Google Geminiにはより賢いモデルを採用した「Gemini Advanced」という有償版サービスが存在している。Google Geminiを日常的に使う、特に業務に使うということになったらぜひ使用を検討したいサービスだ。今回はGoogle Geminiと比べてGemini Advancedがどのように賢くなるのかを紹介する。

連載「Google Geminiの活用方法」のこれまでの回はこちらを参照

生成AIチャットボットは有償版の方が賢い

広く使用できる汎用生成AIチャットボットである「OpenAI ChatGPT」「Microsoft Copilot」「Google Gemini」にはそれぞれ無償版と有償版がある。

無償版と有償版にどのような差があるかというと、採用している大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)が違うという点だ。モデルは生成AIの賢さそのものであり、モデルが変わるということは賢さそのものが変わることを意味している。有償版には最新のモデルを採用し、無償版にはひとつ前のモデルが採用されているケースが多い。

また入力できるデータサイズ(文字数)やデータ種類の差やシステム負荷が高いときの優先度の差などが、有償版の方がサービスがより幅広くカバーされており、無償版の方は各種制限が入っているような設定になっていることが多い。画像生成機能などは、無償版にはなく有償版にのみ提供されているなどという違いがあることもある。

そんなわけで、無償版のサービスを使ってみて有用性を見出した場合、有償版に変えることでさらに恩恵を受けられる可能性がある。特に賢さそのものが変わるということろが重要で、ぜひ一度有償版を使ってどの程度違いがあるか確認してもらいたい。

Gemini Advancedとは

Google Geminiの有償版は「Gemini Advanced」だ。Google Geminiを使っていると右上に「Gemini Advancedを試す」という表示があり、ここからGoogle Advencedの契約を行うことができるようになっている。

  • Google GeminiからGemini Advancedの契約が可能

    Google GeminiからGemini Advancedの契約が可能

「Gemini Advancedを試す」をクリックすると、次のようなGemini Advencedの特徴の表示とともに、トライアルを開始するかどうかのダイアログが表示される。

【Gemini Advancedの特徴】

  • Googleの次世代モデル「Gemin 1.5 Pro」を使用 - 論理的推論、分析、コーディング、クリエイティブなコラボレーションの機能が大幅に向上。より多くのタスクをスピーディーに処理可能
  • 100 万トークンのコンテキストウィンドウにアクセス - 最大 1,500ページのPDFや3万行のコード、1時間の動画など膨大な量の情報を一度に処理し理解可能
  • 新機能や限定機能を利用可能 - ドキュメントアップロード、編集、Pythonコードの実行、その他の限定機能などを使って分析情報の把握やトレンドの特定、重要な情報の要約をすばやく行うことができる

【Gemini Advancedの契約で利用することになるGoogle Oneプランの特典】

  • GmailやGoogleドキュメントでの文書作成サポート、Googleスライドでオリジナル画像の作成支援
  • Google Meetの画質向上および長時間グループビデオ通話対応
  • Googleカレンダーにおける高度な予約スケジュール機能などの追加機能対応
  • Googleフォト、Googleドライブ、Gmail共通のストレージに2TB追加、および、最大5人のユーザーとメンバーシップ共有に対応
  • Googleストアで10%のキャッシュバック

次のスクリーンショットのように「トライアルを開始」をクリックすることで契約を進められる。執筆時点だと2か月間は無償で、それ以降は月額2,900円の使用料がかかる。試用するには十分な期間ではないかと思う。

  • 2か月間のトライアル期間、以降は月額2、900円

    2か月間のトライアル期間、以降は月額2,900円

もろもろの確認やクレジットカード情報の入力などを行う。

  • Google One利用規約に同意

    Google One利用規約に同意

  • Gemini Advancedに移動

    Gemini Advancedに移動

契約が完了すると、使用するモデルとして「Gemini」と「Gemini Advanced」の双方が選択できるようになっていることが確認できる。ここを「Gemini Advanced」に設定しておく。

  • Gemini Advanced

    Gemini Advanced

  • モデルとして「Gemini Advanced」を選択

    モデルとして「Gemini Advanced」を選択

Gemini Advancedの使い方はGoogle Geminiの使い方と同じだ。さまざまな作業を行ってGemini Advancedの特徴を把握していこう。

Gemini Advanced:誤回答の低減

GeminiにはGoogle検索を使ったダブルチェック機能が用意されている。この機能を試用するためにトレーニング前に接種するサプリメントに関する質問を行った。次の質問だ(参考「Google Geminiの活用方法(4) Geminiの嘘を見抜く方法 | TECH+(テックプラス)」)。

トレーニング前にシトルリンやアルギニンを摂取することでより高いトレーニングを実現できるといわれていますが、その理由を教えてください。

無償版のGeminiはこの質問に対して正しい回答も出したが、不適切、ないしは、明らかに誤った回答も返した。連載ではこの真偽の確認にダブルチェック機能を使う方法を取り上げたわけだが、Gemini Advancedで同じ質問を行うと次のような回答が提示され、偽情報が表示されなくなっている。

  • 同じ質問に対して適切な回答を行うように改善されているAdvanced

    同じ質問に対して適切な回答を行うように改善されているAdvanced

正直なところ無償で使用できる現在のGeminiは誤回答や質問意図の理解力の低さなどがあり、使いこなそうとするとユーザーがある程度補填や真偽判断をしてあげる必要があるので、やや大変な部分がある。AdvancedにするとGemini自体が賢くなり、そうした負担が減る。Geminiを積極的に活用するのであれば、このメリットを享受するためだけにAdvancedにアップグレードする価値があると感じている。

Gemini Advanced:複雑な文章の理解力の向上

連載で複雑な文章を理解して要約させる実験を行ったことがある。このときGeminiは要約を間違え、嘘の情報を提示してしまっていた(参考「Google Geminiの活用方法(6) 要約に使うときの注意点 | TECH+(テックプラス)」)。この質問をGemini Advancedに対しても行ってみる。

なお、Gemini Advancedは無償版のGeminiと異なり、PDFファイルを直接アップロードできるようになっている。無償版のGeminiではURLで指定したり、Googleドライブにアップロードした上でPDFを指定する必要があったが、Advencedでは処理してほしいPDFをプロンプトにアップロードして指示を行う。

対象となるPDFをアップロードして次のようにプロンプトに指示を行う。

このPDFがビタミンDの摂取量について説明している内容をまとめてください。

表示される回答は無償案のGeminiよりも改善されている。少なくとも誤っていた摂取量(目安量)の説明は改善されており、適切な値が表示されるようになっている。

生成AIを使って要約を行わせたい場合、ともかく文章の内容を正確に理解し、正確な情報を提示してもらう必要がある。そうでなければ結局自分で読んで確認を行う必要があるので、二度手間になり、あまり業務改善の効果が得られない。この点、無償版のGeminiとGemini Advancedは明らかに性能が異なっており、Geminiを使うのであればなるべくAdvencedを使ったほうが業務改善が期待できるだろう。

Gemini Advanced:論文の閲覧支援の向上

連載では論文の内容確認にGoogle Geminiを使ったが、参考文献を示すように指示を出したがうまくいかないという経験をした。これと同じことをAdvancedで行ってみる。まず、論文のPDFをアップロードするとともに、内容を要約させる。

このPDFの内容を要約してください。

  • 指定した論文の内容の要約を生成

    指定した論文の内容の要約を生成

要約は上々だと思う。よく内容がまとまっている。

次に、無償版のGoogle Geminiではうまくいかなかった参考文献を表示させる質問を行ってみる。

微小電流療法デバイスを1日3時間、4週間着用した根拠として挙げられている参考文献を教えてください。

  • 参考文献を表示するように指示

    参考文献を表示するように指示

上記スクリーンショットのようにAdvancedは質問の内容を正しく理解し、適切な回答を行っている。無償版のGoogle Geminiでは自分で原文を読んで辿っていく必要があったので、性能が向上していることが分かる。

Advanced:英日翻訳に大きな差はなし?

連載で英文を日本語に翻訳するサンプルでは、翻訳の一部が誤訳になっていた(参考「Google Geminiの活用方法(5) 翻訳に使うときの注意点 | TECH+(テックプラス)」)。

同じ翻訳をGemini Advancedで行うと次のようになる。

「次の英文を日本語に翻訳してください。

Less than two months ago, we made our next-generation Gemini 1.5 Pro model available in Google AI Studio for developers to try out. We’ve been amazed by what the community has been able to debug, create and learn using our groundbreaking 1 million context window.

Today, we’re making Gemini 1.5 Pro available in 180+ countries via the Gemini API in public preview, with a first-ever native audio (speech) understanding capability and a new File API to make it easy to handle files. We’re also launching new features like system instructions and JSON mode to give developers more control over the model’s output. Lastly, we’re releasing our next generation text embedding model that outperforms comparable models. Go to Google AI Studio to create or access your API key, and start building.」

  • Advancedで翻訳を行ったサンプル

    Advancedで翻訳を行ったサンプル

生成された翻訳は次のとおりだ。

2か月も経たないうちに、私たちは次世代のGemini 1.5 ProモデルをGoogle AI Studioで開発者の皆様に試用いただけるようにしました。画期的な100万トークンのコンテキストウィンドウを使って、コミュニティがデバッグ、作成、学習を行ってきたことに驚いています。本日、Gemini 1.5 Proを180以上の国でGemini APIパブリックプレビューとして提供開始します。初のネイティブ音声(スピーチ)理解機能と、ファイルを簡単に処理できる新しいFile APIを搭載しています。また、system instructionsやJSONモードなどの新機能もリリースし、開発者がモデルの出力をより細かく制御できるようにしました。最後に、同等のモデルを凌駕する次世代テキスト埋め込みモデルをリリースします。Google AI StudioにアクセスしてAPIキーを作成またはアクセスし、構築を開始してください。

Geminiのときと同じく最初の文章の翻訳が誤訳になっているようにみえる。それ以外の部分にも大きな違いは感じられないが、若干読みやすくなったような気がする。このあたりは慣れの問題が多いように思えるので、それほど大した違いではないかもしれない。誤訳が誤訳のままなので、Advancedでは翻訳に関しては抜本的な変更は行われていないか、または、モデルの変更が翻訳には影響を与えていないのかもしれない。

Geminiを使うならAdvanced

本連載で無償版のGoogle Geminiを使って行ってきた内容をGoogle Advancedで再度行わせてみると、明らかに賢くなっていることが分かった。

生成AIは人間に代わって大量の文章を読み、それに対して人間が質問を行うことを可能にしてくれる。この機能がもたらす恩恵は計り知れないものがある。時短という最も分かりやすい業務改善はもとより、担当者だけでは思いつかないアイデアや考え方を得るといった使い方や、まったく知らない知見を得ることにも使用することができる。今後はどれだけ生成AIを使いこなすかが、業務改善につながっていくことは間違いがないだろう。

しかし、生成AIはその構造上、きわめて自然に嘘を織り交ぜてくるという仕組みになっている点がネックになる。嘘の付き方が自然すぎて判断できないこともある。このため生成AIの出力を全面的に信用することはリスクを伴うため、ある程度のチェックを行うことが必要だ。この点が業務改善の足かせやリスクになるかもしれない。

Gemini Advancedを使うと、少なくとも無償版のGoogle Geminiが抱えている誤回答や誤理解といった問題の頻度が軽減するものとみられる。これはGeminiを業務で使うのであれば、無償版ではなく有償版のGemini Advancedを使うことを優位性を表している。可能な限りリスクは低く抑えたいので、ある程度の使用頻度があるのであればAdvancedの使用は必須にしてよいのではないだろうか。

他の生成AIチャットボットの検討もあり

Google Advancedは特に会社でGoogle Workspaceを導入しているといったようにGoogleのサービスを使っている場合には強い動機になる。また、個人であってもGoogleのサービスに統一しておきたいと考えるならAdvancedの採用を検討してみよう。

そうでない場合には他の有償版生成AIチャットサービスの採用も検討した方が良い。執筆時点ではOpenAIの有償版サービスである「ChatGPT Plus」があり、最新版モデルの「ChatGPT 4o」を使うことができる。私が使った範囲内に限定されるが、「ChatGPT 4o」の理解力と回答力はGoogle Advancedよりも高いことが多いようにみえる。複雑な文章もかなり正確に理解し、その概要能力もとても高い。

現在、汎用生成AIチャットボットは開発が積極的に進められている段階にあり、数か月というスパンで状況が変わっている。Google Advancedの使うモデルの方が賢くなることもあるだろうし、現時点でも分野によって賢さはそれぞれに異なるというのが現状だ。

予算が許すのであればどの有償版生成AIチャットボットも契約して使えるようにしておくというのがベストだとは思う。有償版生成AIチャットボットをベースで使い、回答に怪しい点を覚えたら他の有償版生成AIチャットボットで確認するという使い方だ。無償版よりも賢いのでその分確認時間を短くできる可能性がある。当然ながら予算があるのでそんなことはできないかもしれないが、可能であれば検討する価値のある方法だ。

参考