今回の選書
孫正義奇跡のプレゼン 人を動かす23の法則(三木雄信) ソフトバンククリエイティブ
選書サマリー
創業以来、さまざまな歴史を作ることに関わり、わずか30年余りで売上高3兆円となったソフトバンクの快進撃は、プレゼンテーションの力によるところが大きい。
日本では、ソフトバンクのようなベンチャー企業に、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源が極端に不足している。これを補うには、社外からの調達が必要だ。
このとき、プレゼンテーションの力が、あらゆる相手を動かすために重要になるのだ。それは、プレゼンテーションが「メッセージを共有し共感」するための最良の手段だからだ。
だが、ありきたりの説明では、相手の興味を引き付けることはできない。自社の強みや弱みでなく、その事業の「歴史的な必然性」、そして「社会にどのような価値があるのか」を訴える必要がある。
このような「歴史的必然性」と「社会的な価値」を訴えることが「共感」を呼ぶのだ。
人は、誰でも「社会を少しでも良い方向に変えたい」「歴史の1ページに、自分の足跡を残したい」という情熱を持っている。その小さな情熱の炎を大きく燃え立たせるのがプレゼンテーションなのだ。
プレゼンテーションは、誰にとっても解りやすいものであるべきだ。そのためには、スライド一枚一枚の「メッセージ」が、明確で分かりやすいものであるべきだ。
そして、それ以上に重要なことは、プレゼンテーション全体の「メッセージ」が、シンプルで骨太なものであることだ。そのためには、プレゼンテーションに明確な「戦略」が必要だ。
そして、その「戦略」のキーになるスライドを、プレゼンテーションに埋め込むことだ。時には、全体を一枚のスライドに集約したような「戦略」的な「メッセージ」を込めるのだ。
戦略とは「情報を徹底的に集め、枝葉を除去し、一番太い幹になるものだけに絞り込み、これをやらねばという急所を見つけることだ。つまり、戦略とは『略』すること」なのだ。プレゼンも同じだ。
もちろん、全体の「メッセージ」だけでなく、一枚一枚のスライドの「メッセージ」も分かりやすいものにするべきだ。各スライドの「メッセージ」は10文字から20文字以内にまとめることだ。
短文の「メッセージ」一つと、グラフや図・写真が一枚というのが、標準的なスライドの作り方だ。ところが、多くの人が文字と図ばかりの「読み物」的スライドを作りがちだ。
理由は、文字が多いスライドを作らないと、仕事をした気がしないとか、手抜きしたと言われかねないなどだ。しかし、スライドは上司のために作るものではないはずだ。
重要なことは「メッセージ」が「戦略」に従って入念に検討され、その結果、シンプルに整えられていることだ。会場の誰もが、内容を一瞬で理解できることを目指して、スライドを作るべきだ。
スライドが、情報過多で、分かりにくいものになる理由は、もう一つある。それは、パワーポイントのせいだ。
パワーポイントでは、スライド上に、タイトルと本文がレイアウトされ、本文には箇条書き形式で論理的な階層構造が組み込まれる仕様になっている。そのせいで、どうしても文字数が多くなるのだ。
一瞬で理解できず、じっくり目を凝らして読まなければ理解できないスライドは、聴衆の集中力を低下させ、コミュニケーションの阻害要因になる。
実は、ビル・ゲイツでさえ、今やパワーポイントのフォーマットに従ってスライドを作っていない。我々が、要素過多の、バランスの悪いスライドを作らなければならない理由はまったくないのだ。
シンプルで見やすく、骨太な「メッセージ」の伝わりやすいプレゼンテーションを目指すべきだ。そのために、どんどん工夫してほしい。
選書コメント
プレゼンの達人としても知られる、あのソフトバンクの孫さんのプレゼンテーションから、上手なプレゼンのコツを学ぶという画期的な本です。
創業わずか30年で年商3兆円の会社になったソフトバンクですが、その原動力の一つが、孫さんのプレゼン力と言われています。彼のプレゼンが人、物、金を集め、歴史的な事業を実現してきたのです。
その卓抜したプレゼン力を研究し、自分たちのプレゼンにも活かそうという試みです。著者は、ソフトバンクの社長室長として、いつも近くで、孫さんのプレゼンを見てきた方です。
プレゼンテーションが上手いか、下手かは、成果を大きく変えます。政治の世界でも、経営の世界でも、我々の日々の仕事でも、プレゼンの良し悪しが、大きな違いを生みます。
どんなにすごい発想も、斬新なアイデアも、相手に伝わらなければ意味がありません。伝わるから人が動き、結果が出せるのです。そう考えると、プレゼン力は極めて重要なビジネススキルです。
なお、本書は当たり前ですが、イラストの描き方とか、パワーポイントの操作法など、プレゼンテーションの細かいテクニックを解説する本ではありません。
孫さんのプレゼンテーションをいくつか取り上げ、なぜあのように語るのか、なぜスライドはあのように作られているのかなど、その意味や、意図を分かりやすく解説するものです。
いわば、プレゼンの本質を語る本です。プレゼンが仕事の一部という方はもちろん、そうでない方も、一読してみることをお勧めします。
選者紹介
藤井孝一
経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役
1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。
この記事は藤井孝一氏が運営するビジネス書を読みこなすビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー」」の過去記事を抜粋し、適宜加筆・修正を行って転載しています。