静岡県に12の営業所を展開し、明治乳業の牛乳や乳製品、健康食品などを個人宅やオフィス、保育園・幼稚園・老人ホームへ宅配する駿府宅配センター。各宅配員が、担当する宅配ルートを簡単に覚えられるツールとしてiPadの導入を決めた。

駿府宅配センター

宅配ルートを効率的に確認できるツールが欲しい

同社1店舗あたりの顧客数は約1,200件。各店舗に10~12人程の宅配員が在籍し、1人当たり1回80~100件の顧客を担当する。宅配日は週4日。エリアを大きく2つに分け、月木または火金に、各個所に週2回、車で配達する。

新人の宅配員が担当するルートを覚えたり、既存の宅配員が新たなルートを確認するには、ルートごとにお手製でルートマップを作成していた。配達順に並ぶ顧客リストをPCからプリントアウトし、その住所に該当する地図を地図帳からコピーする。双方を突き合わせて確認しながら配達に使用する。分かりにくい個所には、地図に赤ペンで印を付けたり、新たな住宅地などは、地図に掲載がなければ手書きしていた。

駿府宅配センター 代表取締役 堀由博氏

「ルートが変更になるたびに、コピーして色塗りする作業は手間がかかって厄介でした。加えて既存の地図帳は、サイズも大きく重たいなど使い勝手が悪い。もっと使いやすく、持ち運びに適した地図はないかと考えていました」と、語るのは、有限会社駿府宅配センター 代表取締役 堀由博氏だ。

牛乳や乳製品の宅配は、寒暖の影響を受けやすい。商品の内容や、契約顧客数が季節によって変動する。月ごとに200~300件の顧客が入れ替わることも普通だという。これを受けて宅配員が担当する顧客も変更になり、その都度新たなルートの確認が必要になる。

宅配ルートを確認するためのお手製クリアファイル

そこで堀氏は、業務改革で利用され始めてテレビなどでも取り上げられるようになったiPadを使った業務効率向上の仕組みを検討することにした。

「地図帳は、最新情報を反映させるために毎年買い替えが必要でした。1冊数万円、全店舗で年間30万円程度はかかっていました。その費用を、iPadを用いたシステムに充てて業務改良しようと考えました」(堀氏)

iPad上で宅配ルートが確認可能なマッピングアプリを導入

同社が選択したのが、アドテクニカの「e-MapLocation」。登録した顧客情報を元に、スマートフォンやタブレット端末から、外出先でも配送ルートや顧客情報の確認が可能になる。Google Mapsと連動したクラウド型ロケーションツールだ。

同社では、既存で使用していた顧客管理システム「羅針盤」の情報を「e-MapLocation」の管理画面より投入し、宅配ルートや顧客住所をiPadからMap機能で確認できるようにした。これにより、どこにいてもiPadから手軽なルート確認が可能になった。

e-MapLocationアプリを立ち上げると、Google Maps上に、複数の数字のアイコンが表示される。アイコンの位置は顧客の住所を示しており、数字は宅配する順番を表示している。アイコンとアイコンは赤い線でつながれていて、その日のルートを示している。宅配員は、赤いルートをたどって数字順に宅配すれば完了する仕組みだ。アイコンをタップすると、宅配先の顧客名・住所・商品・個数などの詳細情報を確認することも可能だ。ルートに変更が発生した際は、PCの管理画面から更新操作をすれば、iPad上ですぐに新しいルートが閲覧可能になる。

Map機能には、1人の宅配員のルートを表示する単数コースと、全宅配員のルートを表示する複数コースがある。宅配員が自分の担当顧客とルートを確認したい場合は単数コース、店長が全体の宅配状況を確認したい場合は複数コースと、用途によって選択でき、iPad上のボタンで簡単に画面切り替えが可能だ。

1人の宅配員のルートを表示する単数コース。赤い線に従って番号順に宅配すれば、道に迷うこともなくなり、宅配漏れも防止できる

全宅配員のルートを確認できる複数コース。担当ルートごとに色分けされたアイコンで表示している

顧客情報の確認は、画面左下にある「カレンダー」機能からも閲覧できる。顧客名、宅配先、商品内容を一覧表で確認できるほか、備考欄に情報を書き込むこともできるので、宅配先での顧客とのやり取りをメモしておき、宅配員全員で情報共有することも可能だ。

「『この前、宅配員さんにお願いした来週火曜の配達休みは反映されていますか』といったお客さまからの問い合わせにも、iPadから備考欄を確認すればすぐに対応可能になりました。集金の方法(時期や場所)や、宅配の方法(代金はAさんからいただくが、商品は2~3カ所に分けて宅配)など、顧客からの要望を細かく記載して情報共有できるのは便利ですね。紙ではこのような運用はできません」(堀氏)

マッピングアプリが最短のルートを指示、宅配効率向上で、急な欠勤にも対応可能に 導入して2~3カ月でさまざまな効果を実感していると語るのは、宅配員の管理・サポートを行う鈴木真奈美氏。

鈴木真奈美氏

「紙面の地図は、ページとページのつなぎ目で位置情報を特定しにくいのが悩みでした。以前は、地図の切れ目で、どこにいるか分からなくなって道に迷ったり、全体が見えず遠回りをすることもありました。iPadがあれば、画面上で地図が途切れることもなく、宅配順にルートを表示してくれるので、行き先に迷うことなく効率的な配達が可能になりました」(鈴木氏)

Google Mapsのストリートビュー機能も活躍している。初めてのコースでもストリートビューがあれば、「道が狭くなっているけど、通れる」といった確認ができるので、事前にイメージをつかむのに重宝するという。

同社の宅配時間は、午前9時から午後3時の間。宅配員には、子供が学校や保育園に行っている隙間時間を利用して働くママ宅配員も多くいる。子供の発熱で、急な欠勤もたびたび発生する。欠勤分の宅配は、他の宅配員に再配分するが、朝の欠勤連絡を受けてから、宅配員にルートの変更・追加を説明していたので遅延しがちだった。

iPad導入後は、急な欠勤があっても遅延はほとんどなくなった。欠勤が分かった時点で、サーバ上のデータを変更すれば、欠勤者分の再配分を加えた最新ルートがiPad上からすぐに確認できるため、スピーディな宅配指示が可能になったからだ。

「以前は、宅配コースの割り振りを考え直したり、地図をコピーし直すことに時間を取られていましたが、今ではそれらの作業は不要になりました。導入前は、1時間程度の遅延が発生していましたが、今は10分程度の遅延に短縮できました。働くお母さんが安心して休める環境づくりをできたことは、とても大きいです」(堀氏)

iPadを通じて静岡県内の支店間の距離も近づいた。以前は、店舗間の情報共有は、FAXや電話がメインで、他店と地図を共有するにも、FAXではかすれて見えないなどの不満があった。iPadを用いるようになって、メールやe-MapLocationでのデータ共有が可能になり、店舗同士の情報手段は格段に進歩した。今では、2カ月に1度の店長会議の際にも、資料は紙ではなくiPadに入れたデータを使うという。

宅配員にスマホを貸与で、宅配数1.5倍実現に期待

現状、iPadを配布されているのは各店舗の店長のみのため、店長の裁量で、新人の宅配員にiPadを貸与して宅配先でルート確認させたり、ルート画面を印刷して宅配員に持たせたりして利用している。それでも効果は十分実感しているという堀氏。今後はさらに活用を拡げて、宅配員全員にスマートフォンを配布して、出先の宅配員にルート変更を指示したり、出先から宅配完了を報告させるなど、「スマートフォンを見ながら宅配する」仕組みを整えたいという。実現すれば、宅配効率は大幅に向上し、現在の1.5倍の宅配数をこなすことも可能だろうと堀氏はいう。

「顧客の要望・注文に即時対応を実現するには、iPadのような手軽な情報ツールは本当に便利です。活用することで業務そのものを変えていける可能性を持っていますね」と堀氏は期待を込める。