データを活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める企業が増えている。真に求められているのは業務の効率化ではなく、ビジネスそのものの変革だ。では、それを叶えるようなデータ活用を実践するには、何が必要なのか。

本稿では、IT企業、金融企業、エンタメ企業と複数の業界でデータ活用に携わってきた吉村武氏に、実体験やさまざまな企業の事例を交えながら、データ活用を成功させるためのポイントについて解説していただいた。

データ活用成功の秘訣 - 徳を積み、小さな成功を積み重ねる

吉村氏はまず、データ活用を成功させるための大きなポイントとして「徳を積み、小さな成功を積み重ねることが大切」だと話す。データを活用して大きな結果を生み出すことは一朝一夕でできることではないからだ。

一方で多くの経営陣はスピード感を持って、大きな成果を生み出すことを望んでいる。データ活用を成功させるためにはこの矛盾をいかに乗り越えるのかが重要になってくる。そのため、「スモールスタートでスピード感のあるPoC(Proof of Concept、概念実証)から始めると、出た成果をビジネスに生かせるかどうかは別問題という結論になりがちで、“PoC貧乏”になってしまう」と吉村氏は語る。さらに、「それならばと大きな成果を目指して進めると経営者の求めるスピード感に合わず、うまくいかないこともしばしばある」と指摘した。

では、どうすればスピーディかつビジネスにインパクトを与えるようなデータ活用ができるのだろうか。吉村氏は、そこで押さえるべき4つのポイントについて、事例を交えて解説してくれた。

ポイント①現場の役に立つことから始める

アミューズメント施設の運営を手掛ける企業では、現場とのコミュニケーションがデータ活用推進の一歩になったという。

同社では、アミューズメント施設を運営している店舗サイドとデータ利活用を行っている本社サイドに部門が分かれている。従来、アミューズメント施設の来客数や売上は、現場で働くスタッフが目視で数え、手作業で集計していた。より本格的なデータ活用を進めるにあたり、重視したのは現場とのコミュニケーションだった。

「いきなり本社のデータサイエンティストが来て、『こういう数値を入力してください』と言っても、スタッフは積極的には動いてくれません」(吉村氏)

そこでまず、データ活用の担当者が店舗に赴き、データ活用に限らないスタッフの困りごとを解決し、これまでスタッフたちが収集していたデータをビジュアル化したものを見せた。自分たちの成果が見えること、そこから得られる分析に面白みを感じたスタッフたちに、「次はこういうデータを見られると、こういうことができるようになる」と伝え、関係性を深めたことで、店舗でのデータ収集がスムーズに進んだのだという。

「相手にとって役に立つものを提供しないと、相手は応えてくれないのです。だからこそ、相手のためになる徳を積むことが重要です」(吉村氏)

ポイント②ボトムアップから始めて、トップダウンにつなげる

吉村氏がデータ活用に着手する際はまず、データ活用に熱心な部署と、短期的にビジネスに成果の出る案件に集中して取り組むことから始めるそうだ。

「データ感度の高い数人で小さな成功事例をつくります。すると、その人たちの周りの数十人が興味を持ってくれ、データの収集や活用に協力してくれる人が増えます。そうして生まれたいくつかの成功事例を経営陣にフィードバックし、データ活用の成果を感じてもらいます。これを続けていくと、ボトムアップだったデータ活用がトップダウンでの発信になり、好循環が生まれるのです。データを全社で活用するためには、トップダウンとボトムアップのバランスも重要になります」(吉村氏)

ポイント③経営陣には利益を明確に見せる

データ活用を進めるうえで、経営者の理解を得ることは必須だ。しかし、「どのような数値を見せたらよいのか」と悩む人も多いだろう。吉村氏は「経営陣が興味があるのは利益」だと断言する。

「一部のデータサイエンティストは、他者のデータを分析し、示唆を出すことが仕事だと思っています。自分の稼働によって、いくら利益が上がったかということを意識し、自身の業務に対して貢献利益を分析するという“データ分析”ができている人は少ないのです」(吉村氏)

さらに、利益をどう見せるかにも1つのポイントがあるそうだ。

「これはデータ分析と相反することですが、『いくら利益が出ます』と言い張る度胸も必要です。これはデータ活用云々の前に、ビジネスパーソンとしてのスキルかもしれません。そもそもデータ活用を推進しようと旗振りをしている人に自信がなければ、経営陣は投資してくれません」(吉村氏)

ポイント④関係部門の専門用語を学ぶ

データ活用を推進する際、ハードルとなるのが「法務部門・セキュリティ部門とのやり取り」だと吉村氏は言う。データを収集する際、ネックになるのは個人情報の扱いなど、法律に関わる点だ。その相談は法務部門にすることが多い。同様に、安全にデータを取得する方法についてセキュリティ部門とも相談することになる。両者に共通するのは“専門用語”だ。

「例えば、個人情報保護法上では“個人情報”と“個人データ”は異なるものです。『個人情報を取得したい』という相談に、『個人データ化しますか』と法務担当者から返されたとき、データ活用担当者が“個人情報”と“個人データ”の違いが分からないと認識を合わせることができません。相手のフィールドの用語をどれだけ理解して、対等に話せるかがデータ活用を成功させるポイントの1つです。そのためには、しっかりと専門用語を学んだうえで、コミュニケーションをとることも大切なのです」(吉村氏)

文化を変革するための精神論とは

最後に吉村氏は、データ活用を成功させるためのポイントとして、「あの部署、何やってるの?」という視線に負けないことを挙げた。データ活用を始めたばかりのころは、データ活用推進を担当する部署は売上に直接関与せず、“何をしているのかよく分からない部署”に見られがちだという。

「そういう他者の声を聞こえないふりをすることも、1つのポイントかもしれません」(吉村氏)

一見するとこれは精神論のように聞こえるかもしれないが、変革を行う時は起き得ることと理解しておくことが重要であり、「変革を行うときは段階を経て進めていく必要があることは『DMBOK(Data Management Body of Knowledge、データマネジメント知識体系ガイド)』の第17章『データマネジメントと組織の変革』にも記載がある」と同氏は説明する。この章ではデータマネジメントには文化の変革が必要であることが述べられており、とくに、ジョン・コッター氏による「大規模変革の推進に要する8段階のプロセス」は、変革の障害を克服する際のガイドラインとして大いに参考になるそうだ。

大きなビジョンを描くことから始めよう

吉村氏はデータ活用に苦戦している、もしくはこれからデータ活用を推進していこうという人々に向け、次のようにアドバイスする。

「まずは3年後、会社がどのような姿になっているのが理想なのかというビジョンを描きましょう」(吉村氏)

例えば、「どの部署の人も毎日当たり前のようにBIツールをチェックし、大きな変異が起きたら、自動でアラートが飛んでくる」「コードはエンジニアではなく、全てAIが作成する」――そうした「大きな世界観でビジョンを描くことが大切」だと同氏は言う。

「人は、自分の枠を超えることは難しいものです。だからこそ、あえてめちゃくちゃなことを考えるのが良いと思います。100点の目標で着地が7割だったら70点、50点の目標で着地が9割でも45点ですよね? 7割の達成でも目標値が高ければ、大きな成果につながります」(吉村氏)

* * *

以上、本稿ではデータ活用を進める企業が成功を収めるために必要なポイントを吉村氏に解説いただいた。ビジネスに大きなインパクトを与えることを目指すのであれば、まずは壮大なビジョンを描き、そのうえで小さな成功を積み重ねるところから始めてみていただきたい。

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