前回は情報の見せ方に関するイントロと、レーダーを例に取り上げて書いた。今回はレーダー以外のセンサーについて、情報をどんな風に見せるか、という話をしてみようと思う。
レーダー警報受信機
英語ではRWR(Radar Warning Receiver)、戦闘機や爆撃機の必須アイテムだ。敵のレーダー、主としてミサイルの誘導や対空砲・機関砲の射撃管制に使うレーダーの電波を受信した時に、どちらの方位からどの種類の電波がきているかを知らせる。
ミサイルを撃つ場合でも、対空砲や機関砲を撃つ場合でも、射撃管制レーダーを使って目標を捕捉・追尾することで、狙いをつけるために必要なデータを得る。対空砲や対空機関砲は雷管をひっぱたいて弾が出たら、後は弾まかせだから、撃つ前に精確に狙いをつけないと当たらない。一方、ミサイルの方は目標の位置情報を入力してから発射するとか、発射した後で誘導電波を照射し続けるとかいう手続きが必要になる。
どちらにしても射撃管制レーダーの電波を浴びたら、それは「危険信号」だから回避行動をとらなければならない。そのためのRWRである。
どの方向から電波を浴びるかわからないから、RWRのスコープは全周をカバーする必要がある。また、発信源の種類などの付加情報も必要になる。そういうところがレーダーに似ているので、RWRのスコープはレーダー用のPPIスコープと似た、円形のものを使うことが多い。そこに方位の目安となる放射方向の線と、距離の目安となる円周方向の線を描いておく。
戦術情報ディスプレイ
センサーの高性能化・高機能化・多様化、それとコンピュータによる情報処理の組み合わせにより、敵味方の位置情報や識別情報をとりまとめて、地図みたいに表示することが可能になった。自己位置は慣性航法システム (INS : Inertial Navigation System) やGPS(Global Positioning System)によって把握できるから、それが1つの基準点になる。
いってみれば、地図上に探知目標のアイコンを並べたようなもの。それの極めつけが、本連載の第1回で取り上げた、F-35のコックピットに設けられている大画面タッチスクリーン式ディスプレイということになる。
F-35ほど大きく、リッチなものでなくても、同じ要領で彼我の位置情報を描き出すディスプレイ装置を用意する事例は増えている。戦闘機に限らず、艦艇でも事情は同じだ。
イージス艦の戦闘情報センターに入ると、指揮官席の真正面に大きなディスプレイが2面、ないしは4面あり、そこに敵と味方の艦や航空機やミサイルの情報が表示される仕組み。もっとも、報道公開の席ではディスプレイは消されているか、当たり障りのない内容の表示しかなされていないものだが。
ソナー
ここまで解説してきたものは比較的わかりやすいが、「何、それ?」と言いたくなりそうな表示をするのがパッシブ・ソナーのディスプレイ。題して「ウォーターフォール・ディスプレイ」という。といっても、ウォーターフォール型開発とは関係ない。
パッシブ・ソナーで得られる情報は、音源の方位と、音そのものだけである。重要なのは、聞こえる音の内容、あるいは周波数ごとのレベルの違い。音源としてはエンジンそのものが発する騒音やスクリューが発する音が挙げられるが、エンジンの種類や運転状況、スクリューの回転数によって、聞こえる音が違ってくる。
そこでウォーターフォール・ディスプレイでは、縦方向の表示と横方向の表示を組み合わせている。横方向は方位に対応しており、画面いっぱいで360度全周をカバーする。
では、縦方向はというと、時間が経過するにつれて、上から下に向けて表示がゆっくりスクロールする。そして、音源を聴知すると、明るい輝線が現れる。聴知した音源の方位が変わると、上から下にスクロールする過程で、音源に対応する輝線の位置が左右方向に移動していくことになる。
もう1つの表示方法として、横軸に周波数、縦軸に時間をとるものがある。例えば、横軸が左から右に向かって数字が増える(周波数が上がる)設定になっていれば、周波数が高い音源を聴知した時ほど、輝線が画面の右寄りに現れることになる。
時間の経過に従って音源の周波数が変化した場合、画面が上から下に向かってスクロールする過程で、輝線の位置が左右方向に移動することになる。そうやって構成されるトーン・ラインは音源となる艦によって違いがあるから(いわゆる音紋)、敵艦の種類を識別する際の判断材料になる。
もちろん、生の音を聞くことで得られる情報もある。スクリューが回転して「シャッシャッシャッ」と水切り音がすれば、スクリューの羽根の数や回転数を知る手がかりになる。ただし、最近の水上戦闘艦では可変ピッチ・プロペラを使っているものがけっこうあり、これは同じ回転数のままで羽根の角度を変えて速度や進行方向を変えてしまう。だから、別の手がかりが必要になるらしい。
電子光学/赤外線センサー
業界ではEO/IR(Electro-Optical/Infrared)センサーという。
電子光学センサーというと物々しいが、要するにデジタルカメラだと思っていただければよい。画素数はせいぜいハイビジョン程度(1,920×1,080ピクセル)が上限で、市販品のデジタルカメラと比べると少ない。闇雲に画素数だけ増やしても、データ量が増えて通信回線とストレージを圧迫するだけなので、用途と目的に見合った画素数があればいいのだ。
赤外線センサーのほうは、探知する対象が可視光線ではなく赤外線に変わるが、基本的な考え方は同じ。波長の関係で、可視光線よりも鮮明さを欠く映像になる傾向があるが、昔の製品と比べると、最近の製品は鮮明な画を得られるようになってきている。
どちらも静止画あるいは動画の映像を表示する必要があるので、普通にディスプレイ装置を用意して、そこに表示する。カラー表示を行いたければ、もちろんカラー表示が可能なディスプレイ装置が必要になる。
面白いのは赤外線センサーの表示で、ブラック・ホットとホワイト・ホットの切替ができる場合が多い。赤外線センサーは赤外線の多寡を映像として得るものだから、強力な熱源があるほどハッキリ映る。それを黒く表示するか、白く表示するかで、ブラック・ホットとホワイト・ホットの違いが生じる。どちらを使うかはオペレーターの好み次第。
デジタルカメラと違うのは、作戦、あるいは交戦のために必要となる付加情報を一緒に表示するところ。センサー自体の位置、センサーが向いている方向、(航空機搭載用なら特に)センサーの高度や移動速度、といったデータが必要になる。
なお、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)も、電波を使うところは違うが「映像」を得るのは同じだから、表示に際しての考え方はEO/IRセンサーと同じになる。