのニーズヒアリングから、企画、設計、提案までの一連の流れを短期間の内にシミュレートすることができます。

私の所属する会社で、若手技術者にアプリ開発力を身につけてもらうという取り組みを行いました。そこでも、企画力や提案力をどのようにスキルアップをするべきかという課題があがりました。メンバー全員にハッカソンに参加をしてもらうことで、その課題を克服するためのきっかけを得てもらうことになりました。今回は、その様子を少しだけ紹介いたします。

取り組んでもらったテーマは「誰かのために役立つアプリをPower Appsで開発しよう」です。企画力や提案力の向上が目的ですので、アプリは完成しなくても、試作品レベルでもOKとします。利用者のためのアイデアをどれだけ発表内容に盛り込めたかが評価のポイントです。

通常、ハッカソンでは、会議室やセミナールームなどを利用して参加者を集めます。しかし、今回は新型コロナウイルス対策のため、Microsoft Teamsを活用し、参加者全員がリモートで参加をする方法で行いました。

本来であれば、参加者がチーム毎のテーブルに分かれて、ディスカッションをしながら成果物を作成し、講師が時々その様子を伺いながらアドバイスをするのですが、今回のようなリモート環境では以下のような手順で行っています。

  1. Microsoft Teams上にハッカソン専用のチームを作成し、メンバー全員を招待する
  2. テーブルの代わりにチャネルを作成して参加者を割り当てる
  3. ディスカッションはチャットやビデオ会議を使用する
  4. 講師はチャネルを巡回しながらアドバイスをする。QAチャネルも設ける
  5. 発表資料などのドキュメントの共有は各チャネルの「ファイル」を使用する

今回参加者したメンバーは15名。1チーム3名の合計5チームで競い合う設定です。メンバーの役割は、このように設定します。

  • リーダー:進行役。全体意見の取りまとめ
  • 開発担当:Power Appsアプリの開発をメインで担
  • 発表担当:発表資料の作成と発表を担当

※利用者へのヒアリングとアイデア出し、アプリの設計はメンバー全員で行います。

まず、事前勉強会を実施します。ハッカソンに参加をするのであれば、成果物を作成するための技術知識が必要になりますが、Power Appsを使用したアプリであれば、30分程度の簡単なレクチャーで、誰もが開発のスタートラインに立つことができます。今回は、このようなアプリ開発を参加者全員にハンズオン形式で学んでもらいました。

業務報告アプリ

  1. 業務報告に必要な項目をExcelの1行目に書きます(例:開始時間、業務内容、上司コメント)
  2. テーブルとして書式設定しOneDriveに保存します
  3. Power Appsの機能でExcelファイルからアプリを作成します
  4. アプリのレイアウトを整えて保存します
  5. アプリから業務報告が出来ることを試してもらいます

※具体的な方法を知りたい方は、本連載第4回を参考にして下さい。

準備ができたら、ハッカソン開始です。ハッカソンは1日かけて行うものもあれば、数日間かけて行うものもあります。今回のPower Appsハッカソンは約2時間という非常に短い時間にもかかわらず、結果としては全チームがアプリの試作品を完成させることができました。いくつか紹介をさせて頂きます。

食事記録アプリ

食事内容や摂取カロリー、体重などを管理するアプリです。在宅ワークで運動が不足しがちな社員のために開発。日々入力された情報をグラフ表示することも出来ます。

作業スペース予約アプリ

技術スタッフのための作業スペース予約アプリ。作業内容や清掃記録などOutlookの予定表では管理が難しい機能をアプリでカバーしています。

最後にチームごとにアプリの発表を行い、講評をしてハッカソンは終了となります。

ここで紹介したアプリは、プログラミングを一切しておらず、テキストラベルや入力フォームをドラッグ&ドロップで並べたり、Excelで使用するような関数を設定したりするだけで完成します。Power Apps は、思いついたアイデアをすぐにアプリに反映させることができるので、企画力や提案力を向上させるための教材として向いているのかもしれません。

技術力の習得は独学でも出来ますが、企画力や提案力は相手がいないと経験を積むことができない、習得が難しいスキルです。IT技術者不足からアプリの内製化を検討する企業は増えてきており、IT技術者教育のニーズも増えてきております。

今回はアプリ開発をテーマにハッカソンを行いましたが、ネットワークやセキュリティ、インフラ構築においてもハッカソンは可能です。新しいアイデアの創出や技術者の教育に、ぜひ皆様もハッカソンを試してみて下さい。

著者プロフィール

三島正裕

1978年島根県生まれ。ディーアイエスソリューション株式会社所属。クラウドサービスを中心としたシステム提案やアプリケーション開発をする傍ら現在はマイクロソフト製品の活用事例「Office 365徹底活用コラム」を自社サイトで執筆中。