高まるWebベースのIDEへの注目

クラウドの普及とともにWebベースのIDEにも注目が集まっている。クラウド上に配置されたさまざまなデータやアプリケーションをWebブラウザから利用できるようになってきている。これによって異なるロケーションや端末でも同じ作業環境を利用できるというメリットがある。

ただし、ことソフトウェア開発ではバグトラッキングシステムなど周辺ツールはWebベースのプロダクトが普及しているものの、作業の中心となる統合開発環境は依然としてスタンドアロンのクライアントアプリケーションのままだ。

IDEがWeb化すればWebベースのツールとのより高度な連携や、セットアップの手間の軽減などが期待できる。また、クラウドで提供されるPaaSの場合、Webブラウザ上でアプリケーションを開発し、そのままデプロイするといったように、実行環境だけでなく開発環境もサービスの一部として提供できるといったメリットもあるだろう。

本連載でも過去にCloud9 IDEBespinなどのWebベースのIDEを紹介してきたが、今回はEclipse Foundationで開発されているOrion(本稿執筆時点ではまだpre-proposalの段階なので正式なEclipseのプロジェクトというわけではない)を紹介したい。

Orionのインストール

Orionは現在0.2M4がリリースされており、こちらからダウンロードすることができる。実行したいプラットフォームに応じたアーカイブをダウンロードし、適当な場所に展開する。展開したディレクトリ内に含まれるeclipse.exe(Windowsの場合)をダブルクリックするとOrionが起動するのでWebブラウザでhttp://localhost:8080/にアクセスしてみよう。以下のようにサインイン画面が表示されるはずだ。

図1 Orionのサインイン画面

適当なアカウントを作成してサインインすると以下のよなファイルブラウザが表示される(OpenIDを使用してサインインすることもできる)。ファイルブラウザではディレクトリの作成や削除、お気に入りへの追加といった操作を行うことが可能だ。

図2 ファイルブラウザ

ファイルブラウザ上でファイルを選択するとファイルの内容をエディタで編集することができる。入力補完といった高度な機能は実装されていないが、JavaScriptの強調表示や対応するカッコの表示、構文チェックなどがサポートされている。また、エディタ左側には関数の一覧が表示され、クリックするとエディタの該当箇所にジャンプすることができる。

図3 エディタでファイルを編集

まとめ

WebベースのIDEにはさまざまなプロダクトが開発されているが、今回紹介したOrionを含めまだ実用レベルに到達しているものは存在しないのが実情だ。

また、Orionの開発チームの一人であるBoris Bokowski氏のブログによると、Orionは現在のEclipseのような高機能なIDEを直接置き換えるものではなく、Webアプリケーションのフロントエンドの開発における軽量なIDEを目指しており、ファイルブラウザ、エディタ、デバッガ、バージョン管理といったシンプルな機能を持ったIDEで充分であるという方向性を採っているようだ。

たしかにJavaScriptのような動的な言語ではJavaのような静的な言語と比べるとIDEを使用するメリットは薄い。それよりもセットアップ不要でいつでもどこでもコーディングできたり、他のWebベースのツールとの密な連携による作業効率の向上というメリットのほうが大きいというのも頷ける判断といえるだろう。

Orionにしろ、Cloud9 IDEにしろ、WebベースのIDEは、まずはHTMLやJavaScriptの開発環境として発展していくものと思われる。現在主流となっているEclipseやVisual StudioといったクライアントアプリケーションとしてのIDEがすぐになくなることはあり得ないが、開発環境の新しい形としてWebベースのIDEの動向には今後も注目していきたい。