【物語】

その日、僕は部長である太田先輩に呼ばれて会議室に入った。すると、会議室には社長がいて僕に笑顔を向けた。

「田中くん、これまで我が社でよく頑張ってきたね。」

えっ?いきなり何?僕の頭が「?」で一杯になっていたところ、太田先輩が僕の様子を察してフォローしてくれた。

「社長、早く本題を。田中君、パニックになってますよ。」

「おぉ、そうか。ごめん、ごめん。実は、新たに支店を出そうと思っているんだよ。その支店で経理部所属のコンピューター部門の係長になってほしいんだよ。」

「えぇ?僕が係長ですか!?」

太田先輩も笑顔で言う。

「田中くんは覚えも早いし、要領も人当たりもいいし、私が推薦したの。」

なんと、憧れの太田先輩が僕を推薦してくれたなんて。感無量だ。

「ありがとうございます!太田先輩、新しい支店でも、ぜひ一緒に頑張りましょう!」

僕は右手を握りしめ、やるき満々で答える。しかし、急に太田先輩の顔が曇った。

「残念なんだけど、私はここに残るの。田中くんなら新しいメンバーともすぐに馴染むと思うわ。」

「え、そうなんですか・・・」

僕は肩を落とした。これまで、太田先輩がいたから、未知のプログラミングにも挑戦できたのに。一人でやっていけるのだろうか。急にトーンダウンした僕を社長が力づけてくれた。

「大丈夫だよ、田中くん。君はもう太田くんがいなくても立派にやっていけるよ。早速、来月から頼むよ。」

こうして、僕の新たな人生が動き出したのだった。太田先輩と離れてしまうのは、とても寂しいのだけど、頑張るしかない。新しい支店で頑張って、太田先輩に褒めてもらえるように頑張ろうと強く決心したのだった。

その時、ガチャーンと大きな音がなって、会議室の扉が開いた。そして、若いお嬢さんが、すごい形相で走り込んできた。

「はぁ、はぁ。お父さん、助けて!」

僕たちは、みんな呆気に取られて、そのお嬢さんに注目した。何が起きたんだろうか。そして、そのお嬢さんが続けて大きな声で言った。

「お父さん、聞いて!」

「えっ?お父さん?」

社長が青い顔で答えた。

「葵、どうしたんだ。仕事中は社長と呼ぶように言っただろう。」

「でも、お父さん、聞いて。」

社長が困り顔で言う。

「葵、一体どうしたんだ。」

「私の初仕事が、難しすぎるの。」

それを聞いて僕らは一気に顔が引きつった。

「お父さん、私、難しすぎる仕事を押し付けられてしまったの。きっと、私が社長令嬢と知ってて、嫌がらせしているんだわ。」

「葵、そんなわけないだろう。そうだろう、太田くん。」

肩をワナワナと震わせて、太田先輩が答える。

「えっと、Excelに慣れるという意味で、年齢早見表を作って印刷するように言っただけですけど。」

僕はみんなの顔を順に眺める。

どうやら、こちらのお嬢さんが社長の娘さんで、今年コネで入社した新入社員の一人だろう。どこをどう見ても、悪役社長令嬢だ。今日が初出社だろう。そして、美人で仕事のできる太田先輩の経理部に配属されたようだ。

一体、経理部はこれからどうなってしまうのだろう。僕は新しい支店に移ることになったので、この子の行く末を直接見守ることはできないが、太田先輩に連絡する口実の一つにさせてもらおう。

そう思ったとき、太田先輩が僕に言った。

「田中くん、私から君への最後の任務よ。社長のお嬢さんに年齢早見表の作り方を教えてあげて!」

「「えー、悪役社長令嬢と一緒に?!」

こうして僕は最後の仕事として、悪役令嬢と年齢早見表を作るのだった。

しかも、せっかくExcelで年齢早見表を作るのならば、最近、我が部署で流行しているPower Automateで作ってみることにしよう。

「葵お嬢さん、年齢早見表を作るには、まず、Power Automateを起動するのですよ。」

ただただ、Excelの使い方を覚えるよりも、Power Automateと一緒に覚えてもらえば、少しは太田先輩の役にも立ってくれるはずだ。

なお、葵お嬢さんは「訳が分からない」という顔をしながら、僕の言うとおり、Power Automateを起動するのだった。何度も舌打ちをしながら。

「太田先輩、これから心労が絶えないでしょうけれど、頑張ってください。」

令嬢の態度にぐったりしつつ、僕は帰り道で太田先輩にメッセージを送ったのだった。

プログラム - 年齢早見表の自動作成

ここで、物語の中で登場人物達が作成したプログラムを実際に紹介します。

今回は、前回に引き続き、「デスクトップ向けのPower Automate(Power Automate for Desktop)」を使います。これは、Windows10以降のOSで、無料で利用できるツールです。

このツールを使って、自動的に最新の年齢早見表を作成してみましょう。ここでは、Power Automateで次のようなフローを作ります。

  • ここで作るフローの一覧

    ここで作るフローの一覧

画面左側にあるアクション一覧から、上記フローにあるアクションを一つずつドラッグ&ドロップすることで、フローを組み立てていきます。とは言え、アクションをドラッグするのが面倒という方は、こちらにある、Power Automateのコードをコピーして、キャンバスに貼り付けましょう。

画面上部の実行ボタンを押すと、Excelが起動してワークシートに年齢早見表を書き込んで、デスクトップに保存します。

  • 年齢早見表を自動生成したところ

    年齢早見表を自動生成したところ

簡単にポイントを押さえてみましょう。最初に新規フローを作成しましょう。

  • 新規フローを作成しよう

    新規フローを作成しよう

そして、「日時 > 現在の日時を取得します」アクションを探して貼り付けましょう。それから、「テキスト > datetimeをテキストに変換」アクションを貼り付けます。

設定ダイアログでは、以下のように使用する形式を「カスタム」にして、カスタム形式に「yyyy」と入力します。このように書くと「今年の西暦年」を4桁の数字で得られます。そして、生成された変数に「yyyy」と入力して、西暦が変数yyyyに設定されるようにしましょう。

  • 「datetimeをテキストに変換」で今年を調べる

    「datetimeをテキストに変換」で今年を調べる

そして、「Excel > Excelの起動」アクションを貼り付けます。続いて、「ループ > Loop」アクションを貼り付けます。ここでは、1から50まで1つずつ増やして繰り返すように指定します。このように指定することで、50年分の表を生成します。

それから、繰り返し表をExcelに書き込むように、「Excel > Excelワークシートに書き込み」アクションを二つ書き込みましょう。この時、書き込む値に変数と計算式を入力します。

計算式は『%(変数や計算式)%』のように「% ... %」と記述します。このように書くと、変数や計算式をPower Automateのアクションに組み込めます。

LoopからEndまでの間に二つのアクションを挿入します。一つ目に挿入するアクションでは、西暦年を計算して書き込みます。

  • 「Excelワークシートに書き込み」で西暦年を書き込もう

    「Excelワークシートに書き込み」で西暦年を書き込もう

二つ目のアクションでは、満年齢を計算して書き込みます。

  • 「Excelワークシートに書き込み」で満年齢を書き込もう

    「Excelワークシートに書き込み」で満年齢を書き込もう

最後に、「フォルダー > 特別なフォルダーを取得」アクションと「Excel > Excelを閉じる」アクションを貼り付けましょう。これによって、Excelの表をデスクトップに保存します。

  • Excelの表をデスクトップに保存するように指定しよう

    Excelの表をデスクトップに保存するように指定しよう

まとめ

今回は、Power Automateを使って、Excelの表を自動作成するフローを作ってみました。主人公の田中くんは新支店に移動になりました。次回からは新展開となります。お楽しみに。

自由型プログラマー。くじらはんどにて、プログラミングの楽しさを伝える活動をしている。代表作に、日本語プログラミング言語「なでしこ」 、テキスト音楽「サクラ」など。2001年オンラインソフト大賞入賞、2004年度未踏ユース スーパークリエータ認定、2010年 OSS貢献者章受賞。技術書も多く執筆している。直近では、「シゴトがはかどる Python自動処理の教科書(マイナビ出版)」「すぐに使える!業務で実践できる! PythonによるAI・機械学習・深層学習アプリのつくり方 TensorFlow2対応(ソシム)」「マンガでざっくり学ぶPython(マイナビ出版)」など。