アクセサリーといっても、女子の皆さんが喜びそうな品物のことではない。エンジンに取り付いている、さまざまな補機類、つまり飛ぶこと以外で必要とする動力源などの総称である。具体的に、どんなものが付いているのだろうか。

油圧ポンプ

本連載の第12回で、「補助翼・昇降舵・方向舵・フラップといった動翼を作動させるには油圧を使うことが多い」という話を書いた。その油圧の供給源といえば油圧ポンプだが、空を飛んでいる飛行機は外部から動力を得るわけにはいかない。

だから当然、油圧ポンプも自分で搭載して動作させている。そのための動力源はエンジンしかない。具体的に言うと、燃焼ガスがタービンを回すことで得られた回転力の一部を、油圧ポンプを駆動するために使っている。だから、タービンと圧縮機を結ぶ軸の途中に歯車装置を設けて、エンジンの横合いに突き出る回転軸を動かすようになっている。その回転軸の先に油圧ポンプが付いている。

複数のエンジンを備えた機体、つまり多発機なら、エンジンごとに油圧ポンプを取り付けてある。例えば四発機の場合、1番エンジンから4番エンジンまで4基のエンジンがある。そのエンジンごとに油圧ポンプを取り付けて、別々の油圧系統を受け持つようにすれば、何かトラブルがあっても油圧系統が全滅することはなく、一部は生き残るので冗長性が増す。

また、複数の油圧系統がある場合は、多数の動翼を複数の油圧系統で分担するようにする。これも冗長性を高めるため。

1971年7月30日にサンフランシスコ国際空港で、離陸しようとしたボーイング747が滑走路の先にある進入灯に降着装置をひっかける事故を起こしたが、この時は4系統ある油圧のうち、床下を通っている3系統が破壊されて使えなくなった。しかし、天井裏を通っている残り1系統によって方向舵の下側半分、昇降舵のうち4分の1(右内側)、左の低速用補助翼といった具合に、一部の動翼を動かすことができた。そのおかげもあり、件の事故機は無事に着陸することができた。

ちなみに、油圧ではないが油が関わるものとして、燃料ポンプと潤滑油ポンプがある。これらももちろん、エンジンの動力を拝借して作動させている。

抽気(ブリードエア)

ジェット・エンジンは、取り込んだ空気を圧縮機で圧縮して、高温・高圧の状態にしている。それをすべて燃焼室に送り込むのではなく、圧縮機の段階で少し拝借して、別の用途に使う。これが抽気(ブリードエア)である。

圧縮空気の出番としては、まず機内の与圧・空調がある。高度が上がれば空気が薄くなるのはご存じの通りだが、そのままでは人間がまともに過ごせなくなるので、エンジンからの抽気を使って機内を加圧している。ただし、エンジン抽気をそのまま使うのでは温度が高すぎるため、熱交換機を介して温度を調整するようになっている。

機内の圧力は、できるだけ地表のそれに近づけるほうがいいが、そうすると内外の圧力差が増して構造上はつらいことになるので、標高0メートルと同じというわけにはいかない。一般的には標高2,400メートルに相当する気圧になっているので、地上よりもいくらか空気が薄い。

また、高度が上がると大気の湿度が低い状態になる。それをエンジンで圧縮して機内に取り込んでいるわけだから、当然ながら機内の湿度は低い。飛行機に乗っていると喉が渇きやすいとか、お肌によろしくないとかいうのは、こういう理由があるためだ。

そこでボーイング787では、機内の湿度を高めるための工夫をしたほか、気圧についても標高1,800メートルに相当するところまで高めている。機体構造材が炭素繊維複合材料で、さびない上に軽くて丈夫なので、こういうことができる。

ちなみに、抽気の使い道は機内の与圧・空調だけではない。動翼の中には圧縮空気で作動するものがあるし(例 : ボーイング747の前縁フラップ)、主翼上面の気流にエネルギーを与えて揚力を増やすために、空気を噴出させることもある。

発電機と定速駆動制御装置

クルマのエンジンにオルタネーターという名の発電機が付いているのと同様、飛行機のエンジンにも発電機が付いている。電子機器や照明を初めとして、さまざまなところで電力を必要とするので、エンジンには発電機も付いている。

ただし、エンジンの回転数は変動するが、発電機の回転数がそれに釣られたのでは、発生する電気の電圧や周波数(交流の場合)が変わってしまって具合が良くない。

そこで定速駆動制御装置(Constant-Speed Drive Unit。CSDまたはCSUという)というものを駆動軸と発電機の間に挟んでいる。これは油圧装置で、作動油を入れた中に駆動軸側の羽根車と発電機側の羽根車を対向させてある。

駆動軸の回転数と発電機の所定回転数が一致していれば、駆動軸の回転がそのまま発電機側に伝わる。ところが回転数が一致していない場合には、回転数が低い側がポンプとなり、相手側の回転数を増速するように働くことで、常に発電機の回転数を所定範囲内に保つ仕組みだそうだ。

最近の飛行機は電子機器が増えたり、電動化が進んだりしているので、発電機の負荷は増えている。もちろん、多発機なら複数の発電機を搭載して冗長化しているが、航空自衛隊のE-767 AWACS(Airborne Warning And Control System)機みたいな電気製品のオバケになると、2基のエンジンにひとつずつ発電機を取り付けていたのでは足りない。

航空自衛隊のE-767。ベースとなった767と比べると、電力消費量は桁違いに大きい

だから、普通のボーイング767がエンジンごとに90kVAの発電機を1つずつ取り付けているところ、E-767はエンジンごとに150kVAの発電機を2つずつ取り付けている。つまり、トータルでは180kVAから600kVAに、3倍以上の増加になっているわけだ。大きなレーダーと多数のコンピュータや通信機器を動作させるために、どれだけ多くの電力を食っているかが伺える。

APUにも同じ機能がある

本連載の第16回で取り上げた補助動力装置、いわゆるAPU(Auxiliary Power Unit)にも、油圧ポンプや発電機が付いている。第16回で述べたように、エンジンの始動に使用する圧縮空気も、APUからの抽気で賄うことが多い。そうすれば、地上に圧縮空気供給用の車両を別に用意しなくても済む。