こんにちは、リクルートテクノロジーズでマーケティングリサーチを担当している中村です。
本連載では、われわれが考えるCXデザインの概要について、リクルートでの事例を交えながら紹介してきました。最終回となる今回は、カーセンサーのリサーチを担当している筆者から、CXデザインにおけるリサーチの役割についてお伝えします。
第3回では、カーセンサーを事例に、CXデザイナーがどのようにコミュニケーションを設計し、施策を実施していくかというプロセスを紹介しました。ここで大切になるのが、その施策の効果をきちんと測定し、PDCAサイクルを回すことです。
私たちリサーチ担当は、CXデザイナーが設計したコミュニケーション施策に対し、施策ごとの最適な効果測定を設計・実施し、施策が実行されたことによって、出てきたデータから以下のことを明らかにします。
- (1)目指しているKPIが達成できたのか?(KPIモニタリング/Check)
- (2)施策の良し悪しを踏まえ、改善のポイントはどこにあるのか?(施策評価と次回の施策立案への示唆/Action)
さらに、以下を実行することで、PDCA(Plan / Do / Check / Action)推進を担っています。
- (3)次の施策設計のプランニング段階から関わる(Plan & Do)
それでは、(1)~(3)の業務内容をそれぞれ紹介しましょう。
(1)KPIのモニタリング(Check)
カーセンサーでは施策ごとにKPIを設定しています。例えば、プロモーション施策の1つにマスプロモーションであるCM(テレビ/ウェブ)の制作があります。ここでは、出来上がったCMの効果測定として、あるデータを用いてCM期間中に「カーセンサー」のサイトに訪問したカスタマーのボリュームをモニタリングします。
また、その訪問カスタマーのサイト内での行動や、カーセンサー本誌の購買状況など、CMによる効果をオンライン・オフラインの両面から把握しています。場合によってはビッグデータチームとも連携し、それぞれの専門性を持ち寄ってより確度の高い分析を目指しています。
モニタリングの結果をもとに、プロモチームだけでなく、UXチームや編集部と一緒に施策の振り返りを行います。結果として、データを通してカスタマーのタッチポイント間の橋渡しをすることもリサーチ担当の大きな役目のひとつとなっています。
(2)施策評価と次回への示唆(Action)
施策ごとの振り返りとして、われわれが意図した内容がきちんとカスタマーに伝わり、態度変容を促すような情緒にも訴えるクリエイティブになっていたかを定量的に把握するクリエイティブ評価のリサーチも設計・実施し、評価の背景にあるカスタマーインサイトを分析し、次回施策へとつなげていきます。
先ほどのCM施策においては、次の3つの観点から分析を行い、その結果を踏まえて、次回施策の方針を検討します。
- カスタマーに何を伝えるべきか?
- どのような表現をすべきか?
- その表現でカスタマーに伝わるために最適な媒体は何か?
例えば、カーセンサーではウェブの動画共有サービスで動画と動画の合間に流れる広告枠にもCMを配信しています。これまでは、テレビCMと同じ15秒や30秒のCMを中心にWebにも配信していたのですが、新しい試みとして、6秒という短い時間でカーセンサーのメリットを訴求するCMも作成・配信しました。
30秒ではCMがスキップされてしまいがちというデメリットをカバーするために、スキップすることができない6秒CMを採用したのですが、クリエイティブ評価の結果を上記の3つの観点から分析していくと、カスタマーのセグメントによっては、6秒では十分に訴求できないことがわかりました。そのため、次のプロモーションでは、戦略ターゲットに応じて最適な媒体を使い分けることとしました。
このような一つ一つの施策から得られた結果をナレッジとして昇華させていき、施策立案の際の指針を積み上げていくこともリサーチャーの役割です。
施策の意図や狙い、制作プロセスなども考慮したうえで分析を行えるがゆえに示唆の具体性も高められるため、次の施策設計の判断にもコミットできる点はインハウスのリサーチャーとして非常にやりがいを感じるところです。
(3)企画・実行フェーズにも積極的に関与(PLAN/DO)
さらに、施策の具体的なプランニングのフェーズにも伴走し、プランナーやクリエイターと一緒に施策を企画しています。
CMの制作プロセスにおいては、広告代理店の方々との定例会議に参加し、カスタマーのインサイトに基づく企画内容となるようカスタマーデータを持ち込み、議論に参加しています。一例として、カーセンサーではCMの絵コンテができた時点で、カスタマーへのアンケート調査を実施しているのですが、その調査分析の結果をプランナー、クリエイターにフィードバックすることでクリエイティブに磨きをかけることを行っています。
このように、リサーチャーの専門性を生かしながら、いわゆるリサーチャーの枠を越えてPDCAのすべてのフェーズに関わる立場としてCXデザインに関与しています。
カーセンサーのリサーチを担当してからの3年間で、定量調査だけでなく、多くのカスタマーヒアリングも実施してきました。いわゆる定量的なデータだけで解決できない場合でも、お会いしたカスタマーの方々の生の声を思い出しながら、彼らだったらこの施策に対してどう思うだろうか、どうやったらカーセンサーのことをもっと好きになってもらえるだろうか、というようなことを考えるようにしています。
また、リサーチャーだけでなく、プランナーやデザイナーも同じようにカスタマードリブンで思考し、全体として一貫性のあるカスタマー体験を設計・実現できる前提として、メンバー全員がカスタマーのデータに触れ、カスタマー像を共有しておくことが大切だと考えます。その意味でも、CXをデザインする組織においてリサーチャーの役割は重要であり、非常にやりがいを感じています。
著者プロフィール
中村由佳(なかむら ゆか)
株式会社リクルートテクノロジーズ ITマーケティング本部
大学院修了後、調査専門会社での受託リサーチ、IT事業会社のインハウスのリサーチを経て、2015年にリクルートテクノロジーズに入社。「リクナビNEXT」「カーセンサー」におけるマーケティングリサーチを担当。現在は、株式会社リクルートコミュニケーションズ マーケティング局コミュニケーションデザイン部 CXデザイングループに出向中。