誰でもLINEスタンプを制作・販売できる「LINE Creators Market」。このプラットフォームが立ち上がったことで、これまでの企業主体のLINEスタンプには見られなかった、個性豊かな「クリエイターズスタンプ」が数多くリリースされています。

この連載では、人気を集めているオリジナルのLINEスタンプを生み出したクリエイターたちに、スタンプのコンセプトや制作時の具体的な作業量、そして売り上げなどを聞いていきます。今回は、ゆるふわなタッチで描かれたお寿司が人気を博しているスタンプ「寿司ゆき」を手がけたあわゆきさんにお話をうかがいました。

――最初に、プロフィールと普段のお仕事内容について簡単にお教えください。

あわゆきです。関西在住のフリーランスで、仕事は主にWeb制作などをやっています。

――プロフィールに付随して、スタンプや普段のイラスト制作時の作業環境についてお教えください。

パソコン: MacBook Pro ,Retina, 15-inch, Late 2013
使用ソフト: Adobe Illustrator (寿司ゆき制作時は CS6 / 現在は CC 2014)
使用デバイス: Bamboo Touch,iPhone 5s
その他: NUBoard (欧文印刷のノート型ホワイトボード/A4サイズ/アイデアラフ用)

作画は IllustratorとBamboo Touchを用いてベジェ曲線として描いていますが、最初からペンツールを使うのではなく、ブラシでおおまかな下描きをした上で、適宜パスを調整しています。また、NUboardなどでラフを描いた場合、取り込み用にiPhone 5sとScanner Pro というアプリを使っています。

――「Line Creators Market」でスタンプを制作・販売しようと考えたきっかけは?

もともとLINEスタンプを自作してみたかったので、 「LINE Creators Market」が開始されるというニュース自体がきっかけでした。Twitter で友人からニュースを聞き、登録開始のスケジュールなどを確認して、算段しはじめました。

――リリースされたスタンプのコンセプトをお教えください。

寿司ゆきは、自分の Twitter アイコンが元になったキャラクターです。以前から趣味で Twitterなどのアイコンをじぶんで描いており、その日の気分や時事ネタに合わせてコロコロ変える『アイコン芸』と自称して、タイムラインでのコミュニケーションを楽しんでいました。それを友人からアワユキコン(awayuki の icon = awayukicon)と名付けてもらえたり、徐々に多くの人に親しんでもらえるようになってきていたと思います。

その流れの中で、昨年(2013年)の12月にお寿司型のアワユキコンが誕生しました。これが予想以上に好評で、寿司ネタのバージョンを増やして合計20種類のお寿司のアワユキコンを描き、iPhoneの壁紙などにしたり、DECOチョコを作ってお得意さまに配ったりして楽しんでいました。そういった経緯があり、LINEスタンプの制作にあたっては、新しくキャラクターを考えるよりは、すでに好評かつバリエーションが豊富で、幅広い人からも受け入れてもらいやすいお寿司型のアワユキコンを使うことにしました。

(スタンプ制作のコンセプトとしては)、年齢や性別、国にとらわれず、幅広い人にとって分かりやすく、ゆるく普段使いできるスタンプを目指しました。

「寿司ゆき」の一部

――ラフ段階では全部で何案ほどスタンプ用のイラストを制作されましたか?

ラフを先にすべて用意するというよりは、五月雨式に描いていったので、ラフ自体はそう多くないと思います。また、基本的には Illustrator上で下描きからすべて進めるので、ボツになった細かいアイデアラフは残っておらず…数が把握できていません。

パソコンを立ち上げていないときや気が向いた時にNUboardで描いたものはラフとして残っていますが、きちんと残っているのは数点ほどです。

使う寿司ネタは、20点あったところから数を絞りました。基本はまぐろ、少々のバリエーションをつけるのに違いが分かりやすいたまご、海老と、あとはスタンプのシチュエーションにあわせて適宜ネタを盛り込みましたが、無理やり全種類を入れるのは避けました。

回転寿司のレーンに乗った「Hello ♪」と「See you ♪」。会話のはじまりと終わりに送るのに便利なスタンプは、比較的よく使われているという

――スタンプを作るにあたって、イラストを描く時とは異なる工夫をした点を教えてください。

仕事としてのイラスト制作と比較すれば、あまり大きく異なる点はないかと思います。LINEスタンプとして注意した点は、ガイドラインに規定されている仕様を守ることと、スマートフォンで表示された場合に視認性が落ちないように、線の幅や色味・文字のサイズを調整することです。

あとは、スタンプとして便利に使ってもらえることが大前提なので、会話の文脈に乗りやすいカットか?というのには一番頭を使いました。

――利用した人から「これは便利!」と言われるスタンプの絵柄は?

回転寿司レーンの「Hello ♪」と「See you ♪」はよく使われているように思います。

――ご自身で特に気に入っているスタンプの絵柄はどれですか?

かっぱ巻かれ寿司は好きです。セリフがない分、意外と使いどころもある気がします。

――寿司ゆきに関して、クリエイティブ・コモンズ(CC) ライセンスに則した利用であれば自由に使えるとサイト上で発表され、その結果としてiPhoneアプリやWordPressプラグインなどを作る人たちが続々と現れています。日本ではコンテンツの二次利用に関する規約を自主的に発信する企業/クリエイターはあまり多くありませんが、キャラクターライセンスをCCライセンス準拠で広く開放した狙いは?

CCを使って解放したのは、友人たちにさらに楽しんでほしかったからです。 GitHubのコメント欄などでも寿司ゆきスタンプを使いたいというリクエストがあり、ちょうど商用のお話も出始めていた頃だったので、明確に区切っていずれでも不都合なく使える形にしました。

Creative Commonsライセンスは排他独占的な縛りを作るものではないですし、寿司ゆきの商用展開はまったく放棄していません。寿司ゆきに適用しているCCライセンス(CC BY 4.0)は非商用に限った利用範囲での許諾条件を明示したもので、プライズ用ぬいぐるみをはじめとして、商用でのお話も進めています。

LINEスタンプや商用のものと食い合わないフィールドで寿司ゆきを使い広げてもらう分には、こちらにはまったく損はありませんし、むしろ露出が増えるよい機会と捉えています。何より、金銭的な利益が発生しなくてもプロダクトにしたいと思ってもらえて、実際その手を動かして作ってもらえること、さらにその先で出来たプロダクトを使って喜んでくれる人たちがいることは、作り手冥利に尽きます。

また、すでにLINEスタンプとしてインターネット上にもイラストが出回ってしまっている以上、悪意があればいくらでも転用することは可能だと思っています。そういった面でも、早々に著作権に関するポリシーを示しておくことは、自衛手段としてある程度は効力を持つものと思います。

あわゆきさんお気に入りのかっぱ巻かれ寿司(左)やいなり寿司(右)など、さまざまな種類のお寿司がスタンプに登場する

――スタンプを作ったことで変化したことはありますか?

発売後、最初に知り合いに会ったときの第一声が「スタンプ…」になりました。そのほかですと、本業のコードを書く機会が軽く減っていて、ちょっとさみしいです。

――これまでのスタンプの売り上げをお教えください。

知人から「スタンプ御殿が建つのでは」と言われたりしますが、まったくもってほど遠いです。建てられるとしたら実家の庭に犬の御殿程度です。

――最後に、これからスタンプを作るクリエイターに向けて、ひとつだけ「スタンプ作りのTips(豆知識)」を教えてください。

作りというよりは、売りかたに関連するところでひとつ。Twitter などであまりしつこく直接的な宣伝をするよりは、スタンプのキャラクターが露出するようなコンテンツを作って公開して行くほうがいいかと思います。何よりキャラクターの魅力が伝わりますし、魅力が伝わればおのずとファンや拡散してくれる人が出てくるはずです。