普通、世間一般で「ドローン」というと想起されるのは電動式マルチコプターだろう。そして、それは大抵、機体の四方または六方にブームを延ばして、その先端にモーターで回転するローターを取り付けた構成になっている。しかし、そういう形態の機体ばかりというわけではなく、中には風変わりな形態のものもある。

SpearUAVのNinoxシリーズ

そのひとつが、イスラエルのSpearUAVという会社が開発している、Ninoxシリーズ。チューブ発射式で、機体は折りたためる構造になっている。

チューブ発射式の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)なら、既に製品化されている。エアロヴァイロンメント(AeroVironment)製の自爆突入型UAV「スイッチブレード」がその典型例だ。これは機体を専用の発射筒に入れた状態で持ち歩き、上空からの偵察・交戦が必要になった時に、その発射筒をバックパックから出して機体を射出する仕組み。発射した機体は、上空を遊弋しながら映像を送ってくるので、その映像を見ながら目標を指示する。すると機体が突入・自爆する。片道切符が前提といえる。

  • 個人携行が可能なチューブ発射式自爆無人機「スイッチブレード」 写真:US Army

それに対して、SpearUAVのNinoxシリーズは偵察専用。面白いのは、専用の発射筒を使わないモデルがあるところで、それゆえ、本稿で取り上げることにした。

最も大きな「Ninox 103」

Ninoxシリーズには3つのモデルがあるが、最も開発が進んでいるのが、いちばん大きなサイズを持つNinox 103。機体を収容するカプセルは全長1,050mm、重量2kg、ペイロード1.5kg。航続時間60分、進出可能距離10km。この進出可能距離とは物理的な航続性能ではなく、データリンクの通信可能距離によって制約されている。

参考 : Ninox 103の製品情報ページ

  • SpearUAVのチューブ発射式無人機「Ninox 103」。3つのモデルの中で最も大きい

先端に筒型の機体部分があり、外径は名前通りの103mm。その後方に、折り畳み式のブームが4つある。それぞれのブームの先端に2翅のローターが付いていて、全体では4ローター構成。ブームを構成する部材のうち、機体部分に近い側は細いので、折りたたむと中央に空間ができる。そこにはカメラを組み込んだ筒が突き出ている。

Ninox 103はすでにTRL(Technology Readiness Level)が9、つまり実用レベルまで仕上がっており、イスラエル軍で初度運用能力(IOC : Initial Operational Capability)達成の段階まで進んでいる。

発煙弾発射機から撃ち出すことを前提とした「Ninox 66」

それより小型のNinox 66は、Ninox 103と同じ構成・配置で、機体部分の外径を66mmに縮小したモデル。カプセルの全長は420mm、重量1kg、ペイロード0.7kg、進出可能距離10km。

参考 : Ninox 66の製品情報ページ

実はこの外径、戦車などの装甲戦闘車両が装備している発煙弾発射機から撃ち出すことを前提としたもの。発煙弾発射機というと何者かと思われそうだが、富士総合火力演習の最後に煙幕を展開する場面で使用している。敵と交戦する際に、迅速に視界を妨げなければ我が身が危ういから、発煙弾を仕込んだ発射筒を砲塔の前面に前方向きに固定設置していて、それを一斉に射出する仕組み。

その発煙弾発射機を拝借して、発煙弾の代わりに偵察用UAVを撃ち出すのが、Ninox 66の想定用途。すると、装甲戦闘車両が「上空から偵察するための眼」を手に入れることになる。ただし、これを装填した分だけ発煙弾の数が減ってしまうから、そんなむやみに多くは搭載できないだろう。

Ninox 66はTRL6、つまり技術成立性の確認まではできていて、2021年にはIOCを達成できる見込みだとされる。

最も小さな「Ninox 40」

最小のモデルが、Ninox 40。外径は40mm、全長310mm、重量0.5kg、ペイロードは0.2~0.25kg。進出可能距離は4km。40mmという数字は、自動小銃に取り付けたり、あるいは単体で使用したりする40mm擲弾発射機に合わせたもの。つまり、歩兵が敵兵の頭上から擲弾を撃ち込むために使用する発射機をそのまま流用して、擲弾の代わりに偵察用のUAVを飛ばす使い方になる。

参考 : Ninox 40の製品情報ページ

このNinox40だけは形態が異なり、懐中電灯みたいな形状・サイズを持つ機体の前後から、左右にブームを展開させる仕組みになっている。そのブームの先端にローターが付いているので、合計4ローターとなる。擲弾発射機に収まるサイズにまとめようとすると、後部に4個のブームとローターを折りたたむレイアウトでは場所を取り過ぎるということか。

やはり小さくなるほど技術的ハードルが高くなるのか、Ninox 40はまだTRL5で、今は現物を作って実証試験を進めている段階にある。しかし、2021年にIOCを達成する計画だという。

Ninoxシリーズを実現する際の難しさ

機体の紹介はこれぐらいにして。Ninoxシリーズをモノにしようとした時に、何が技術的なハードルになるかを考えてみた。

まず、出来合いの発射筒を使うことになれば、それが外径と全長を制約してしまう。その範囲内に、折り畳み式のローターとそれを駆動するための電動機、電源となるリチウムイオン蓄電池、そして偵察用のカメラ、といった諸々を組み込まなければならない。

そして、持って行った先ですぐに使えなければならない。持ち運んでいる時に加わる振動や温度変化、湿気、粉塵などといった環境条件に耐えられて、かつメンテナンスフリーでなければならない。もちろん、武人の蛮用に耐えられる信頼性や耐久性も求められる。

しかも、機体を発射筒から撃ち出したら直ちにローターを展開して、電動機を始動できなければならない(それができないと墜落する)。専用の発射筒を使うのであれば、それを使ってテストすれば一件落着だが、出来合いの発煙弾発射機や擲弾発射機を使うとなると、さまざまなモデルでテストする必要がある。

そんな事情があるので技術的なハードルは低くなさそうだが、モノになれば利便性は高そうだ。専用の発射筒を使う代わりに、既存の何かを使うということは、Ninoxを運用するための道具立てを新たに用意して、追加で持ち歩く必要性がなくなるという意味になる。すると、個人レベルなら荷物が減るメリットがあるし、車両レベルなら装備追加のための改修がいらない(または最小限で済む)メリットにつながる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。