本連載では日本ヒューレット・パッカード(HPE)のさまざまな社員の「こぼれ話」を綴ります。→過去の「マシンルームとブランケット」の回はこちらを参照。
試行錯誤を繰り返す新製品の売り文句
各国のカテゴリーマネージャーの大きな仕事の1つは、米国で発表された新製品の売り文句を、その国のお客さまがわかりやすいように、国の状況や文化もふまえた言葉で置き換えることです。
ちょうど今月(2023年2月)、自分が担当する新製品を日本国内向けに発表したところで、今回はその裏話をお話したいと思います。
新製品が出る数カ月前くらいのタイミングで、各国のカテゴリーマネージャーが参加する電話会議にて、米国の製品担当が新製品の説明を社内向けに行います。日本は深夜の時間帯に行われることが多く、眠い目をこすりながら、製品のターゲット層や製品メッセージ、競合製品との比較などを学びます。
その材料をもとに、今度は日本国内で現場の営業やエンジニアとディスカッションを重ねて、お客さまにどのようなメッセージが響くかのイメージを作り上げていきます。
そして、いよいよメッセージの準備です。まずは、米国で発表された英語のプレスリリース(メディア向けの発表資料)をそのまま翻訳されたものを、広報チームから渡されます。この「初版」がなかなかシビれる日本語なのです。
「直感的なクラウド体験を提供」(元文章:Delivered with an intuitive cloud experience)
「安全なエンドツーエンドの設計」(元文章:Secured end to end by design)
まったくもって意味不明……。ここからがカテゴリーマネージャーの腕の見せ所です。今回の新製品のターゲットは、すでに自社内でサーバーを持つことをやめて、クラウドに移行したが、機密データの取り扱いやコストなど、さまざまな事情で一部だけクラウドから自社内システムに戻す必要が出てきた、そんなお客さまがターゲットなのです。
自社内システムをやめてクラウドに行くと、自分で管理しなくていいし、使った分だけ支払えばいいので、管理者としては超快適。
だから、自社内システムを持っていた時の、あんな冷房のキツいマシンルームで作業だとか、サーバー購入のための桁違いの予算、お偉方の稟議をとるための分厚い稟議書を夜中まで作成といった、思い出すだけでも気持ちが暗くなる作業はもう二度としたくない。
でも全部クラウドだと、いろいろうまくいかなくなってるし、あー、どうしたらいいのか。今回の新製品だったら、自社内システムでも、クラウドと同じように超快適に利用できますよ。
はい、ここまで書けばなんとなく、「直感的なクラウド体験」というものがどういうものか、ご理解いただけるのではないでしょうか。でも、この数行の文章をまとめて書くわけにはいかない。1行程度でスパっと決める日本語メッセージを作らなければいけない。
これは正直、数日かかりました。新製品が出るたびに、われわれカテゴリーマネージャーはこのように悩み苦しみます。
外資系企業の日本法人あるある
そして、ここに新たな敵が現れます。米国本社です。日本の担当者が日本のお客さまに響くようなメッセージを準備したい場合、時には「意訳」的な形でそのメッセージの表現自体を変えたいことも多々あるのですが、米国本社は、可能な限り自分たちが決めたメッセージをそのまま伝えろと迫ってくることが多いのです。
日本語だからバレない、と思っても、最近は翻訳ツールが大活躍。翻訳結果を張り付けて、「俺らの言っていることと違うじゃないか、直せ」と、迫ってくることも増えてきました。
もちろん、日本の製品担当としては戦いを挑みますが、一人称が”I”の1つしかない英語圏と、”私”・”僕”・”俺”と、無数に存在する日本語圏では文化の違いが大きすぎて、なかなか理解をしてもらえないことが多いのも事実です。
これは、弊社だけの話ではなく、外資系企業の“日本法人あるある”な話のようです。WebやテレビCMなどで、なんだか読みづらい、不思議な日本語だな、と思ったら、こんな戦いが背後で行われているんだ、と思い出していただければと思います。
もう少し現地法人メンバーを信じて任せてしまえばいいのに、と思いますけれどね。ですので、外資系企業にも関わらず、日本人のタレントさんをキャスティングして日本人にガチっと刺さるメッセージのCMを打たれていたりすると、きっと交渉は大変だっただろうな、などと想像をしてしまいます。
今回も、できるだけ日本のお客さまに伝わりやすいメッセージにしたいと思い、直訳バージョンに赤入れしたところ、真っ赤になってしまいました。
しかし、日本の広報スタッフに強力にサポートいただき、米国本社と調整をつけていただけたため、かなり日本のお客さまにわかりやすい日本語のプレスリリースができたと感じています。
最後に、表題の「直感的なクラウド体験を提供」がどうなったか……
“クラウドの「あたりまえ」を自社内システムで実現”
いかがでしたでしょうか。カテゴリーマネージャーは、こんなお仕事もやっている、というお話でした。
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