現代的インタフェースを安価に使えるのが魅力

山翠舎は長野市に本社がある設計施工会社で、古材専門店を含む店舗設計施工会社という大きな特徴を持っている。創業は昭和5年と、82年の 歴史を持つ企業で、長野には木工場もある。東京の恵比寿にもオフィスがあり、東京でのお店作りで活躍しており古材を生かした個性的な店舗 の設計施工を多く手がけている。

代表取締役社長である山上浩明氏は、大手IT企業で働いていた経験もあり、ITの活用に積極的だ。Google Appsも日本で利用可能になった時に即座に導入し、顧客情報や営業履歴の管理もGoogleのスプレッドシートで行ってきた。

例えば、Google Apps導入事例としてGoogleのWebサイトで紹介されているほか、ホー ムページの作成が簡単にできるクラウド型「Jimdo」サービスでWebサイトを構築していることから、JimdoのWebサイトでも事例として紹介されている。

山翠舎の代表取締役社長 山上浩明氏。氏の背後の柱は古木からつくったものだ

「年間300件を超す工事案件を効率良く管理する必要があり、これまでGoogleのスプレッドシートを使っていたのですが、忙しさが増すなかで入力作業が煩雑になってきました。そこで、CRMツールを導入しようと決意したわけです」と山上氏は語る。

思い立ったら即行動するという山上氏は、3月の休日を1日使ってさまざまなCRMツールを比較検討した。その中で見つけたのが「Zoho CRM」だった。

「今回、CRMツールを検討した際の条件は、『iPadやiPhoneで使いやすいこと』と『インタフェースが古くないこと』。項目を入れ替えるためにチェックを入れて何度もボタンを押すといった操作はイヤなのです。Ajaxを使って、ドラッグ&ドロップで使えるのが当たり前。こうした基準で見つけたのがZoho CRMでした」と山上氏は振り返る。

Zoho CRMの無料アカウントは取得したものの、特に使い込んだわけでもないという山上氏が行ったのは、ユーザーフォーラムへの書き込みだった。

「Webサイトで調べられなかったことをフォーラムで質問したのですが、すぐに返事がありました。詳しく理解したわけではありませんでしたが、『これは行けそうだ』と感じて導入の相談をしようとした時に出会ったのが進藤さんです」と山上氏。導入を担当したSaaS & CRM Consultingの進藤孝純氏との出会いから、わずか3日で導入がスタートした。

業務を整理して定量化する作業には専門家のサポートが必要

「Zoho CRMのカスタマイズは一見簡単だけど、業務に適した形で使うのは難しい。自社の業務に沿っての中で使いこなすには、絶対に専門家のサポートが必要だと思います」と山上氏は力説する。

Zoho CRMはカスタマイズの容易さを特徴としているが、それはあくまでも画面などのカスタマイズだ。業務を分析して利用効果が高いCRMにするには、専門家の手が必須だという。山翠舎では、山上氏と進藤氏が二人三脚で業務分析を行い、どのフェーズに達成度をどの程度割り振るかといったことを決定している。

一方、「最初のカスタマイズは大変ですが、動き出せば快適です。中小企業の場合、業務が分断されていて、あちらからこちらへ書類やドキュメントをまたいで転記しなければならない作業が多いのではないでしょうか。Zoho CRMを使えば、こうした煩わしさが解決されます」と、Zoho CRMの稼働後のメリットを山上氏は語る。

山翠舎では、全社員がiPhoneを持っており、外出先でもZoho CRMを閲覧できるようにしている。しかし、入力まで行うのは山上氏を含めて3名の営業担当者であるため、有料アカウントは全員分購入しているわけではない。そうした効率的な利用方法についても、進藤氏のアドバイスを受けながら選択しているようだ。

「商談中にも入力できるよう、iPhoneにBluetoothキーボードを組み合わせて使っています。社員全員でZoho CRMを閲覧する手間を省くため、新規商談に関する登録があればメールで共有する仕組みにして、必要に応じてiPhoneから詳細を閲覧してもらえるように工夫しました。顧客については、Zoho CRMの連絡先とGoogle Appsの連絡先を自動的に同期させたうえ、さらにiPhoneのアドレス帳とも連動することにより、社員がiPhone上からいつでも顧客を検索して電話することが可能になりました。このように、Zoho CRMによって顧客データが一元化でき、業務効率化がさらにアップしました。全社員によるリアルタイムでの情報共有が実現しました」と山上氏は運用の工夫を語った。

山翠舎のZoho CRMのダッシュボード画面

山翠舎のZoho CRMのiPhoneアプリの商談ビュー画面

Zoho CRMとメールを連動させることで、顧客へのメール送受信履歴まで社内共有が可能になるなど、深いところまで使いこなしているようだ。

建設業界の中小企業の先頭に立って導入を進めたい

ITの導入に積極的な山上氏が今考えているのは、建設業界へのZoho CRM導入を推進することだ。「中小企業が集まって知恵を出し合い、全体として効率化され、良いものが提供できるよう努力 していくことが大切です」と山上氏は話す。

「海外ではZoho CRMの業種別テンプレートなどもあるようですが、ぜひ建設業界向けのテンプレートも作ってほしいですね。多少の投資が必要でも、参加したいと思っています。質問に丁寧に答えるほどの余裕はありませんが、自分の持っているノウハウはどんどん出して行きたい。中小企業の先頭に立って、IT化に貢献したいと考えています」と山上氏は展望を語る。

山上氏がZoho CRMを評価する最大のポイントは、現代的なインタフェースやiPhone/iPad対応を実現しながら、安価に利用できる点だ。

「最初に検討したSalesforceと比べると、基本ライセンスがまず5分の1です。しかも、Salesforce には受注書、見積書、請求書、在庫管理を含む販売管理システムが基本機能として提供されていないので、必要な場合は、カスタマイズで作り込んだり、外部ベンダーに頼んで別ソリューションと組み合わせたりする必要があり、これらの費用を計算に入れると、コストはかなり違ってきますね。中小企業にとっては安さも大きなメリットです」

山翠舎では現在レポーティング機能を社内会議や社外報告に生かし、Zoho CRMをかなり使いこなしている。また、プロジェクト管理ツール「Zohoプロジェクト」も導入しており、工事ごとに情報を管理し、業務に関わる業者に加えて施主とも進捗情報などを共有できる仕組みを構築中だ。

「請求書や契約書はZoho CRMから簡単に作成できるようになったので、次は見積作成にも挑戦したいと思っています。顧客からの電話を受けると、自動的にZoho CRM顧客画面がポップアップするCTI機能にも関心があり、IP電話とZoho CRMを連動させる方法を実現するための準備も進めているところです」

豊富なアイデアで、Zohoを自在に使いこなしているうえ、ノウハウを惜しみなく建設業会に提供したいと公言する山上氏。同氏の試みによって、建設業界の中小企業において少しでも業務効率化が図られることを期待したい。

山翠舎が店舗設計を手掛けたビストロ「ルレ・サクラ」(桜新町)