生成AIの導入・活用が叫ばれて久しい。多くの企業で、さまざまな業務の効率化や生産性向上を目的に、積極的な導入も進められている。だが、生成AIが“嘘をつく”ハルシネーションや、“分かったふりをする”ポチョムキン理解といった課題も出てきているのが現状だ。これらの課題を解決する一助となるAI技術に「コーザルAI(Causal AI、因果AI)」がある。

本稿では、ノーコードで因果関係を推定できるプラットフォーム「xCausal(クロス・コーザル)」と、それにAIエージェントの要素を付加し活用範囲を拡げた「コーザルAIアシスタント」を提供するヴェルト 代表取締役 CEOの野々上仁氏に、コーザルAIの概要から生成AIとの違い、コーザルAIの活用方法まで伺った。

  • ヴェルト 代表取締役 CEOの野々上仁氏

    ヴェルト 代表取締役 CEOの野々上仁氏

コーザルAIとは

コーザルAIとは何か。野々上氏は「一般的なAIのように相関関係に基づいたAIではなく、因果関係に基づいたAI」だと説明する。

ここで言う一般的なAIとは、生成AIのベースとなっているニューラルネットワークや機械学習、ディープラーニングなどのAIを指す。これらのAIは学習データを相関に基づいてパターン化し、予測・分類などのタスクが得意だ。また生成AIは、学習済みの基盤モデルを用いて確率の高い文字列(トークン)を出力している。そのため、仮に容易な計算であっても、誤った回答を出力する可能性は捨てきれない。また既存のAIは相関関係のみが判断基準になるため、擬似的な関係も含んでしまう。つまり「どうしてその結果になったのか、原因が分かるものではない」と同氏は指摘する。逆に言えば、予測・分類はできるが、その結果を変えるために何をすべきなのか、AIは判断できないということだ。

仮に、事前に学習させるデータを100%正しいものにしておけば誤回答やハルシネーション、ポチョムキン理解は起こらないのか。

「その答えは分かりませんが、この世の全てのデータを、常に最新かつ正しい状態で学習させることはできません。生成AIのみでは、誤った出力は必ず起こり得るのです」(野々上氏)

人間の思考にあるものとは

では、人間はどのように思考するのか。野々上氏は過去にドンペリニヨンの最高醸造責任者だったリシャール・ジョフロワ氏との会話から得たエピソードを例に挙げた。

ワインの品質にはブドウの出来が大きく影響する。しかしブドウの出来に影響を与える天候を制御することはできない。2003年は霜害が発生し、シャルドネに被害が出たほか、記録的な猛暑であり、ブドウの成熟が早かったため、通常よりも早く収穫するといった対応をし、平均的な天候の年と同等の品質を保ったという。つまり、「天候に恵まれなかった」ことから、「このままでは出来上がるワインの品質に悪影響が及ぶ」とプロフェッショナルが考え、それを回避するための対策を採ったわけだ。逆に2004年は素晴らしい気候で「何もしなかったことが努力だった」と何もしないという対策を選んだ。

「人間は経験値などに基づき、原因と結果を推論しています。つまり、相関関係だけでなく、因果関係に基づいた判断をしているのです」(野々上氏)

相関関係と因果関係の違い

ここで改めて、相関関係と因果関係の違いを説明しておこう。

相関関係の例としてよく挙げられるのが、アイスと水難事故の関係性だ。「アイスが売れると、水難事故が増える」というデータがある。しかし、アイスが売れるから、水難事故が増えるわけではない。2つの出来事が同時に発生する確率は高い、つまり相関係数は高いものの、両者に直接的な関係はないわけだ。ただし、アイスが売れることと、水難事故が増えることの両方に影響する要因として、気温の高さが考えられる。この事例の場合、気温が共通の原因(交絡因子)になっていて擬似相関(擬似的な関係)が表れるのだ。

因果関係の日常例として野々上氏が挙げたのは薬の効果だ。体調が優れないとき、薬を飲めば症状の緩和が期待できるが、薬を飲まない場合どうなるのか?

「因果関係は、何かをしたときと、しなかったときの結果(効果)の違いです。最低2つの変数で関係性が分かる相関関係に比べ、因果関係は比較時の条件を同じにする必要があるため、難しさがあります。薬で言えば、条件が完全に合致した状態を生み出す、つまり同じ人が同じ時間、同じ場所で『薬を飲む』『飲まない』で結果を比較することが本当の因果関係による効果ですが、これは不可知です。薬の効果を示すには、個体レベルではなく、集団レベルで、かつ他の要因の影響をなくすための無作為化を施した実験によってエビデンスを取得するのがゴールデンスタンダードです。しかしこれは準備・時間・コストがかかるうえ、倫理的にできないケースも多いでしょう。そのため全ての条件を同一にできなくても、一定の前提を置いたうえで重要な要因の影響を除いて因果関係を推定する因果推論という学術領域が、ここ数十年で発展してきました」(野々上氏)

コーザルAIアシスタントの活用例と分野

生成AIを企業活動の意思決定に活用する企業も増えているが、野々上氏は「生成AIのベースとなる相関関係と確率だけで、高度人材が行ってきた意思決定を行うのは難しい」と言う。そこでヴェルトが開発したのが、コーザルAIと生成AIそれぞれの強みを生かした新たな解「コーザルAIアシスタント」だ。

前述のワインの話を思い出してほしい。ワインの品質を左右するブドウの出来にはさまざまな要因が関係している。仮に新商品として以前よりも糖度やアルコール度数が低く、爽やかな味のワインを開発するとしよう。コーザルAIは高度人材の考え方を反映した因果モデルと実データに基づき、施策による糖度や酸味、酸の質の実数値を因果推論し、新商品に適した数値を提示してくれる。一方、コーザルAIはワインの味や香りを表現するための文章を生成することには向いておらず、こちらは生成AIの得意分野だ。汎用情報による調査やアイデア出しなどでの利点も活かすことができる。つまり長所を活かすことで、信頼できるAIを提供する。

  • コーザルA Iの回答例

    コーザルA Iアシスタントにワインのタイプについて質問した回答例

「例えば、製造業や農業の分野にはさまざまな業務・作業プロセスがあり、相関関係だけでは判断できないことが多々あります。ヘルスケア産業や金融機関では、人によって異なる処置効果の理解と、個の状況に基づいたパーソナライゼーションが必要です。物流やサプライチェーンにおいては外的要因が多く、過去の結果だけ見て、正しい意思決定を行うことは容易ではありません。

これらの分野に限らず意思決定では、相関関係だけでなく、因果関係を理解することが重要です。コーザルAIはその手段を提供します」(野々上氏)

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生成AI技術の限界とコーザルAIの今後

ではこれから先、生成AIとコーザルAIはどのような道を歩んで行くのだろうか。

野々上氏は現状の生成AIが抱える別の課題として、電力消費量の多さを挙げた。毎回大量の学習データから新たな結果を出力する必要がある生成AIは電力消費量が多く、今後、地球環境や人々の暮らしに影響を与える可能性が指摘されているという。これに対し、コーザルAIはデータ生成のメカニズムを因果関係から理解したものであり、毎回新たなデータを学習し直す必要のない「サステナブルな技術としても、今後さらに発展していく可能性を秘めている」と同氏は語る。

「我々も常に新しい技術、使い方を研究・開発しています。今後、コーザルAIも進化していくでしょう。また、ブレイクスルーとなるような新しい技術も出てくるかもしれません」(野々上氏)

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データを学習し、相関関係に基づく回答を出力する生成AIと、因果関係を基に推論するコーザルAI。適材適所で両者を使いこなしていくことで、AI活用の可能性はさらに広がるだろう。今後の動向に注目したい。