わたしのアベノミクス

株式投資をしているお陰でアベノミクスを体感しております。株式投資の必勝法は「安く買って、高く売る」。もっともこれは、言うは易く行うは難し。もう底値と手を出したら、まだ底割れし、まだ上がるだろうと睨んだ瞬間、下落に転じ、もう限界だったのだと気づかされる日々です。相場格言にはこうあります。「もうはまだなり、まだはもうなり」。どちらの可能性も考えろということです。

NECとパナソニックが、ドコモ向けのスマホ端末の生産を中止すると発表しました。ガラケー黄金時代をささえた「N」と「P」の撤退で、ドコモのツートップ戦略による売り上げ不振を理由とします。ドコモのツートップ戦略とは、ソニーと韓国サムスンの最新機種に力を注ぐ販売方法で、その他の端末は割を食います。

いつもは中小企業の愛すべき0.2社長を取り上げていますが、今回は「ドコモ0.2」…って、数年前に「ドコモ2.0」と広告コンセプトがありました。機会があれば取り上げますが、ドコモの広告はずっと「0.2」です。ちなみにリーマンショックで大暴落し、売るに売れずに「塩漬け(放置)」していた株価の回復が、わたしにとってのアベノミクスです。

ドコモ王国の構造

2013年7月8日に、MMD研究所が発表した調査結果によれば、ガラケーユーザーの8割がスマホの購入を検討せず、6割は必要性すら感じていません。ところがドコモは2012年の夏モデルでキッズケータイを除き、すべての新機種をスマホにしました。キャリア各社がスマホに注力したのは、データ通信の増加により収益をアップさせるためで、ユーザーの求めではありません。これに「ショップ」が協力します。ガラケーで充分とする客に、店員が押し売りするのです。

実質負担額の値下げに加えて、テレビCMの露出などでも差をつけるのがツートップ戦略の骨子です。しかし、伝統的にドコモが得意とする販促強化の手法は、販売店にインセンティブを与える手法です。「ドコモショップ」の看板を掲げていても、ドコモの直営や子会社ではない代理店が多く、彼らにとって販売台数に応じて支給される「販売奨励金」や、広告費が支給される「販売協賛金」が利益に直結します。これが押し売りする背景です。

ドコモを見限るメーカー

つまり、ドコモが売りたいモノだけを売る仕組みがあるのです。ドコモ王国を支えたNECやパナソニックは、ドコモのやり方のすべてを知っています。そしてそのラインから外されることが死を意味すること理解しています。

スマホからの撤退を発表した両者共に、タブレット端末とガラケーの開発は継続するといいます。タブレットにおいてWi-Fi(無線LAN)を想定すれば、キャリアのくびきから解放されます。またガラケーには先のアンケートが示すように、根強い利用者がおり、このジャンルにおいて海外勢など敵ではありません。冒頭の相場格言に例えるなら「もうスマホでは勝てない、まだタブレットとガラケーなら勝ち目がある」というところでしょうか。つまり、彼らはドコモを見限ったのです。

ドコモの凋落の理由として「iPhone不在」が挙げられます。国内で最初に取り扱いを開始したソフトバンクの躍進と、その後に販売を始めたauの復調からも明らかでしょう。ドコモがiPhoneを取り扱うという噂は絶えずくすぶります。そのとき、ドコモは「スリートップ戦略」に切り替えるのでしょうか。それともiPhoneの「ワントップ」なのか。いずれにせよ、ドコモ王国を支えたメーカーをあっさり切り捨てたドコモに、心の底から信頼を覚える端末メーカーはもうありません。

10年遅れで追いついた

国内端末メーカーは2001年に海外へと進出し、軒並み惨敗し撤退しました。携帯端末のカラー化が急速に進み、「写メール」搭載機種が続々と登場した時代です。しかし「電話にカメラは不要」と門前払いされます。来日したハリウッドスターに携帯端末をむけて「写メ」を取る日本人を、海外の報道関係者は嘲笑しました。ところがいま、アカデミー賞のレッドカーペットにおいて、外国人だってスマホを掲げ「写メ」を取ります。つまり、連中は遅れていたのです。写メの便利さを知らずに日本人を笑っていたのです。そして、海外は10年遅れで、日本人に追いつきました。国内では「もう古い」と見られているガラケーは、「まだ通じる」かもしれません。

一方、ドコモの「ツートップ戦略」は、キャリアが流通を支配し、端末メーカーをアゴで使えるというガラケー時代の発想によるものです。客もメーカーも見ずに、ドコモ王国と呼ばれた、ガラケー時代の流通支配がいまだに通じると盲信する。それが「ツートップ戦略」の正体、ドコモ0.2です。

端末メーカーが海外に活路を見いだせば、ドコモのいいなりになる必要はありません。そもそも、国内でもガラケーを望む客は今後も残り続けます。いまだに「パソコンが苦手」という人がいるように、スマホは使い手を選ぶ機械だからです。そして、魅力的なガラケーが、他のキャリアから提供されるならば、ガラケー目当てにドコモから転出超過が起こることでしょう。携帯端末の総契約数において、ドコモは「まだ」国内で首位。ただしドコモ王国を支えた、ドコモファミリーは「もう」ありません。

エンタープライズ1.0への箴言


「もうとまだの見極め。客も仲間も見ない企業はいずれ淘汰される」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~

著:宮脇睦
フォーマット:Kindle版
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発行:2013/7/10
販売:Amazon Services International
ASIN:B00DVHBEEK
定価:300円
内容紹介:政治マニアで軍事オタクでロリコン。彼らが創り出すのがネット世論。ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある。
そしてネットは政治家も有権者も「幼児化」させる。ネトウヨも放射脳も幼児化の徒花だ。
ネット選挙の解禁により、真面目な議員は疲弊し、誤報や一方的な思いこみを繰り返すものが政治家になった。
山本太郎氏の当選とは「政治の食べログ化」によるものなのだ。