「うちの会社はお客さんからの紹介で新規開拓しているから、PRなんて必要ない――」。本当にそうでしょうか?スマートフォン上でSNSを通じて誰もが手軽に情報を受発信できる現在、クチコミ情報が会社の評判を大きく左右することがあります。

SNSで「いいね!」をしてくれる人や、自社に好意的な情報を発信してくれる人を増やすと、顧客の新規獲得に有利になることは容易に想像できます。大ヒットを記録した寝具「エアウィーヴ」のPRを手がけ、書籍『ゼロ円PR』の著者でもある笹木郁乃さんに、ビジネスパーソンとして知っておくべきPR術について伺いました。

PRと広告は似て非なるもの

「うちはお客さんからの紹介で新規開拓しているから、PRなんて必要ない――」。そう思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし見方を変えると、紹介だけで軌道に乗せた会社をうまくPRしていれば、今の何倍もの新規開拓に成功していたかもしれません。小さな成功が大きな成功を阻害する要因になることは、ビジネスの現場ではしばしば起こりえます。

さっそくPRという言葉を使いましたが、その意味を改めて考えてみましょう。笹木郁乃さん(株式会社LITA 代表取締役)は、PRと広告を次のように区別して説明します。

「広告は『当社のサービスはここがお勧めです』と自薦するのに対して、PRはサービスの利用者やメディアに他薦してもらうことを指します」

メディアとはテレビや新聞、雑誌、そして当サイトを含むWeb媒体などです。広告とPRの主なメリットとデメリットをまとめておきます。

種別 メリット デメリット
広告 ・内容やタイミングを自分たちがコントロールできる
・多くの人の目に留まる
・有料であるうえに一方通行
・一歩間違えば「ウザい」と思われてしまいがち
PR ・無料でできる
・サービスの利用を考えている人にとって訴求力が高い
・内容やタイミングを自分たちがコントロールできない

AIDMAからAISASへ

PRに関するマーケティング用語として覚えておきたいのがAISAS(アイサス)です。AISASが提唱される前は、AIDMA(アイドマ)というものが使われていました。

AIDMAとは、以下の頭文字を取ったもので、消費者が購入に至るまでの変化を示しています。

Attention(注目)

Interest(興味)

Desire(欲求)

Memory(記憶)

Action(購入)

一昔前まではWebマーケティングにおける教科書的な考え方でしたが、現在では実情と合っていないため、それに代わるものとして新たにAISASが提唱されたのです。

Attention(注目)

Interest(興味)

Search(検索)

Action(購入)

Share(シェア)

AISASの最後に「Share(シェア)」があることに注目してください。シェアは、製品やサービスを使ってみてどうだったかという感想をSNSなどに書き込むことを意味します。PRにおいてSNSでの「いいね!」やクチコミでの高評価を増やす必要があるのは、利用者に良い評判をシェアしてもらうためです。これがうまく行くと、放っておいても自然と顧客が集まってくるサイクルが生まれます。

「実績を作る」とはどういうことか?

そのサイクルを作るうえでカギを握るのは「実績」と「ストーリー」だと笹木さんは指摘します。まずは実績についてですが、例えば次のようなものが挙げられます。

・サービスの利用者数が〇〇人を超えた
・〇〇さん(有名な人や企業)も愛用している

このほか、「サービス利用者の声」なども実績に含まれます。こうした良い実績を持っているにもかかわらず、うまくPRしていない人が多いと笹木さんは話します。

「SNS全盛の今、会社の信頼度を推し測るうえで、実績はとても大事な要素です。実績は、Webサイトのトップページに配置することをお勧めします。そうすることでWebサイトを訪れた人が信頼できる会社であることを確認できますし、メディアに露出する機会も増えるからです」

設立したばかりで実績が少ない会社もあると思いますが、ご心配なく。フィギュアスケーターの浅田真央さんが使用したことがきっかけとなり大ブレイクした寝具(マットレス)のエアウィーヴも、はじめは小さな一歩からスタートしたと笹木さんは話します。

「社長の発案で、フィギュアスケートも含め、コネクションのあったコーチやトレーナーといった裏方さんにエアウィーヴを使ってもらい、選手に勧めていただきました。その結果、最終的に浅田真央さんに気に入ってもらい、スポンサー契約を結ぶことにつながりました。それと同時に PR 活動を並行して行っていたこともあり、多数のメディア掲載を獲得して売上に貢献。1億円ほどだった年商が5年で115億円にまで伸びたんです。PRは小さな成果を積み重ねる行為です。お客様の声を一つずつ積み上げれば、いつかは大きな成果になる日が来ます。もちろん提供するサービスが高品質であることが大前提ではありますが」

独自のストーリーでサービスの差別化を図る

PRに成功し、多くのメディアで取り上げられるようになったエアウィーヴ。うまく行ったポイントの一つとして笹木さんは、商品ができるまでのストーリーを挙げます。

「エアウィーヴはもともと釣り糸を作る会社が開発したものです。赤字が膨らんだ釣り糸メーカーの社長が、絡まっている釣り糸のクッション性に着目してマットレスの素材に転用することを決断しました。多くのメディアはエアウィーヴという商品そのものよりも、このストーリーに興味を持ったんです。ストーリーは同業他社にはマネできないものなので、差別化のポイントになります」

例えばBtoBに軸足を置くコンサルティング会社などの場合、苦労したエピソードを出し過ぎるのは問題ですが、コンサルタントの人柄を表すようなストーリーは積極的に発信すべきだと笹木さんは指摘します。

「コンサルティング会社の場合、同等のサービスを提供する二つの会社があったら、親しみやすさが感じられる会社のほうが高い確率で選ばれます。お客様と飲みに行ったり、休日は良き父として子どもと接したり、そういう姿が垣間見えると『自分にも寄り添ってくれそう』と思ってもらいやすくなります。無理に演出するのではなく、日常の姿を見せることもPRにおいては大切です」

メールマガジンによる段階的プロモーション

PRは漠然としたイメージ戦略ではなく、売上拡大に寄与する仕事であり、売上拡大を確かなものにするためには「段階的プロモーション」が有効だと笹木さんは説明します。

自分の会社を中心とする円をイメージしてください。すぐ外側に、会社のサービスをすでに受けている「VIP顧客」がいます。その外に、サービス提供には至っていないもののメールアドレスを知っている「リスト顧客」がいます。さらにその外側の最も遠いところにいるのが「一般顧客」です。

「自社主催のセミナーを開くとします。最終的には一般顧客を取り込みたいのですが、いきなりアプローチしても効果は見込めません。そうではなく、例えばまずVIP顧客とリスト顧客にメールマガジンを送り、手堅く集客したうえで『発売3日で〇〇人の申し込みがありました』『残りわずかです』と一般顧客向けに実績をアピールするのです。『満員御礼につき増席しました』と告知するのも有効です」

では、メールマガジンを配信するうえでどんなことに気をつければよいのでしょうか?この点について笹木さんは「ギブの精神」が大切だと話します。

「前提として、メールマガジンを配信する先のリストは、放っておくと劣化していくことを認識する必要があります。週に1、2回のペースで、受け手にとって役に立つ情報を届けることを心がけます。よくある悪い例は、コンテンツが会社の宣伝ばかりになっているもの。メールマガジンは『ギブの精神』で送ることが必要です。顧客にとって有益な情報を必ず入れるようにします」

なお最近ではメールマガジンと同じ役割を果たす「LINE公式アカウント」といったSNSも登場しているので、必要に応じて使い分けるとよいでしょう。

顧客を1件でも持っている会社は、それを実績としてPRできます。現実的なところでは「利用者の声」としてWebサイトに載せることなどが考えられます。「特に小規模の会社の場合、一にも二にも実績が大切です」と笹木さん。Webサイトでの集客が伸び悩んでいる会社は、ぜひ検討してみてください。

参考文献 『0円PR』(日経BP)、『SNS×メディアPR100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)

著者:八鍬 悟志(やくわさとし)
Mikatus(ミカタス)株式会社 Lanchor(ランカー)編集部
複数の出版社に勤めた後、フリーランスライターへ。中小企業や職人を対象に取材活動を展開。2021年にMikatus(ミカタス)株式会社に入社し、税理士向けWebメディア「Lanchor(ランカー)」編集部として活動を開始。Lanchorは、「税理士としての真の価値」を提供することを志す、すべての税理士にエールを送りたいという想いを胸にスタートしたWebメディア。「税理士には日本の未来を切り開く力がある。」をタグラインとして、税理士に役立つ情報や、ビジネスに役立つ情報をさまざまな切り口から発信している。

本記事はMikatusが運営するメディア「Lanchor」からの転載です。