4年に一度、英連邦に属する国と地域が参加するスポーツの一大イベント「英連邦競技会(コモンウェルスゲーム)」がデリーで始まった。開会式は始まっていると思うのだが、まったく情報が入らない。入ってくるのは「インフラ整備が間に合わない」「完成した競技場の屋根が壊れた」「歩道橋が崩落した」といったニュースばかりである。インフラだけではない。選手村もあまりにも非衛生的で、直前まで「中止の危機」と言われる始末である。筆者にとっては気が気でない。日本のメディアでは報道されないので、インドの「THE HINDU」のWebサイトを見てみると、Liveで開会式の模様を伝えている。良かった。開催できたようだ。少し安心した。

頑張れインド India, Do your best. For the success of the Commonwealth Games.

中国・インド版「大学は出たけれど……」

コモンウェルスゲームの話題は筆者の独自コラムの場に移させていただくとして……今回のコラムは中国とインドにおける「婚活」の話である。これは大連郊外の中国企業で働く日本人の知人女性から聞いた話だ。

休日の大連・労働公園に人だかりが……

先月中旬、彼女は休日に市内に出てきた。すると、市内中心部・労働公園公園東口の傍に妙な人だかりができていたそうだ。しかも集まっているのは年配の方ばかりである。皆真剣な顔つきでメモを取っている。「何だろう?」と近づいてみると、木の幹や看板に所狭しと紙が貼ってある。よく見ると、どれも「結婚相手募集」と書いてある。

この貼り紙には、自分の経歴、職業や収入、相手に対する要求条件を書いた紙である。女性も職業・収入を書く。年齢も様々で、驚いたことに、中には60代の人のものもある。日本の「婚活」も厳しいと聞くが、中国も厳しいようだ。子供の結婚相手を探しに、親が「活動」している。

所狭しと貼り付けられた結婚相手募集の貼り紙

マクロな中国経済は絶好調だが、大学を出たからといって就職できるわけではない。それだけ大学卒業者の数が増えている。

大連のIT企業に働く若者たちに聞いてみても、大学卒業後にITと日本語の専門学校で勉強してから就職するケースが多い。

これは当社の中国人社員に聞いた話だが、中国ではマンションを買っていないと結婚は難しいとのことである。就職も大変だし、マンションも買わなければならない。なかなか結婚相手を自分で探す時間もないようだ。

インドではどうか。インドでも大学を卒業したからといって就職できるわけではない。大学生の数が多いのは中国と同じである。しかしインドでは貼り紙はしないようだ。こちらは「お見合い新聞」である。新聞を見て応募(?)してからお見合いとなる。

インドの「お見合い新聞」(「THE HINDU」の花婿募集欄)

そこに書いてある内容は中国もインドもあまり変わらない。当然のように、いかに自分を良く見せ、相手に求める要求を高くするかである。女性に関しては、どうやら中国もインドも「美白」が歓迎されるようだ。

インドでは美白は身分が高いことの象徴のようで、中国の女性は美白に加えて身長が求められる。美人であるか否かよりも背の高い人が好まれるらしい。

悲劇を生む偏った男女の人口構成比と社会的背景

実はインドも中国も、男女の人口構成比率の偏りからくる問題に直面している。北インドのいくつかの地域では、男女比が100対80の割合になっていると聞く。こうなると特に男性の「婚活」は厳しい。

昔の日本もそうだったが、中国もインドも子どもは男児が望まれる。インドでは男尊女卑の考えが強く、特に結婚の時には嫁入りする相手の家に多額の金品(ダウリ)を納めなければならない。貧しい農家にとっては切実な問題である。そのため、1人目の子どもが女児で2人目以降も女児だった場合は、中絶せざるを得なくなる。

中国に「ダウリ」はないだろうが、「1人っ子政策」がある。1人目が女児の場合は2人目を産むことができるらしいが、この政策のために、やはりますます男女比率の差が拡大しているとのことだ。生まれる時に女性は大変だが、「婚活」は男性の方が大変である。

中国の貼り紙になくてインドのお見合い新聞にあるのは、やはりカーストである。別のカースト間での結婚はヒンドゥ教では認められないためである。しかし、経済発展と中間層の増大に伴って、異なるカースト間での「恋愛結婚」も増えだした。時代の流れである。

ところが現実は厳しい。本人たちはそれで良くても、両家にとっては大変である。結婚したカップルを親族らが殺害する事件も相次いでいる。「家の名誉を汚した」との理由による「名誉殺人」だ。特に女性側の親が娘と相手の男性を殺すケースが多いようだ。

何が「名誉」なのか外国人の筆者にはわからないが、これが増えているのが現実とのことだ。もちろん法的には殺人罪である。しかし法律で裁かれたとしても、社会的には認められるケースもあるようだ。

少し書き過ぎた……この話について、具体例にまでは触れないことにする。

カーストではなく「インド国民」としての一体感が作れないと自由な「婚活」も難しいようである。そのためには、やはりコモンウェルスゲームを成功させ、将来のオリンピック開催を期待するしかない。

開会式は成功した。民族が違ってもカーストが違っても、「インド国民」を熱狂させるアスリートが必要だ。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「[(続)インド・中国IT見聞録]」も掲載中。