自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第23回は、フィルムやテープのダビングサービスを手掛けるグッドヒルシステムズ(東京 台東区)を取り上げる。同社はホームページで専門的なコラムやブログを掲載し、ブランディングや集客につなげている。同社の吉岡崇社長は「中小企業もホームページやSNSを通じて、専門的な情報や統一したデザインを発信し、ブランディングをすることは十分可能だ」と強調する。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • グッドヒルシステムズ 代表取締役 吉岡崇氏

グッドヒルシステムズ 代表取締役 吉岡崇氏
ECサイト開発会社2社に勤めた経験を経て、2011年にWeb開発、制作、マーケティングを手掛ける会社を創業。その後、パソコンとスマートフォンの販売および修理事業を立ち上げ、ビデオテープやフィルムをデジタル化する事業も始めた。ビデオテープ・フィルムのデジタル化サービスにおけるマーケティングが成功を収め、この事業に特化。「ダビングコピー革命」というブランドを立ち上げ、インターネット集客に力を入れ、ダビング分野で他を圧倒する存在を目指している。

ポイント

①ブランディングでは読者にインパクトを与え、社名やサービス名を覚えてもらうことが大事
②中小企業は経営者がリーダーシップを発揮すればネットを通じてブランディングが可能
③ブログやコラムでホームページのアクセス数が42倍に増加し、サービスの問い合わせも急増
④創業当初はチラシ配布で集客を目指すも非効率だったためネット集客に注力

本村:御社はテープやフィルムのダビングサービスなどを手掛けています。事業内容と強みを教えてください。

吉岡:当社はビデオやフィルム、オープンリールなどのテープをDVDやスマートフォンでの再生に適した「mp4」形式で見られるようにするダビングサービスを手掛けています。従業員は約40人で、東京都に本社があります。

強みは、国内製のほぼすべての種類のテープに対応できることです。一口にテープといっても、大きさやメーカー、テープの種類がそれぞれ違い、当社のように全てのテープをダビングできる企業は少ないのが実情です。もう一つの強みは価格が安いことです。多くの機材を用いて1日当たり約1000本をダビングしており、生産性や稼働率が高いため大手企業の3分の1程度の価格でダビングできます。

お客様のダビングの目的は、企業では会社の運動会やパーティー、周年行事などです。研究開発の映像記録を資料として保管したいというニーズも多いです。また、行事などの映像を残したいという個人の方にも利用していただいています。

  • グッドヒルシステムズの作業場

    グッドヒルシステムズの作業場

本村:人手不足や競争激化の影響を背景に、経営者が自社のブランドを重視する傾向が強まっています。御社にとって企業ブランディングとは。

吉岡:ブランディングでは、会社名や自社のサービスを覚えてもらうことが重要だと考えています。当社のサイトをあえて「ダビングコピー革命」という変わった名前にしたり、安さを打ち出したりして、読者にインパクトを与えられるようにしました。この結果、サイトからの申し込みが増えています。

  • ホームページでインパクトを与えるのも大事だという

    ホームページでインパクトを与えるのも大事だという

本村:中小企業はブランディングでは不利という見方もあります。

吉岡:大企業は資金力があり、テレビCMや新聞広告などさまざまな媒体でブランディングできますが、中小企業にはそうした余裕はありません。そういう意味では不利でしょう。しかし、インターネットの普及のおかげでネットの世界では中小企業でも、場合によっては大企業に勝てるようになってきました。

ネットでの情報発信はテレビCMのような莫大な資金は必要ないからです。ホームページやSNSを通じて、マークやデザインの統一性などを発信し、ブランディングをすることは中小企業でも十分可能です。実際に当社はネットからの注文が大半を占めています。 

本村:とはいえ中小企業の多くは、自社ブランド意識した情報発信ができていないようにも思います。御社の場合、当初からネットでの露出を意識してブランディングを実施しているように見えます。

吉岡:当社のような中小企業において、ブランディングに最も熱意を持つべきは経営者です。中小企業経営者の熱意はほとんどの大企業の社員を上回るでしょう。これはブログ執筆への熱意や内容の濃さ、SEO(検索エンジン最適化)対策に影響すると考えています。

本村:確かに質の高いコンテンツ作りにはある種の熱量が必要だと思います。吉岡社長が取り組んだブランディングの成功事例を教えてください。

吉岡:当社は早くから自社のサイトでコンテンツマーケティングを始めました。ホームページ作りにも数百万円をかけ、運営にもお金をかけています。それだけブランディングを重視し、投資をしてきたということです。私が起業する前にIT関連の企業で働いていたこともプラスになりました。

当社のホーページの中でも、特にアクセスを集めたのがブログやコラムのコーナーです。これは、私や当社の社員がテープのダビングのさまざまな具体的なやり方を発信するものです。また、ダビングには著作権の問題などがありますので、弁護士など専門家にもコラムを書いてもらいました。

専門的な記事を多く投稿したことでサイトの価値が上がり、SEO対策にもなりました。アクセスも開設当初の42倍に増えました。結果として自社サイトからの問い合わせが増え、成約数も増えました。当社の場合、ほぼ全ての成約がホームページを通じた問い合わせがきっかけです。これらを受けて、売り上げも創業当初の24倍に増えています。

  • ブログでアクセス数を増やすことに成功

    ブログでアクセス数を増やすことに成功

本村:ブランディングの失敗事例はありますか。

吉岡:創業当初は「集客が最重要だ」と考え、本社のある台東区周辺でチラシを一生懸命まいたことがあります。私自身、終業後の1時間で1000枚くらいのチラシを配って、疲れ切って帰宅するという生活が続きました。ハガキを出したり、DM(ダイレクトメッセージ)をファクスで送る「ファクスDM」を試したりもしましたが、あまり集客につながりませんでした。

本村:ITに詳しい吉岡社長がチラシを配布したというのは意外です。

吉岡:当時は「努力すれば必ず結果が出る」と思っていました。体力にまかせてチラシを配り、仕事をした気になっていました。しかし、実際には効率が非常に悪かったと考えています。今はこうした時間をより効率の良いネットブランディングにまわしています。

本村:Zenkenのサイトに御社が掲載されています。

吉岡:当初は自社サイトへのアクセスが好調だったこともあり、それほど期待していませんでした。しかし、実際にはZenkenのサイトから当社サイトへ多く流入しています。読者に必要な情報が入った良い記事が多く、データソースもしっかりしているためだと思います。具体的には月300~400の流入があり、そのうち20%の方々が自動見積もりをしています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。