不具合発生時に再起動・電源投入はタブー

今や、PCや携帯電話は"あれば便利なモノ"ではなく、現代人の生活にガッチリと組み込まれている。仕事の成果、子どもの写真、友人の連絡先など、誰でも失っては困るデータが必ずあるはずだ。しかし、データを保存しているHDDやシリコンディスク、光学メディアは決して永遠の動作が保証されているものではない。データをバックアップしておくのは当然として、いざ壊れてしまった時はどう対処したらよいのだろうか?

まず、最も重要なデータを大量保存している可能性が高いHDDの場合について考えてみよう。パーソナルNASの内蔵HDD、リムーバブルHDDなど、PCからデータ書き込みを行うHDDに障害が発生したらどのような行動をとるべきか、ワイ・イー・データの情報セキュリティ事業部 事業部長の安尾浩氏に聞いてみた。

通常PCが起動しなくなった時にやってしまいがちなのが「とりあえず再起動」だ。しかし、データ復旧という点から見るとそれはタブーだという。「電源投入のたびにHDDからデータを読み出す動作があり、繰り返すことで損傷を広げる可能性が高いです。仮に何十回も電源を入れ直したら、もう復旧は難しいでしょうね」と同氏は語る。

マシンは起動するが、間違ってデータを消してしまったという場合もあれこれいじるのは得策ではない。「データ復旧ソフトは存在しますが、データを失ってからインストールした場合、復旧すべきデータが格納されているアドレスを上書きしてしまうこともあります。とにかく、障害が発生したPCは触らないほうがいいです」と同氏。少しでも早くかつ安全にデータを復旧したければ、専門家に助けを求めるのが最も近道だ。

データ復旧のチャンスは1回だけ!

助けを求める専門家を選ぶうえで気を付けたいのは、基本的に1社目がすべてということだ。「とりあえず1社に出してみて、ダメだったら他社に」というやり方は得策ではない。「作業の失敗で損傷が増す可能性もありますが、何より他社が行った作業がわかりませんから、2社目、3社目として持ち込まれた場合、手の施しようがないこともあります」と同氏。

間違った知識で交換してはいけない基盤が交換されている場合もあるが、元の状態に合わせて交換しなければいけないパーツの合わせるべき状態がわからないのも問題だという。

「"とりあえず安い業者に依頼してダメだったら次をあたればよい"という考えは危険です。また、1社目が復旧した結果に満足しなかった時に、2社目に持ち込むのもよい方法ではありません。満足できる結果を出せる業者を、1度で選ばなければなりません」

業者選定に検索順位や復旧率は役に立たない

データ復旧業者を選ぼうとする時に最も使われるのは、インターネット検索だろう。ただし、検索結果の順位はあまり当てにならない。業者の能力にかかわらず、SEO対策で順位は簡単に入れ替わるし、上部に表示される広告も簡単に買える。また、サイトのデザインはプロに発注すればいくらでも凝ったものにできる。

つまり、見た目は当てにならないというわけだ。そこで、頼りになりそうな指標が「復旧率」と「実績紹介」なのだが、これがまた難しい。なかには、「復旧率100%!」とアピールしている業者もあるが、それはどういう状態を指しているのだろうか? 例えば、簡単な事例を10件手がけてすべて1つ以上のデータを拾い出したとしても、「100%成功」という表現は決して嘘ではない。

しかし、複雑なデータ復旧を依頼したいユーザーや、大容量HDDに保存されたデータをできる限り拾い出したいユーザーにとって、これが意味のある数字とは思えない。

一方、1TBのHDDから500GBのデータを復旧した場合、一体何%の復旧率と言えるだろうか? 容量で考えれば50%かもしれないが、データが500GB強しか保存されていなければ100%に近い数字と言えるかもしれない。

「復旧率という言葉が何を指しているのかは、私にもわかりません。当社に持ち込まれるハードディスクは損傷具合もデータの格納状態も違っています。業界で基準が定まっているわけではなく、業者が独自に掲げている数字です」と同氏は実情を語る。

また、事例紹介も困難な復旧作業を手がけたことがあるという程度の参考にはなるが、それが単純な技術力の判断基準や、自分のニーズが満たされる可能性の高低には結び付けられない。では、何を基準にデータ復旧業者を選べばよいのだろうか?

ポイントは復旧可能リストの提供と価格設定

「データ復旧業者に問い合わせる際、まず確認すべきは、復旧可能なフォルダとファイルのリストの提供が可能かどうかです。復旧作業にかかる前の調査段階で、"どのフォルダとファイルを復旧でき、どのフォルダとファイルを復旧できないのか"というリストを提示できなければ、技術力やサービスレベルに問題を感じます」と同氏は指摘する。

費用をかけて依頼するからには、どうしても復旧したいデータがあるはずだ。大半のデータを復旧できたとしても、そこに目当てのデータが含まれなければ意味がない。事前に希望を満たせるかどうかを明らかにしてくれる業者ならば、安心して作業を任せられるというわけだ。

データ復旧事業者選定のポイント

また、料金体系でも業者の信頼性を確認できる。一般的な料金体系は、障害の程度で切り分けているものだ。難しい案件は高額になるのは納得できるが、どんな作業が難しいかなど、ユーザーにはわからないだろう。

顧客にとって、復旧作業が難しいかどうかは関係のないことである。「どれだけデータが復旧できたか」、「必要なデータを復旧できたか」ということが大切なはずだ。にもかかわらず、復旧作業の難易度と料金を関連付けた料金体系を組み、作業前に料金を答えられない業者に大切なデータを預けてよいものだろうか?

例えば、ワイ・イー・データではストレージの容量を基準にデータ復旧の料金を設定している。データ量が極端に少ない場合などは値引きされることもあるが、逆に作業内容によって追加料金が発生することはない。

技術のレベルを事前に確認することが難しいのだから、残る基準は安心感しかない。積極的に電話やメールで問い合わせを行い、その対応などから信頼できる業者を見分けたい。そして、相手の言っていることが少しでもおかしいと感じたら、大切なデータを預けてはいけない。1度で「アタリ」を引かなければいけないとなれば、慎重になれるはずだ。

こんなデータ復旧事業者はオススメできない