落とし物をした時、なくしたものに合わせてどこに連絡して、どう対応すべきなのかをわかりやすくまとめているサイトがある。さらに、紛失物情報を登録すると誰かが見つけた時に教えてくれたり、たまたま拾ったものを登録しておくと、なくした人が検索して見つけたりといった、人と人とをつないで落とし物に対応する機能を持たっているのが、紛失・忘れ物・落とし物情報の総合ポータルサイト「落し物ドットコム」だ。
2012年にこのポータルサイトを立ち上げ、社名もそのまま落とし物ドットコムとしてスタートした企業が、現在の「MAMORIO」だ。社名は変わっても、「なくすを、なくす。」というビジョンを掲げている。
そんなMAMORIOのメイン商材が、物品に取り付けることで紛失を防ぎ、紛失時の発見を助ける落とし物防止タグ「MAMORIO」だ。縦35.5mm×横19mm×厚さ3.4mmという小さなタグは、重さも3gと軽量。財布へ入れたり、キーホルダーに取り付けたりといったことが気軽にできるサイズとなっている。約1年間稼働するためのリチウム電池が入ったBluetooth 4.0対応のタグで、スマートフォンと組み合わせて利用する。
「2014年にクラウドファウンディングで集めたのは、約300万円程度でした。当時は今ほど高額を集めるクラウドファウンディングもなかったので、金額としてはそのくらいです。もちろん資金も必要でしたが、それ以上に求めていたのがハードウェア開発の支援でした」と語るのは、MAMORIO 最高執行責任者 COOの泉水亮介氏だ。
当時、Webサービス中心に展開していた同社にとって、初めてのハードウェア開発。「仮に資金があったとして、それだけでは絶対に作れなかったと思います」と泉水氏は当時を振り返る。
スマートフォンと連携して「落とすとお知らせ」
MAMORIOは購入後、自分のスマートフォンとBluetoothをペアリングする。常に通信して現在位置を確認し、一定時間離れると紛失したと判断、スマートフォンにアラートを出すという仕組みだ。アラートには最後に通信が成功した位置が表示されるため、自宅やオフィスなど、どこに置き忘れたのかがすぐにわかる。
「なくした物の大半は、家や会社、飲食店、電車などへの置き忘れです。財布がないと気づいた時、どこにあるのかがわからないと鞄をひっくり返し、どこで最後に使ったのだろうと考え、移動した経路を辿って落とした場所を考えます。たぶんあそこだろうと思ってもはっきりしないので、ずっと不安です。それがMAMORIOによって例えば家にあることがはっきりすれば、安心できます」(泉水氏)
飲食店など自宅以外の場合でも、おおよその位置情報がわかれば、問い合わせしやすくなる。
位置情報といえばGPSが思い浮かぶが、これはコスト面から見送られた。現在、MAMORIOの販売価格は3,500円(税別)で、普及を目指すならばこのあたりだろうと最初から目指していた価格帯だという。
「タグ価格の10倍くらいのものに取り付けると考えた時、このくらいの価格でないと使ってもらえないと思いました。また、身の回りのものに取り付けることを考えた時、タグ本体から音を出す構造は大型化し、バッテリー寿命も縮まります。安価でコンパクトに作ることを考え、現段階で選択したのがBluetoothなのです」と、泉水氏はBluetoothを採用した理由を説明した。
ユーザーは今のところ7:3で男性が多く、特に50代男性が多いという。これは、手回り品に高額なものが増える年代であること、仕事関連のバッグやPC等を紛失した時のリスクが若手に比べて大きいことなどから使われているのではないかと泉水氏は分析する。
「ギフトでも多く利用されています。電池交換はできませんが、登録後180日経つと、『"OTAKIAGE(おたきあげ)』というサービスを使って、半額で新しいものに取り替えられます。お守りを買い換える感覚です」(泉水氏)
駅や店に届くとわかる「MAMORIO Spot」増加中
MAMORIOにはもう1つ「みんなでさがす」というモードがある。他人のスマートフォンが自分のMAMORIOと通信できた場合に「落とし物を発見した」と判断するもので、持ち主のスマートフォンに発見されたタグの位置情報が伝えられる。発見した人と落とした人の個人情報は一切やりとりされないため、安心して利用できる。
「これはユーザーが増えるほどに効果がある機能です。ユーザー数は現在数万人以上で、1年で大きな伸びを見せています。首都圏だけでなく地方でも、ほぼ人口比と同じ程度で広がっているのですが、それでもこの機能だけで落とし物を捜すのは現実的ではありません。ある特定の場所に落とし物が届けられたらわかるようにするという『MAMORIO Spot』で、より見つかりやすくなります」(泉水氏)
MAMORIO Spotの設置先として現在拡充が進められているのが、鉄道会社だ。鉄道会社の遺失物置き場にMAMORIOを付けた落とし物が到着すると、持ち主のスマートフォンに位置情報が配信される。落とし主は鉄道会社や駅に問い合わせる必要がないばかりか、具体的に何線のどの駅に行けば返還してもらえるのかがわかる。
現在、全国で警察に届けられる落とし物は、年間2600万件に及ぶという。
「デフレで物が安くなり、大切にしない人が増えたのか、10年で倍増しているそうです。そのうち1000万件が駅に届くそうで、鉄道会社では落とし物を集めて管理するのが大きな負担になっています。しかも大きな駅だと、乗り入れている鉄道会社ごとに管理が違うため、どの鉄道会社で管理されているのかを確認するだけでも手間がかかるのです」と泉水氏は鉄道会社側でもMAMORIO Spotの設置を歓迎していることを語った。
MAMORIO Spotに置かれる通信端末は大きく2通りがある。1つはBluetoothの通信機器を設置する方法で、数社の機器を採用している中、多く採用されているのがぷらっとホームの「OpenBlocks IoT EX1」だ。
「現在はBluetoothを利用していますが、将来的には別の方法を使うかもしれません。LoRaWANが来るかもしれないし、Sigfoxになるかもしれない。そうした時、機器ごと入れ替えるのでは大きな手間です。また、MAMORIOを落とし物以外で使いたいと考えた時、カスタマイズが必要になる可能性もあります。ぷらっとホームの機器は対応力、拡張性が高いため将来に備えるという意味で採用しました」(泉水氏)
もう1つの方法は、スマートフォンやタブレットなどBluetooth通信機能を持ちインターネット接続のできる機器を、そのままスポットに利用する方法だ。これは専用アプリをインストールし、スポット名を独自に登録するだけで利用できる。
「今は家庭でもスマートフォンの買い換えが進み、余った機器が出ている頃です。玄関に設置しておいて、子供の帰宅がわかるようにするというような使い方もアリかもしれません。駅などでも、低コストで既存機器を活かした導入をしたいという場合に採用されています」と泉水氏は語った。
OEM商品や保険など幅広い展開へ
MAMORIOは現在、個人が購入して手持ちの財布等へ取り付けるほかに、企業にも展開している。テレビ局や航空機管理会社などで機材を管理するための利用では、タグの軽さ、取り付けやすさが評価されているという。
また、OEM展開も行っている。過去にはMAMORIOを組み込んだ形での商品販売も行われた。手袋や傘など、なくしやすいものに最初からMAMORIOを組み込んでおけば、なくした時に見つかる物という付加価値付の製品ができるわけだ。
「今、MAMORIOには『あんしんプラン』というものがあります。年間1デバイスあたり1000円を支払っていただくと、紛失後に各種問い合わせを代行したりする発見支援サービスが受けられるほか、登録した物によって2~3万円の補償が受けられます。紛失補償というのは保険会社側でリスク判断が難しいですし、紛失したかどうかを判断しづらいため商品化できなかったのですが、MAMORIOによって可能になりました」と泉水氏。
この他にも、介護業界での人探し需要など、単純な落とし物捜索という枠を超えた利用が開始されており、今後も幅広い展開が期待できそうだ。また同時に、MAMORIO Spotの拡大やユーザー増加によって落とし物がより素早く、確実に見つかる社会の実現にも近づいて行くだろう。
「東京オリンピック招致の時の有名になった『オモテナシ』というキーワードは皆さんご存じでしょうが、あれが落とし物が戻ってくる国だという日本の紹介に続く言葉だということはあまり知られていません。落とし物がきちんと届けられる、戻るというのは世界的にすごいことなのです。それは日本人の倫理観や人柄で作られてきた文化ですが、これをIoTで、もっと確実に実現して行きたいですね」と、泉水氏は2020年を目指した展開も語る。
今後MAMORIOは、IoTに関わる技術や部品がこなれ、普及によるコストダウンによって、本体価格が大幅に下がる可能性があるという。泉水氏は具体的に「数年のうちに1000円程度を目指したい」と語った。より手軽に利用できるようになったタグが広がり、社会の落とし物が大幅に減る将来を目指した展開に期待したい。