電気やガスのように「なくてはならないもの」を作りたい
一般的な月極駐車場に加え、個人が提供する自宅の使っていない駐車スペースなどを含め、目的地の近くに空いている駐車場がないかを探して予約までさせてくれるサービスが「akippa」だ。借りる側としてはお得で便利な予約サービスであり、空きスペースを持っている側から見れば初期投資なしで駐車場ビジネスを始めるための仲介サービスでもある。
このサービスを提供するakippaは、2015年に社名変更で誕生。それ以前は2009年からギャラクシーエージェンシーという社名の下、求人ビジネスなどを展開していたという。
同社は代表取締役社長の金谷元気氏が、高校時代から目指していたプロサッカー選手という道をあきらめた後に起業したことから始まる。「プロを目指して努力するのは4年。プロになれなければ、同年代が大学を卒業して就職する時に、自分も社会人になる」という決意を持っていた同氏は、サッカー選手時代から周囲の仲間にアルバイト先を紹介する中、求人ビジネスの需要を感じていたそうだ。
求人サイトがなかった当時、飲食店などは張り紙を出すなどして、人を募集していた。そうした情報を人海戦術で集めて紹介する中、金谷氏は求人の折り込みチラシなどを作っていたという。
さらに、上場企業で働いた後に起業。最初は携帯電話の代理店をしていたが、Webを用いた求人サイトの運営も手がけるようになったそうだ
ここから現在の駐車場ビジネスへと大きく舵を切るきっかけは、自社の理念のなさに気づいたからだという。「当時、私は採用を担当していたのですが、自分たちが何のために仕事をしているのかを問うような状況でした。満足感が低かったのです。そこで、企業として理念を整理しようということになり、金谷が出してきたのが、電気屋ガスのようになくてはならないものを作りたいという考えです」と語るのは、取締役副社長の松井建吾氏だ。
みんなの困りごとや「あるある」をビジネスに
世の中に必要なものは何かと考えた時、誰もが困ってることがビジネスになるのではないかと思い当たったそうだ。社員から意見を募ったところ、目を引いたのが駐車場の空き情報を知りたいという要望だった。市場調査でも十分な需要があったことから、「駐車場の空き情報」にまつわるビジネスに着手することにしたという。
サービスイン直後から大きな話題になった「akippa」だが、サービスイン前から予告的な情報は積極的に出し、扱える駐車場物件も相当数用意するなど、入念な準備を行っていたという。
「サービス開始時にきちんと使える駐車場をたくさん用意していたことと、スタート前から情報を出していたこと、そして開始時の1日500円均一というキャンペーンが注目を集めたポイントだと思います。また、Infinity Ventures Summitに優勝したことでIT業界の人々に広く知っていただけたことも大きな成功要因でした」と、松井氏は語る。
Infinity Ventures Summitは主にインターネット業界のトップレベルの経営者・経営幹部が一堂に集まり、業界の展望や経営について語る招待制カンファレンスで、akippaはここで開催された新サービスを発表する「Launch Pad」で優勝した。
サービスがスタートしても、実際に利用できる駐車場が少なかったら、興味を持ってもらえても人が離れてしまう。最初から、きちんと利用できるサービスとして整えることが重要だったのだろう。
「車を使う人ならば誰でも『駐車場が見つからない』『見つけたのに空いていない』といった苦労をしています。この"あるある"をビジネスにした、わかりやすさもポイントです。そして、車で移動する人たちは、毎回同じ場所に行く人が多く、一度使ってもらうと常連になってもらえるといった流れができました」と、松井氏は成長のポイントを話す。
情報の多さで選択したAWSは使い勝手も抜群
この急成長した「akippa」を支えたシステム基盤が「AWS(Amazon Web Services)」だ。求人サイトを運営していたとはいえ、高度なWeb利用の経験がなかった中、求めていたのはわかりやすさと使いやすさだったという。
「まずはサーバを探すわけですが、当時格安だったVPSなどを1人で構築してメンテナンスするのは負荷が高すぎます。そこで、クラウドを利用することが決定しました」と語るのは、システム開発責任者の東垂水太一氏だ。
複数の大手クラウドサービスを比較した上でAWSを選択したのは、スタートアップにフィットするサービスだと感じたからだという。
「AWSは日本語ドキュメントが充実しており、情報が豊富でした。また、ユーザーも増えてきていたなので、今後伸びそうだと思ったのもあります。何より安価にスタートできるので、スタートアップにフィットすると感じました」と東垂水氏。
実際にビジネスが成長して行く中、AWSの容易なスケールアップ機能の使いやすさも実感している。「実際にサーバやネットワーク機器へログインして操作することは不要で、WEBコンソールから作業するだけで簡単ですし、自動でスケールすることもできます。例えば、テレビで紹介されるとアクセスが急増しますが、放送時間に合わせて容量の拡張を予約しておけば問題ありません。これがVPSだったら、大変だったと思います。また閾値を指定しての自動化など、負荷に合わせた運用もできるので、助かっています」と東垂水氏は語った。
世界で「駐車場と言えばakippa」を目指す
当初はイベント会場近くなど、ニーズの多いところから駐車場数を増やしてきたakippaだが、今後はさらに取り扱う駐車場の数を増やし、利用者を伸ばしながら展開して行く計画だ。
「今後、『駐車場と言えばakippa』と言われるようになりたいですね。すでにグローバル展開も見据えています。日本だけでなく世界においても『駐車場と言えば』という存在になりたいと考えています」と松井氏は意気込みを語る。
そして今、全力疾走している状態のakippaで働く立場から、スタートアップに携わる意義について語ってもらった。エンジニアの東垂水氏は「技術のサイクルが非常に速い中で動くことになるため、常にキャッチアップすることが苦にならない人でないと厳しいでしょうね」と語る。
一方、松井氏は「インターネットを利用することが当たり前になり、使い方のステージが変わってきています。それに伴い、インターネットを活用したビジネスの市場にも新たなポジションが出てきているので、もっとプレイヤーが増えてほしいですね。この市場を担う人が増えて行かないと、将来的に国の成長という意味でも困ると思います」と、インターネットをベースとしたスタートアップへの積極的なチャレンジを促していた。