山形県を中心に、宅配すし専門店として28店舗を展開するすし海道では、全店舗で70台ほどのiPadが配達業務などに活用されている。

すし海道 大野目店(山形県山形市)

すし海道の各店舗は、冬は雪深い東北の地にあり、宅配は主に車で行われる。宅配業の極意は、いかに注文を早く受けて商品を配達に回せるか、配達はいかにスピーディーに間違いなく届けられるかにある。

グローアップ株式会社 代表取締役 安食好幸氏

すし海道を運営する、グローアップ株式会社の代表取締役である安食好幸氏は、これについて考えを巡らせていた。

注文されたすしを届ける作業は、次のようになっている。配達スタッフがまず店舗で配達伝票と品物を受け取り、紙の地図(ゼンリン住宅地図)を見てお客様宅へ出発する。一件目の配達が完了すると、また地図を広げて次の配達場所を確認して向かうといったことを3~5回繰り返して店舗へ戻ってくる。

宅配時に使う紙のゼンリン住宅地図

安食氏は、「この配達作業に慣れるまでに3カ月~半年ほど必要でした。また特に夜間は暗くて見づらく、危険が伴うこともあります。問題は、せっかく雇用したスタッフも、この期間での離職が多く、採用しても従業員として育っていきませんでした」と宅配業務の難しさを語る。

さらに、フランチャイズ展開している業態に特有となる、経営上の悩みも抱えていた。日々稼働している多くの店舗の経営状況を把握することが必要だったものの、売上や利益といった数字の実績確認は一週間ベースのFAXによる報告だけだった。

「すべての店舗を毎日巡回することも難しいので、その状況が見えないことはすごく不安になり、つい悪い想像をしてしまいがちです」と安食氏。

こうした宅配店舗の経営ならではの課題に対して、安食氏はITを活用した統合的なシステム導入を決意、地元山形を拠点とするSIerの株式会社デーシーエスに協力を仰ぎ、独自の店舗システムを構築した。

構築したシステムの概要は、以下の動画ようなものだ。


iPadを使ったナビで効率的な宅配業務へ

配達業務の課題に関しては、配達スタッフへiPadを配付し、受注システムと連動したナビ機能を提供した。

デーシーエス代表取締役 管滋徳氏

「電話注文を受けた際、店舗のタッチパネル式PCに、電話番号に紐づいたお客さま情報(名前、住所など)がデータベースから検索されてすぐに表示されます。電話を受けたスタッフは、その内容をシステムに登録していきます。既存のお客さまであれば、それまでの注文履歴やサービスポイント数などもあわせて表示されます」(デーシーエス代表取締役 管滋徳氏)

注文の電話が入るとすぐにお客さま情報が表示される

注文データの入力が終わると、そのデータを配達スタッフがiPadで受信する。すると届け先の名前や地図が表示されるため、配達スタッフはそれを見ながらすぐに配達先へ行けるようになった。一件の配達が終われば、「完了」のボタンを押すことでオーダー列から消えていき、店舗側でも配達完了の確認ができる。

運転席に取り付けられたiPadはナビとして機能する

「紙の地図を見る必要がなくなるので、従業員の不安がなくなりストレスも減ります。新人も配達に関しては即戦力として働いてもらえるため、稼働率の向上につながりました。さらに、何件目まで終了しているか、約束の配達時間に遅れていないかなども店舗側で把握できるため、スタッフの増員といった対応もすぐにできるようになりました」(安食氏)

以前の配達時に利用していたのは、株式会社ゼンリンの住宅地図で、それぞれの店舗に1冊以上備えられており、年間数十万円という購入費用がかかっていた。今回のシステムではコストを抑えたいこともあり、iPadで表示する地図にGoogleマップをカスタマイズしたものを採用した。すると、これに大きな恩恵があった。

「先の震災から復興しつつある東北ですが、特に宮城県石巻市などは大きな区画整理が行われて住所が変わっていたり、仮設住宅が建つなど、日々変わるような状況です。当然、紙の地図では、たとえゼンリンでも追い切れていません。けれどもGoogleマップは震災後早くから対応してきました。そのおかげで、これらの地域にもすしをお届けすることができたのです」(安食氏)

リアルタイムな経営指標の「見える化」

 今回導入した店舗システムのもう一つの目的である経営指標の「見える化」にも、iPadは貢献している。

以前は、仕入れ原価、売上、人件費などのデータがそれぞれ各店舗のパソコンに格納されていた。一週間の「締め」が終わると、本社担当者が各店舗へ出向いてパソコン内のデータを吸い上げ、すべての店舗データをまとめあげてから経営資料が出てくるという状況だ。

「これではリアルタイムの売り上げを追ったり、利益などを判断することは困難で、経営的に問題だと感じていました」(安食氏)

そこで現在のシステムでは、全店舗のデータをクラウド上にすべて集約、いつでもどこでもリアルタイムな情報をiPadで閲覧できるようになっている。

「外出先からでも各店舗の数字を比較したり、その時点での在庫状況、経費の配分までも見られます。例えば売り上げの進捗を見て、目標値に達していればアルバイトの残業中止をすぐに指示できるなど、経営のための積極的な数字づくりのツールとなりました」(安食氏)

また、もとは防犯上の理由から導入した店舗内の監視カメラの映像もシステムに統合、iPadでいつでも確認できる。監視カメラというと、従業員からは「監視されている」ことへの不満の声も上がりそうだが、むしろ好意的に受け入れられているという。

「監視カメラの映像から、各店舗のオーダーの積み上げ状況なども確認しています。オーダーがたまってさばききれなくなりそうな店舗には、タイムリーにヘルプの要員をまわすこともできます。電話連絡はかえって現場の効率を下げるので、iPadで様子を見てすぐに対応しています。現場からは、困った時に助けに来てくれるので、監視カメラがあったほうがよいと言われています」(安食氏)

調理場の整理整頓など飲食業で重要な衛生管理面でも、iPadで写真を撮って全店舗に共有したり、従業員の勤怠管理のタイムカードとしても利用しているなど、各店舗においても日常的な活用が進んでいる。

「iPadは画面上のボタンを押すだけの操作なので、研修などの必要もなく、慣れればすぐに活用できるのもポイント。ほとんどの従業員は1日で慣れて使いこなしていますので、今後もiPadでできることを増やしていきたいですね」(安食氏)

今後はフランチャイズ店舗のさらなる拡大を進めていくという安食氏。

「新店舗にももちろんiPadを導入して利用を進めていきます。一緒に働く仲間として、ぜひ独立起業の志ある方からのご連絡をお待ちしております(笑)」