「防空とIT」の次なる話題として、航空機を対象とする防空と弾道ミサイル防衛を一本化する、IAMD(Integrated Air and Missile Defense)について取り上げてみよう。実のところ、「防空」というテーマにおいて情報通信技術が最も役に立つ話がIAMDであると言える。
脅威の多様化
これまで「防空」というテーマで5回にわたっていろいろ書いてきたが、いずれも基本的に「航空機」に対処するための武器やシステムを対象としていた。もっとも最近では、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)や巡航ミサイルも対処すべき対象に含まれるが、翼が生えている飛行物体であることに変わりはない。
UAVだと「小型のモノが多い」、巡航ミサイルだと「サイズが小さい上に飛行高度が低いので、探知が難しい」といった違いはある。とはいえ、飛び方や速度といったところでも、一般的な有人機と比べてべらぼうな違いはないだろう。
それとは別に第7回から第12回にかけて、イージス艦の話を主体に、ミサイル防衛の話も取り上げてきた。ミサイル防衛というと一般的にはBMD(Ballistic Missile Defence)、つまり弾道ミサイル防衛を指すことが多いが、実際には巡航ミサイルも対象に含んでいる。
弾道ミサイルは「弾道飛行して大気圏外から猛スピードで突っ込んでくる」、巡航ミサイルは「低空をはうように飛んでくるが、速度は弾道ミサイルほど速くない」という違いがあるが、脅威は脅威である。
そして近年では、「弾道ミサイルだけ」「巡航ミサイルだけ」ではなく、両者が束になって襲いかかってくる場面も考えなければならなくなった。例えば、中国は対艦巡航ミサイル(ASCM : Anti Ship Cruise Missile)も対艦弾道ミサイル(ASBM : Anti Ship Ballistic Missile)も保有していると言われている。
それが防御側にどのような影響を及ぼすか。弾道ミサイルを迎え撃つためのウェポン・システムと、航空機や巡航ミサイルを迎え撃つためのウェポン・システムを別個に整備して別個に運用するのでは、弾道ミサイルと巡航ミサイルが束になって襲来する場面に対して、適切に対処できるかどうか怪しい。
海の上ではDWES
第9回でも触れているが、すでにイージス艦についてはMMSP(Multi Mission Signal Processor)の導入により、対空戦(AAW : Anti Air Warfare)と弾道ミサイル防衛(BMD)を同時並行的に実施できる仕掛けができている。
MMSP以前のイージス艦は、BMDをやっている時は「BMDだけ」、AAWをやっている時は「AAWだけ」だったが、MMSPの導入でレーダーのシグナル処理能力が向上したため、両方を同時並行的にこなせるようになった。
単艦での交戦ならこれで話は終わりだが、複数の艦がいたらどうなるか。つまり、MMSP装備のイージス艦、MMSP非装備のイージス艦、イージス以外の対空戦闘システムを使用する防空艦(ヨーロッパ諸国の海軍に、この手の艦がいろいろある)が混ざって1つの任務部隊を編成していたら、個艦がそれぞれバラバラに交戦するのでは効率が良くない。
つまり、できればなにがしかの統一指揮管制が必要ではないか、という話になる。まず「とっかかり」としてデータリンクを使った情報共有が必要になるが、それで得られた状況認識に基づき、個々の艦に任務と交戦すべき目標を割り当てる作業も必要になる。
そうしないと、同じ目標を複数の艦が重複して交戦するとか、それとは反対に、誰も相手にしない撃ち漏らしの目標が生じるとかいう事態につながる。重複交戦はリソースの無駄遣いだし、撃ち漏らしは被害発生の可能性を高めてしまうから、どちらもよろしくない。
幸い、データリンクとか共同交戦とかいう話はすでにあるので、後は交戦担当の割り振りをどうするか、という話になる。それを具現化した一例が、2015年2月にハワイ沖で行われた迎撃試験だ。
飛来した弾道ミサイル模擬標的は3発。参加したイージス艦は、USSカーニー(DDG-64)、USSゴンザレス(DDG-66)、USSバリー(DDG-52)の3隻で、そのうちゴンザレスとカーニーがSM-3ブロックIBで交戦した。
この時に使われた仕組みはDWES(Distributed Weighted Engagement Scheme)という。直訳・逐語訳すると「分散重み付け交戦スキーム」。「分散」とは(単艦ではなく)複数の艦による交戦分担という意味であり、「重み付け」とは個々の艦にどうやって任務を割り振るかという話だ。その割り振りの結果、前述したような分担になったわけだ。
これまでのところはBMDに限定してシンプルなシナリオのテストしか行っていないが、今後の動向に注目したい。
陸の上ではIBCS
陸の上では、MMSP搭載イージス艦みたいに「どちらも対応」という便利な資産はなさそうだが、強いて挙げれば、パトリオットは1つの高射隊にAAW用のPAC-2とBMD用のPAC-3を混ぜて運用できる。BMD専用の資産としては、先日に中谷防衛相が自衛隊で導入する可能性を言及したTHAAD(Theater High-Altitude Air Defense)がある。
米陸軍だけならこれで終わりだが、同盟国が加わると、さらにいろいろな防空システムが加わる。と、その話はおいておいて米陸軍の話に絞ると。
洋上のDWESと似た位置付けの仕掛けを、ノースロップ・グラマン社が開発している。それが第117回で取り上げたIBCS。IAMD Battle Command Systemの略だったり、Integrated Battle Command Systemの略だったりと、ソースによって名称が違っているのは困りものだが、なんにしても「IAMDを実現するための指揮管制システム」という意味になる。
最初にIBCSの話が出てきたのは2010年の初めで、この時にノースロップ・グラマン社が開発を担当する話が決まった。そこから5年間で5億7700万ドルのSDD(System Design and Development)フェーズ契約がスタートしているので、ちょうど今年はSDDが完了した(はずの)年にあたる。
差し当たり、第117回でも出てきたAN/MPQ-64センティネル・レーダーやMIM-104パトリオット(PAC-3を含む)を連接しているが、気球に監視レーダーと射撃管制レーダーを搭載して浮かべておくJLENS(Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor)や、AIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)空対空ミサイルを地対空型に転用したSLAMRAAM(Surface-Launched Advanced Medium-Range Air-to-Missile)といった装備も対象にしている。THAADを対象に加える構想もあるらしい。
要は、こういった各種の防空資産をIBCSの管理下に入れて、交戦担当の割り振りを一元的にやろうという話である。