「魔法のパンツ」をキャッチコピーにレディス用ストレッチパンツ専門店「B-Three」を展開するバリュープランニング。このブランドをご存じない男性でも、ショッピングモールなどで前傾姿勢の下半身マネキンが並んでスリムなパンツをはいているディスプレイは記憶にあるのではないだろうか。

伸縮性と肌触り、シルエットにこだわった機能性パンツに特化する戦略で日本国内はもとより海外まで進出する同社は、一昨年にメンズ用ストレッチパンツ専門店「ビースリーMEN」の第1号店を神戸三ノ宮にオープンさせた。そこでのインパクトあるディスプレイとして、iPadと連携したクラウド型のデジタルサイネージ「ビジュアモール クイックサイネージ」(以下、クイックサイネージ)を導入した。

ストレッチパンツをはいて椅子に腰かけたマネキンの上半身部分は大型ディスプレイに覆われ、製品のPR画像がスライドショー的に次々と表示される

同社がクラウド型のデジタルサイネージを導入した背景は、以下の動画のようなものだ。


ワインセラーをイメージさせる「パンツセラー」で機能性をアピール

「ビースリーMEN」にデジタルサイネージを採用した経緯を広報PR担当の境祥子氏は次のように語る。

広報PR 境祥子氏

「オープン当初はレディス店と同じ明るい店舗デザインを採用していましたが、お客様のご意見を取り入れて店舗の空間デザインを大幅に変更しました。新しいコンセプトはワインセラーをイメージした『パンツセラー』です。樽に詰められて何年も熟成されるワインのように、当社の製品も素材や製法にこだわってつくる特別な一品なのだというメッセージを込めています」(境氏)

少し照明を落とした店内に入ると、壁一面にワインセラーのごとく筒状の商品が“貯蔵”されている。これはシリンダーパッケージと呼ぶ同社オリジナルの収納で、パンツを反物のように一着ずつ丸めて透明のパッケージに収め、それをワインボトルに見立てて棚に収納しているのだ。こうした特別な空間をアピールする店頭のアイキャッチとしてデジタルサイネージの採用が決まった。レディス店にはない初めての取り組みだった。

「PANTS CELLAR(パンツセラー)」と書かれた看板(左)、店内に足を踏み入れると壁一面にシリンダーパッケージが陳列されている(右)

「将来、デジタルサイネージを多店舗展開することを考え、コンテンツの差し替えを本部から一括で操作できるクラウド型の製品に絞って検討しました。多くの小売店に導入されている定番のデジタルサイネージ専用機を検証したところ、操作性に難点があり採用を見送りました。店舗スタッフはパソコンの操作に慣れている人とは限りません。毎日の開店準備でサイネージの設定に手間取るようでは長続きしませんし、店舗スタッフには接客のプロとして本来の業務に専念してほしいという思いもありました」と語るのは、デジタルサイネージの導入を担当したシステム管理課 次長の三室俊介氏だ。

マネジメント部 システム管理課 次長 三室俊介氏

大型ディスプレイにWindows OSが組み込まれたその専用機では、電源投入後にWindowsが立ち上がるので、そこからサイネージ用アプリケーションを起動してコンテンツの全画面表示に切り替えるという操作手順をきちんと教育しなければ使いこなせない。また、本部からコンテンツを配信するアプリケーションは別売で、どのアプリケーションも一定のITリテラシーを要求する難易度の高い製品だった。

誰でもマニュアルなしに操作できる「ビジュアモール クイックサイネージ」

そんな時にソフトバンクテレコムからリリースされたクラウド型デジタルサイネージ製品「ビジュアモール クイックサイネージ」(以下、クイックサイネージ)は、三室氏の求めていた容易な操作性が実現されていたという。

「当社ではiPadを導入して営業ツールや接客ツールに利用しており、ソフトバンクテレコムから同じ製品シリーズの『ビジュアモール スマートカタログ』というクラウド型コンテンツ配信アプリを使ったことがあり非常に使いやすかったのです。クイックサイネージも直感的な操作でコンテンツの配信設定が可能で特別なスキルを必要としません。また店頭では、iPadをコントローラとして利用し、iPadと大型ディスプレイをHDMIケーブルで接続してあるので、店頭スタッフはiPadと大型ディスプレイの電源を入れるだけでサイネージの再生が始まります」(三室氏)

大型ディスプレイの背面にはコントローラとして使用するiPadが専用の什器で固定されている

マネキンと一体化した大型ディスプレイには背後にiPadを設置する専用什器を用意して、リニューアルオープン時からアイキャッチとして稼働させている。その効果については「何のショップだろうと不思議がって立ち寄るお客様が増えています」(三室氏)と狙いどおりの効果を発揮しているようだ。店頭の奇抜なサイネージで通行人の足を止めさせ、一歩店内に入ればワインセラーを模した商品陳列がさらに顧客の好奇心を掻き立てる。こうした2段階のサプライズは同社の新たな店舗スタイルとして全国のメンズ店に展開されていく予定だという。

アイディアマンで知られる同社の井元憲生社長は「アパレル否定型アパレル」を標榜して次々と新しい販売手法を取り入れてきた。同社のアイコンともいうべき下半身マネキンは海外の映画ポスターをヒントに井元社長が発案した特注品。店舗内に商品を平積みせず、シリンダーパッケージに収納して壁面に並べるスタイルも同社のオリジナルだ。今回メンズ店に導入したデジタルサイネージをレディス店に展開する際には、「新たなサイネージ手法を開発しますから期待していてください」(三室氏)とのことだ。

クイックサイネージはサイネージ専用ディスプレイが不要で、汎用的な大型ディスプレイに投影できるほか、iPad単体でのサイネージにも対応しているため、初期コストを抑制できる。管理用アプリはWebアプリとして提供されるのでインターネットにつながるパソコンさえあればよい。既存製品に比べて初期コストを下げられたのも「クイックサイネージ」を採用した理由だと三室氏は語る。

おもてなし研究所で自社制作した動画配信をiPadで配信

同社の店舗にはプロ・フィッターと呼ばれる接客スタッフが配置されている。彼女たちはファッション性だけではなく製品の機能性をアピールする必要があるため、素材や製法といった深い知識を必要とされる。また接客態度にも同社独自の気配りがある。

「シリンダーパッケージを採用したのは、筒形の形状であれば必然的に両手で商品をお客様にお渡しすることになり、よりていねいな接客が生まれるという理由もあります。特別な商品を、特別な経験を通じて購入していただくため、それに見合った接客が求められるのです」と境氏は語る。

こうした接客ノウハウを全国のプロ・フィッターに浸透させるため、同社では「おもてなし研究所」の設立準備を進めている。ここでは同社が理想と考える接客を研究するとともに、それを自社で動画撮影して全国店舗に配信するために自社スタジオも用意するという。「接客ノウハウの動画は、デジタルサイネージと同様にiPadのネットワーク機能を活用した会議システムで配信する計画です」と三室氏は今後のiPad活用の構想を語る。

アパレル企業である同社がそうであるように、小売業界ではICTエンジニアを雇用せず「パソコンの得意な人」がシステム関連の業務を兼任することは多い。三室氏もファッション業界のキャリアを持ちICTの専門家ではないそうだ。そうした社内環境では複雑な操作や専用機材の設置を省略できるiPadソリューションやクラウド型サービスの導入で手軽にICT活用が実現するようだ。