レノボとNECの合弁会社のスタートまで、あと3カ月を切った。

四半期ごとに事業サイクルを捉える外資系企業にとってはまさに最終コーナー。この3か月でどんな準備が整うかが注目されるところだが、現時点では、日本政府の最終的な承認が下りたわけではなく、合弁会社設に向けた契約がすべて完了したわけではない。そのため、双方の機密情報を共有できるレベルにはなく、合弁に向けた一歩が強く踏み出せないという状況にあるのも事実だ。

まだ手続きは、公正取引委員会への正式申請には至っていない。今後、申請手続きを行い、その確認作業には少なくとも1カ月を要するとみられることから、少なくとも4月後半から5月前半のゴールデンウイーク頃に、ようやく両社の合弁に向けた活動が、本格的に動き出すことになる。

両社の発表によると、2011年6月を目標に、NEC・レノボ・ジャパングループを発足し、レノボが51%、NECが49%を出資する合弁会社「Lenovo NEC Holdings B.V.」を設立する。

さらに、この合弁会社の傘下には、日本国内でレノボのPC事業を行うレノボ・ジャパン株式会社と、NECの100%子会社であるNECパーソナルプロダクツからパソコン事業を分離して新設するNECパーソナルコンピュータ株式会社を収め、それぞれの子会社はブランドや販売ルートを独立した形で、国内におけるPC事業を推進することになる。

これまで、実際にPC事業を推進する立場にある、レノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長、NECパーソナルプロダクツの高須英世社長に、それぞれ単独インタビューを行い、さらに関係者への取材なども続けてきたが、両者の言い分が微妙にずれている部分がいくつかある。そうした点をみても、機密情報をベースにした具体的な話し合いがまだ行われていない状況を感じることができる。

レノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長

NECパーソナルプロダクツの高須英世社長

合弁会社設立記者会見での両社首脳

まず、両者が同じ方向性を打ち出しているという点では、最大の効果がサプライチェーンの共有という点で認識していることだろう。

レノボ・ジャパンのラピン社長は、「最優先で話し合うのはサプライチェーン。レノボが提供できる最大の効果は、サプライチェーンであり、工場のキャパシティ活用であり、効率化だ。なかでもサプライチェーンはコスト削減メリットとして直接的な効果が生まれる。また、NECが持つ日本の革新的な技術を持つ数多くのサプライヤーとの関係を生かして、レノボの製品に反映したい」とする。

これに対して高須社長も、「NECの15倍以上のバイイングパワーを生かせば、部材コストが低減するのは容易に想像できる」として、レノボが持つサプライチェーンによる調達メリットを生かしたいとする。

また、共通項としては、「レノボとNECのPCビジネスを、これまで通りに維持することが、今回の合弁においては最大の優先事項」とラピン社長がいえば、高須社長も「NECのブランドを維持すること、レノボ・ジャパンとは独立した体制で事業を推進することは変わらない」と語り、お互いが独立した姿勢で展開することも異口同音に語る。

気になるのは、レノボには、5年後に合弁会社の出資比率を引き上げられる条件がついている点だが、NEC側では「イコールパートナーという立場であり、PC事業を譲渡するものではない」(NECの遠藤信博社長)とするとともに、高須社長も「この条項は、両社の提携が終了する際の措置として盛り込まれたもの。提携が続けば、この措置は実行されることはないと考えている」とする。ラピン社長も同様の姿勢をみせる。レノボの中国本社側では、将来の出資比率引き上げを匂わす発言もあるようだが、日本側での意見は共通している。

だが、一部で見解が異なる部分もある。

たとえば、製品企画の考え方では、両者に若干の相違がある。

ラピン社長が、「今後は、製品戦略を両社で練ることで、顧客やパートナーからみても、シンプルでわかりやすい製品戦略を立て、ぶつかりあう部分は最小限にしていきたい。両社で話し合いを進めながら、製品ラインアップを決め、製品企画の部分ではお互いに棲み分けていくという方向になる」としているのに対して、高須社長は、「お互いに製品ロードマップを見せあうことはある」と前置きしながらも、「私の役割は、NECブランドのPCのシェアを高めること。お互いのブランドを維持するという意味では、ぶつかるものはぶつかるだけ。ここはどちらかが譲るという話し合いにはならない」とする。

このように、製品戦略の姿勢で大きな乖離がある。

また、高須社長が、「NECが打ち出す海外戦略は、海外に進出している日本の企業に対して、レノボの販売網、サポート網を利用して、NECブランドのPCを届けるという範囲。日本のユーザーに適した製品を提供し続ける」と発言しているのに対して、ラピン社長は、「NECは、すばらしい技術を活用した製品を持っている。日本のコンシューマに評価していだいた製品は、グローバルでも通用するという確信がある。これにより、競合他社よりも先進的な技術を搭載した製品を、レノボが海外市場でいち早く展開できるようになる」と、より積極的な姿勢をみせる。

これらの点での話し合いは、まさにこれからということになるだろう。

だが、いずれにしろ、今回の合弁が、両者ともに、プラスに働くと捉えている姿勢には違いはない。

1カ月後には、どんな具体的な話し合いが始まるのかが、むしろ、いまからが楽しみだ。

両社の本社にある看板