前回は、「doda」の転職データをもとに、IT職種の平均年収について解説しました。前回を読んで、「どうしたら年収は上がるの?」「どうしたら市場価値を高めることができるの?」と思った人も多いのではないでしょうか。この疑問に答えるべく今回は、日々、IT職の転職を支援している「doda」のキャリアアドバイザーが年収アップに向けどのような助言をしているかを公開します。

今回教えてくれたのは、IT業界を担当するマネジャー 兼 dodaキャリアアドバイザーの小堀 綾。

小堀は「年収を上げたい!」「市場価値を高めたい!」というIT職の転職希望者に対して、以下6つの経験を積み、スキルアップしていくことをおすすめしているそうです。1つずつ詳しく見ていきましょう。

業務を通じて経験を積むべき5項目と自ら学ぶべき1項目

まずは、「業界知識」「業務知識」「担当工程」「マネジメント」「開発規模」を見ていきましょう。これら5つは基本的に、業務を通じ経験を積んでいくことをおすすめします。開発プロジェクトに携わるという実体験を通じ、業務に生きる経験を積み、知識を身に着けることが、最終的に年収アップにつながります。その過程で書籍を読む、勉強会に参加するなど、自ら学ぶとさらによいでしょう。

業界知識:「この業界のことならわたしに任せて!」という専門業界を持とう

「業界知識」とは、流通・小売、製造業、金融、官公庁、エネルギーなどの業界特有の知見を指します。広く浅くさまざまな業界知識を得るよりも、「自分はこの業界について誰よりも詳しいです!」と胸を張って言えるような、専門分野をまずは1つ持てるように経験を積みましょう。その後、専門分野を増やしていけると、より年収アップにつながりやすくなります。また、製造業など業界規模が大きい分野ほどニーズが高くなるので、そういった業界知識をつけるのも1つの方法です。

業務知識:携わっているプロジェクトの業務知識を深めよう

「業務知識」とは、会計やSCM(サプライチェーン・マネジメント)、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)、BI(ビジネスインテリジェンス)など業務にまつわる専門的な知見を指します。例えば、会計システムの開発に携わっている場合、企業活動における会計処理の流れや、会計と販売管理や人事管理、生産管理など他業務がどのように関わっているのかなどの理解を深めましょう。SCMシステムの開発に携わっている場合は、製品の原材料や部品の調達から販売に至るまでの一連の流れなどについて理解を深めましょう。

担当工程:下流から上流まで、それぞれの工程を経験しよう

「担当工程」とは、システム要件定義や基本設計、詳細設計、開発といったプロジェクトにおける担当業務を指します。一般的に「担当工程」は、上流工程の経験を積むほど年収が高くなる傾向にありますが、システム開発を理解しているほうがより本質的な要件定義ができます。まずは、システムやソフトウェアの開発から始め、プロジェクトを通じて少しずつ上流工程も経験できるようステップアップしていきましょう。

マネジメント:組織内での役割において経験を積もう

「マネジメント」とは、その名の通り、組織内での役割を指します。まずはメンバーから始め、後輩育成に携わった後、サブリーダーや開発リーダー、そしてPL(プロジェクトリーダー)、 PM(プロジェクトマネジャー)とステップアップしていくことで、年収も上がっていきます。

余談ですがPMは、業界知識、そして業務知識があり、それぞれの担当工程を下から上まで一通り経験し、開発技術力を有しているケースがほとんどです。だからこそ、PMは前編でもお伝えしたように平均年収ランキング1位のIT職種であり、2位に92万円もの差をつけていると考えらえます。

また昨今では、人手不足の影響から未経験採用が増えているため、メンバーマネジメントが特に重要視されている傾向にあります。そのため企業は、人材育成・管理に加え、不足が顕著なプロジェクトマネジメントができる人材を求めています。言い換えると、これができる人は年収が高い傾向にあるといえます。

開発規模:さまざまな規模のプロジェクトを経験しよう

「開発規模」とは、開発期間と開発要員数を指します。規模は「小さいからよい」「大きいからよい」というものではなく、さまざまな規模のプロジェクトを経験することをおすすめします。短期間・少人数のプロジェクトは、多くの工程を担当できる一方で、開発難易度は高くない傾向にあります。逆に、長期間・大人数のプロジェクトは担当できる範囲は広くないものの、社会に影響を与えるシステムやソフトの開発に携われます。また、チームで仕事をする経験も積むことができます。

最後の「開発言語」は、前述した5つとは異なり、自ら学ぶことが重要になります。

開発言語:汎用性のある、実用的な言語を学ぼう。関連資格を取るとさらにプラス!

「開発言語」とは、PythonやC言語、C++、Java、C#などのプログラミング言語を指します。流行の言語に飛びついたり、マイナーな言語を学んだりするのではなく、汎用性のある、実用的な言語を習得することをおすすめします。また、学ぶだけでなく、例えば、「コミュニティサイトを構築する」「地図検索アプリを開発する」など、学んだことを成果物として残すとよいでしょう。さらに、成果物を実際にリリースし、運用から改修まで経験するとさらにプラスになります。

自ら学び、実践を積んでいくことに加え、プログラミングの資格を取ることもおすすめです。特におすすめしたいのは、「基本情報技術者試験」です。この試験は、JavaやC言語といったプログラミング言語をはじめ、エンジニアに求められる基礎知識について網羅的に出題されます。最終的には、高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能を持ち、高度IT人材としての方向性を確立した者と証明してくれる「応用情報技術者試験」まで取っておくとよいでしょう。

資格の観点でいうと、ITの資格だけでなく、担当業務関連の資格を保有していると、さらに市場価値が上がります。例えば、会計システムの開発に携わっているなら簿記、SCMシステムの開発に携わっているならCPIM(Certified in Production and Inventory Management)などがこれに当たります。

プログラミング言語だけではなく、日々進化するITのキャッチアップも意識的に行いましょう。例えば、勉強会に参加する、さらには学んだことを実践した結果を自ら勉強会やイベントで共有するといった積極的な姿勢は、評価されやすいポイントです。

「ポータブルスキル」を身に着けること、どこのフィールドでスキルを生かすのかも重要

ここまで読んできて、年収、市場価値を上げるには、かなりの努力が必要だということを再認識したのではないでしょうか。

最後に、今まで紹介してきた6つに加え、年収、市場価値を上げるために重要なことをもう2つお伝えしたいと思います。

1つ目は、「ポータブルスキル」の習得です。上記の表は、人材サービス産業協議会(JHR)が整理した、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル一覧です。言い換えると、業種、職種問わず、職務を遂行する上で必要なスキルのことです。この「ポータブルスキル」を有する人は、企業から重宝されます。ITに関連する経験を積む、スキルを磨くだけでなく、「ポータブルスキル」も高めていくことができると、希少性の高いIT人材へと成長を遂げられるといえるでしょう。

2つ目は、積み上げてきたIT、そしてポータブルスキルが生かせるフィールドを見つけるということです。比較的規模の小さい業界のPMと大きな業界のエンジニア、年収が高いのはどちらでしょう?SIerと事業会社の社内SEの関わる工程ごとの年収の違いなど、年収を上げたいならば、自身のスキルや武器がどのフィールドで価値が高くなるのかを考えることは必要です。副業という手もあるでしょう。さまざまな可能性を視野に、年収、市場価値を上げるために計画的に経験を積み、スキルに磨きをかけてもらえたらと思います。