さて。マン・マシン・インタフェースというテーマを取り上げるにあたって、どういう切り口にするかでずいぶん悩んでしまった。結局、艦とか航空機とか車両とかいったプラットフォーム、あるいは個別のシステム分野ごとに取り上げるのではなくて、インタフェースの分野を切り口にしてみようと考えた。

状況認識という課題

軍事の世界には状況認識(SA : Situation Awareness)という言葉がある。小難しい印象を受ける言葉だが、要するに「敵と味方がどこにいて、どんな状況なのかを把握する」という意味である。単に敵味方というだけでなく、それが何者なのか(飛行機の機種とか艦名とか)までわかれば、なおよい。

敵がどこにいるのかわからない、いわば五里霧中の状態でやみくもに進撃すれば、いきなり不意打ちを食らって負け戦につながる。また、ある方面からやってきた敵に気をとられていたら、別の方向からやってきた敵に不意打ちを食らって大惨事になった事例もある(例 : ミッドウェイ海戦)。

逆に、敵と味方がどこにどれだけいるかを完璧に把握していれば、不意打ちを防げるだけでなく、戦力の経済的な利用が可能になる。つまり、必要なところに必要なだけの戦力を過不足なく割り当てることができる。

敵の所在がわかっていても数がわからないと、「念のために」といって多めの戦力を回したくなる。そのほうが無難ではあるが、結果的に過剰戦力になれば無駄だし、別の方面に回す戦力が不足する結果になっては目も当てられない。

また、自軍の状況認識が敵軍の状況認識を上回る、つまり「自軍は敵軍の状況を分かっているが、敵軍は自軍の状況をわかっていない」ということになれば理想的。それを利用して不意打ちを仕掛けることができる。不意打ちは仕掛けられるべきものではなく、仕掛けるべきものだ。

これらを実現する際の基盤になるのが、状況認識というわけだ。

SALUTEとMETT-T

敵がどこにいるかを知るには、探知手段と的確な報告が必要である。そこで出てくるキーワードがSALUTE。といっても礼砲のことではなくて、以下の言葉の頭文字を並べたものだ。

  • Size (規模)
  • Activity (活動)
  • Location (位置)
  • Unit (部隊)
  • Time (時刻)
  • Equipment (装備)

5W1Hの親戚みたいなものである。敵軍に遭遇した際に報告を上げなければならないが、そこであわててしまって肝心な情報を報告し忘れる事態は避けたい。そこで、報告すべき事柄を容易に思い出せるように頭文字略語にしたもの。不慣れな兵士、初めて戦場に出て浮き足立ちそうになっている兵士に対して「SALUTEを言え」と指示すれば、少しは落ち着いて報告できるんじゃないかというわけだ。

他にも似たような言葉があって、METT-Tという。「地勢」が含まれているから、陸軍用語ではないかと思われる。

  • Mission (任務)
  • Enemy (敵情)
  • Terrain (地勢)
  • Troops (指揮下の軍)
  • Time Available (利用可能な時間)

この種の情報を得るための手段が、センサーである。人間の目玉も、レーダーも望遠鏡も双眼鏡も、デジタルカメラも銀塩カメラも赤外線センサーもソナーも、みんなセンサーである。

センサーによって、得られる情報の内容には違いがある。しかし、コンピュータで情報を処理するのが一般的な現代では、データは電気信号、あるいはデジタル・データの形で得ると処理しやすい。それをコンピュータに取り込んで記録、あるいは活用しようというわけだが、そこで「得られたデータをどう見せるか」という課題が出てくる。

データの見せ方に関する例 「レーダー」

わかりやすいところでレーダーを例に出してみよう。レーダーは電波を発信して、それが何かに当たって反射してきたときに、電波の往復に要する時間に基づいて距離を、電波が帰ってきた向きに基づいて方位を、それぞれ教えてくれる。向きを水平方向と垂直方向のそれぞれについて得られれば、方位と高度の両方が分かる3次元レーダーになる。

レーダー・スクリーンというと一般にイメージされるのは、第173回で触れたPPI(Plan Position Indicator)スコープだが、最もシンプルな形は、そのスコープに探知目標を示す輝点(ブリップ)が点灯するというもの。

PPIスコープは自身の位置を中心にした円形の表示で、遠方の探知目標ほど、スコープの外縁部に近いところにブリップが現れる。だから、スコープを見れば方位と距離を一目で把握できる。では、高度は? 敵味方識別の情報は?

3次元レーダーはたくさん出回っているが、3次元で情報を表示するスコープというのは見かけない。3次元レーダーでも平面のスコープである。だから高度の情報は探知目標ごとに数字で表示するしかない。

つまりブリップの脇に数字が出て「● 7255ft」といった具合になる。スコープを見る航空管制官や要撃管制官は、その数字を見て頭の中で立体的な状況を描き出そうとする。実際、経験を積んだ航空管制官になると、平面表示のスコープを見ているのに、状況を立体的に把握しているらしい(!)。

高度はそれでいいとして、敵味方識別はどうするか。単に敵か味方かを知るだけなら、IFF(Identification Friend or Foe)というものがある。電波を使って誰何して、正しい応答が返ってくれば味方、そうでなければ敵だと判断する。

レーダーとIFFはワンセットになって動作するから、探知目標ごとにIFFで誰何すれば、どのブリップが敵で、どのブリップが味方なのかがわかる。ちなみに、IFFは敵味方識別だけでなく、味方機が相手であれば高度などの情報を得ることもできる。

では、その情報をどう表示するか。敵味方識別も、高度と同様に文字で表示してもいいのだが、それでは見間違える可能性がないだろうか。敵と味方を見間違えたら大事である。すると、ブリップを単なる輝点ではなく、「敵と味方で形を変える」とか「敵と味方で色を変える」とかいう工夫が欲しくなる。

例えば、「○のブリップは味方、△のブリップは敵」や「白いブリップは味方、赤いブリップは敵」といった具合だ。これなら視覚的に把握しやすいが、ブリップごとに形状を変えて表示できるデバイス、あるいはカラー表示が可能なデバイスが必要になる。モノクロのディスプレイ装置でカラー表示はできない。

つまり、マン・マシン・インタフェースの改善には、デバイスの進化も必要になるというわけだ。