本連載では航空機そのものの話を取り上げることが多いのだが、今回からしばらくは趣向を変えて、「航空機にくっつくもの」に関わる話を書いてみようと思う。題して「吊るしものとひっつきもの」。

吊るしものとは

吊るしものとは読んで字のごとく、飛行機の胴体、あるいは主翼の下面に吊るしているものの総称。民間機ではあまり縁がなく、もっぱら軍用機で使用するものだ。

例えば、以前に第86回で取り上げた増槽(落下式燃料タンク)がそれだ。また、爆弾、ミサイル、ロケット弾の類も、典型的な吊るしものである。そして、破壊の道具以外の吊るしものには、各種のセンサー機器もある。

  • サーブJAS39Cグリペン。小さな機体に多数の「吊るしもの」をぶら下げていると、なかなか健気な姿に見える

増槽は、中身の燃料を使い果たしてカラになったら、余計な重量と空気抵抗を背負い込むだけの存在だから、切り離して捨ててしまうほうが具合がよい。爆弾、ミサイル、ロケット弾の類は、もともと「何かに向けて撃ち込むこと」が目的のものだから、当然、飛行中に切り離される。

では、センサー機器はどうか。これは用が済んだら捨ててしまう種類のモノではない。外部に吊るすよりも機体内に組み込む方が、空気抵抗が少なくなる。しかし、組み込んだらそれは「常設」であり、外したり交換したりするには相応の手間がかかる。

だから、任務様態に応じて付けたり付けなかったりするものであれば、外部に吊るすことにも相応の合理性はある。用がないときは付けずに済ませる、という対応ができるのは、吊るしものにしたセンサー機器ならではだ。

ちなみに、戦闘機の変わった吊るしものとして、バゲージポッドがある。トラベルポッド、あるいはカーゴポッドということもあるようだ。外見は増槽と似ているが、中に入れるのは燃料ではなくて搭乗員の手荷物。

戦闘機の機内に荷物室なんていう余計なスペースはないので、海外展開などの任務で携行する荷物が多いときには、バゲージポッドを吊るして、そこに荷物を入れていく。これも「用があるときだけ搭載できる」吊るしものならではの使い方といえる。

このほか、最近では見かけなくなったが、離陸促進用のロケット・ブースターもある。エンジンのパワーだけでは推力が不十分、あるいは通常よりも短い滑走距離で離陸したいという場面で、推力を増やすために使い捨てのロケットを機体の外部に取り付けるものだ。ただし主翼下面ではなく、胴体の下面あるいは側面に取り付ける。

これはまさに離陸時にだけ必要なもの。無事に飛び立って、推進剤を使い果たしてしまえば用済みだから、切り離して捨てられるようにしている。

なお、吊るしものは外部に露出するとは限らない。機内兵器倉に収まっていても、吊るしていることに変わりはないから、これもやはり吊るしものである。

ただし、外部にむき出しで吊るすのと、機内兵器倉に収容する形で吊るすのとでは、何かを吊るして、それを投下あるいは発射するためのメカニズムに違いが生じることがある。そんな話もおいおい、取り上げていきたい。

ひっつきものとは

一方、「ひっつきもの」とは機体の表面に取り付けて、結果として張り出しが生じるものの総称だ。

レーダーや通信機などで使用する、各種のアンテナ(空中線)、あるいはそれを覆うカバー(フェアリング)が、典型的なひっつきものである。また、戦闘機や爆撃機では光学センサーや赤外線センサーを搭載する事例が増えているから、これも同様に「ひっつきもの」となる。

  • オーストラリア空軍のE-7A早期警戒機。背中に背負ったレーダーだけでなく、通信や電子戦関連などのアンテナが多く、「ひっつきもの」の宝庫だ

もちろん、外部に「ひっつきもの」が張り出せば空気抵抗が増えるので好ましくはないのだが、どうしても張り出さなければならないので、我慢するしかない。

例えば、光学センサーや赤外線センサーを、外部に突出しない形で機体の内部に組み込むと、視界が限られるので仕事にならない。衛星通信のアンテナも、赤道の真上にいる通信衛星に指向する必要があるので、旋回・俯仰が可能なパラボラ・アンテナを使用することが多い。すると、これも機体内部に組み込んだのでは可動範囲が限られてしまうから、必然的に外部に突出する。

そこで、「ひっつきもの」では空力的な成形を施すことが多い。しかし、それがアンテナやセンサーの機能を阻害してはいけないから、両方の要求をバランスさせるために設計者が努力することになる。

ちなみに、「ひっつきもの」は民間機、例えば旅客機でもしばしば見られるアイテムだ。特に最近では、機内インターネット接続サービスのために衛星通信アンテナを搭載する機体が増えており、これは例外なく胴体背面にアンテナ・フェアリングが突出している。機器のメーカーによって、あるいは機体によって形状が違うので、その違いに着目してみるのも面白い。

  • JALのA350-900で胴体背面に取り付けられてある、機内インターネット接続サービス用衛星通信アンテナのフェアリング

なお、いくら機体の外部に張り出すことがあるといっても、操縦席を覆う風防やキャノピーのことは、ひっつきものとはいわない。それは機体そのものを構成する要素のうちである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。