武器輸出が問題化する原因は、相手国の体制変化だけとは限らない。輸出した製品の使われ方が後になって変化したことが問題になることもある。「武器」として輸出した場合でも、「民生品」として輸出した場合でも、この手の問題はしばしば発生する。
そうした事情があるため、「『武器輸出はダメだけれど民間転用品ならOK』というほど単純な問題か?」という疑問は解消できない。すでに本連載の第20~22回で、民生品が軍事転用されるCOTS(Commercial-Off-The-Shelf)の例を紹介しているが、そもそも「軍用品」と「民生品」の区別が曖昧になったり、区別が不可能になったりしているのが実情だ。
軍用品の民生転用ってどれぐらい可能?
あまり多くなさそうだが、軍用として開発したものを民間向けに転用・販売する例がないわけではない。
例えば、軍用として開発した自動小銃から派生する形で、民間向けモデルが出現することがある。ただし自動小銃の場合、民間向けでは機能制限を課すのが普通で、例えば「フルオート射撃(引金を引いている間は弾が出続ける)を無効にして、単射しかできないようにする」といった具合である。
また、軍用品の民生転用というには変化の度合が大きいが、大型四輪駆動車の「ハマーH1」や「メガクルーザー」もそうだ。前者は米軍のHMMWV(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)、後者は陸上自衛隊の高機動車にルーツがある。また、最近になって、自衛隊向けに開発が進められているC-2輸送機やUS-2救難飛行艇を民間転用して輸出を図ろうという話も出ている。
C-2やUS-2の場合、武器輸出三原則の縛りがあって「武器」としての輸出ができないので、民生品に転用するという名目(?)を設ける話になるわけだが、単に「民生転用したから売れます」、「性能がよいから売れます」というほど単純な話ではない。技術力・性能・価格だけでなく、需要の有無、納入後のサポート体制、そもそもの日本政府やメーカーの本気度といった要因が関わってくるからだ。
ちなみに以前、ボーイング社がC-17A輸送機の民間型を提案していたが、誰も手を出さず、いつの間にか沙汰止みになってしまった。そうこうしているうちに軍用モデルのC-17Aの新規カスタマーが増えているし、最近では宣伝もしていないので、今さら民間転用型を持ち出してくる可能性はないだろう。欧米諸国において、軍用輸送機から民間型を派生させて、曲がりなりにもカスタマーがついた例というと、ロッキードC-130改めL-100ぐらいだろうか。
このほか、ロシアではアントノフAn-124輸送機を保有・運航している民間会社があり、チャーター契約を得て飛ばしている。
この機体、東北地方太平洋沖地震の際に救援用の機材を搭載して日本に飛来していたし、自衛隊がPKOで海外展開する際にチャーターしたこともある。An-124には大搭載量というセールスポイントがあるのでライバル不在であり、それだからこそチャーター商売が成り立っているといえる。
![]() |
震災に見舞われたハイチに送る機材を搭載している、ロシアの大型輸送機・アントノフAn-124。他に類例のない搭載能力が売り物となり、アメリカを含む他国からのチャーターの引き合いが多い(Photo:USAF) |
軍用品の民生転用に付随する問題点
いずれにせよ、もともと軍用品として開発したものは特別な用途に合わせた設計になっているから、民間転用そのものが成り立ちにくい。戦闘機・戦車をはじめとする各種の装甲戦闘車両・艦艇・ミサイルといったものは、民間向けに転用するといっても無理な相談である。
だから、いくらハイテク産業といっても、そうした特殊な分野に特化してきた防衛産業界が簡単に民需向け産業に転換するのもまた無理がある話だ。冷戦終結後に、その手の主張をする向きが多発したが、ほとんど具体化しなかったことで実証済みだ。
よしんば転用可能な品目があったとしても、既存の民生品では対応できず、軍用品の民間転用でなければ実現できない需要がどれだけあるかという問題もある。数少ない例外と言えるAn-124のように、ライバル不在の「売り」が必要であり、それが独りよがりではなくて需要とマッチしていなければなるまい。
また、軍用として開発した製品を他国に輸出しようとすれば、ワッセナーアレンジメントや武器輸出管理制度による制約を受ける点にも留意する必要がある。完成品だけでなく、そこで使用している個別のコンポーネントごとに規制の対象になるから、完成品が日本製なら日本の一存で好きなように売れるというわけにもいかないのだ。