今回は、ITベンダーの方やB to Bビジネスに関わる方に、製品の効果的な説明や強いメッセージの作り方についてヒントをお伝えしたいと思います。筆者が日本企業やグローバル企業の日本法人の製品説明を聞いていると、機能説明が本当に多いです。これでは、お客様の心に響きません。そして、単なる製品屋としてみられ、ビジネスパートナーにはなりません。お客様の目的を把握し、ビジネス課題を認識して、どう解決するか、そして、その結果どのようなビジネス利点とビジネス価値が生まれるかを説明すべきなのです。

ドリルを買いに来た人が欲しいものは?

マーケティングの世界には、「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」という格言があります。これは、アメリカのマーケティング学者セオドア・レビット氏の著書『マーケティング発想法』(原著は1968年)で紹介されたものです。「私たちが何かを購入する場合、実質的には自分の目的達成のための助っ人を雇っているのだ」というクレイトン・クリステンセン氏の言葉も、これとほぼ同じことをいっています。われわれの製品やソリューションは、雇われているのです。

IT業界のベンダー側にいると、お客様の課題である「穴を空ける」ことよりも、自社の電気ドリルの性能をアピールしているケースが少なくありません。「わが社の製品のモータは○○社のもので、このドリルの硬さ、回転数ときたら他社を凌駕しています!デザインもカッコいいです」といった具合です。多くのITベンダーの方、ドキッとしましたよね。

「当社の製品はこんな機能を持っていて、超速いです」「○○という機能を提供します」という説明していませんか?このように、多くの場合は機能的な説明に終始しているのです。これは日本人にとても多い傾向で、筆者はとても退屈です。Webサイトのページを見てもそんなメッセージになっていることが多いですよね。

ドリルを買いに来た人は「穴を空ける」ことが課題で、電気ドリルは製品やソリューションの1つです。正確に、綺麗に、迅速に穴が空きさえすれば、電気ドリルを買わなくても構わないのです。DIYのお店に行けば有料で穴をあけてもらえるし、電気ドリルはシェアサービスされているかもしれません。これは、自動車業界で起ころうとしていることです。

筆者は自動車が大好きで所有したいのですが、場所の移動だけを目的にすると、レンターカーでも、公共交通機関でも、カーシェアでもなんでもよいのです。MaaS(Mobility as a Service)というやつですね。一歩引いて世界をみれば、いろいろなソリューションがあります。

さらに言うと、ドリルを買いに来た人がなんのために「穴を空ける」のか、その目的を探ることも大事です。それは、絵を飾るためなのか、家具を作るためなのか、はたまた、もしかしたら穴空けオタクなのか、です。目的を的確にとらえて提案すれば自社のソリューションが数あるものの中から選択される可能性が高まります。

  • エンタープライズIT新潮流30-1

ソリューションがもたらすビジネス利点とビジネス価値

IT業界の仕事は、お客様のビジネス課題をITの力で解決することです。これをソリューションと言います。でも、ソリューションを製品と同じレベルで使っているケースも本当に多いですね。何かを解決するという意味の「Solve」の名詞が、「Solution」ですよ。そう、解決することです。そして、ソリューションの結果は、ビジネス利点やビジネス価値になります。ビジネス利点とビジネス価値を正確に理解することもお願いします。

ビジネス利点とは、ソリューションによって起きた変化の結果として顧客がビジネスで達成できることです。狭義では、製品が提供する機能がワークすることによって、顧客がビジネスで達成できること。価値を達成するためのプロセスにおけるイネーブラーであります。

ビジネス価値とは、顧客が経験するベネフィットであり、喜んで支払うもの・こと。ターゲットオーディエンスが届けるもの・ことです。本質的に意味するのは、「お金に見合う価値」、すなわち、受け取る商品やサービスや製品が、それらを得るために費やした時間、コスト、労力に見合うものです。

流れは次の通りです。製品が提供する機能から始まり、それによって業務の課題を解決して、その結果ビジネスで達成できることが、ビジネス利点です。ビジネス利点から得る財務的または非財務的な価値が、ビジネス価値になります。

繰り返しますが、ITベンダーの方やB to Bビジネスに関わる方は、お客様の目的を把握し、そのビジネス課題を認識して、どう解決するか。そして、その結果、どのようなビジネス利点とビジネス価値が生まれるかを説明すべきなのです。

デザイン思考で顧客を分析する

しかし、この考え方だけでは現在のビジネス環境では不十分です。さまざまな業界でデザイン思考が浸透してきていますが、それに伴い「経験」(Experience)という考え方がますます重視されます。場合によっては、アフターサービスを組み合わせた一連の流れの中での経験を提案する必要があるということです。近年は特に、サービタイゼーションという考え方で、サービスで利益を高めるという考え方が主流にもなっているようです。

では、顧客を中心に考え「穴を空ける」経験について説明しましょう。まずは、正確な穴の位置を計測して決めることです。そして、正しいサイズの穴を電気ドリルで空けます。まっすぐ穴が空くように何かで電気ドリルを固定する必要があるかもしれません。その後、穴を綺麗に研磨するかもしれません。そして、穴を空けた材料のカスを掃除します。ドリルのメンテナンスもしないと、綺麗に穴が空かなくなります。

「穴を空ける」というだけでも、これだけの経験があるのです。一連の流れを包括的に考えて、最高の経験を提案したり、作り上げたりする必要があります。ポイントは、1つ上のコテンキストで考えるということです。「穴を空ける」という行為を包むように、それに関連する一覧の行為を見るのです。

このため、デザイン思考で顧客を分析するのです。では、そもそもデザイン思考とは何でしょうか?ウィキペディアによると「デザイン思考は実践的かつ創造的な問題解決もしくは解決の創造についての形式的方法であり(中略)特定の問題を解決することではなく、目標(より良い将来の状況)を起点に据えている」とされています。

これについては、IDEO社のティム・ブラウン氏の書籍『デザイン思考が世界を変える』(早川書房)を読むことをお勧めします。毎章、多くの学びがあります。

いかがですか?少しでも、製品説明やWebサイトなどのメッセージの作り方について、改善できるヒントになったら幸いです。