第12回で、補助翼・昇降舵・方向舵などの動翼を動かす手段について取り上げた。その話の続きとも言えるが、飛行機を支える動力源、すなわちエンジンの話に駒を進めることにしよう。
エンジンの種類いろいろ
大抵の乗り物には、動力源となるエンジンがついている。空を飛ぶモノでも、グライダーのようにエンジンを持たない場合があるが、その話はおいておくとして。
現在、飛行機で使用しているエンジンには、どのようなものがあるのだろうか? まずはその話から。
一番手はガソリン・エンジンである。円筒形のシリンダ内部でピストンが往復するレシプロ・エンジンが大半を占めるが、それだけではない。マツダの乗用車でおなじみの、ヴァンケル・ロータリー・エンジンの使用例もある。主として軽飛行機や無人機などで使われている。
ガソリン・エンジンの基本的な構造や動作原理については、クルマの免許をお持ちの方なら教習所で習っているはずだから、ここで解説するまでもないだろう。
次がガスタービン系のエンジン。これにはターボプロップ・エンジンとジェット・エンジンがあり、後者はさらにターボジェット・エンジンとターボファン・エンジンに分かれる。
いずれも、空気圧縮機で圧縮して高温・高圧にした空気に燃料(ケロシン、つまり灯油)を噴射して燃焼させる。そして発生した排気ガスのエネルギーを使ってタービンを回すのだが、タービンの回転力を主体として使うのがターボプロップ・エンジン。この場合、その回転力を使って圧縮機とプロペラを回し、そのプロペラが飛行機の推進力を生み出す。
ターボジェット・エンジンは、排気ガスの噴射を動力源とする。ただしそれだけでは圧縮機を回す動力源がなくなってしまうので、一部のエネルギーはタービンを回すために使う。
つまり、ターボジェット・エンジンとターボプロップ・エンジンの違いは、「排気ガスの噴射が主体か、プロペラを回す力が主体か」というところにある。後者を突き詰めて、最大限に回転力としてエネルギーを得るのがターボシャフト・エンジンで、ヘリコプターの動力源はこれだ。
どういうわけか、ターボシャフト・エンジンという言葉を使うのはヘリコプターだけで、陸上で、あるいは艦船で使うものはガスタービン・エンジンという。名称は違うが、燃焼ガスのエネルギーを回転力として取り出して使うところは同じである。
ターボファン・エンジンとバイパス比
では、ターボファンとは何か。一見したところ、ターボジェット・エンジンとターボファン・エンジンの見た目は似ているが、内部の構造が違う。ターボファン・エンジンの場合、最前列(吸気口に一番近い側)のファンが一回りも二回りも大きい。そして、その最前列のファンを通った空気の多くは、その後方の圧縮機に入るのではなく、エンジンの周囲を取り巻く流路を通って直接、後方に噴射する。
つまり、ターボファン・エンジンが生み出す推力は、ファンが直接噴射する空気と、中心部の圧縮機や燃焼室を通って噴出する排気ガスの2本立てというわけだ。そして、前者と後者の比率のことをバイパス比という。ただし、圧縮機やファンを駆動する動力源が要るから、コア部分、つまり圧縮機~燃焼室~タービン~排気ノズルの部分をなくすことはできない。
旅客機で使われている大型のターボファン・エンジンはバイパス比が高い。つまり、燃料を燃やして生み出すエネルギーは、ファンや圧縮機を駆動するために必要となる最低限にとどめて、できるだけファンで推力を生み出すようにしている。燃費の改善と騒音の低減が主な動機である。
対して、同じターボファン・エンジンでも戦闘機が搭載するものはバイパス比が小さく、ファンが主体というわけではない。
ちなみに、タービンを通って出てきた排気ガスにさらに燃料を吹き込んで燃焼させることで、排気ガスのエネルギーを強化する手法がある。アフターバーナーとかリヒートとか再燃焼装置とかいった名前で呼ばれているものだ。一般的にはアフターバーナー、あるいは略してA/Bと呼ばれる。ターボファンの場合、ファン部分を通って出てきた空気も対象になる。
これを使うとパワーアップにはなるが、燃料をどんどん消費してしまうのが問題だ。だから、ジェット戦闘機の最高速度がマッハ2とか2.5とかいっても、それを発揮できる時間はわずかである。F-22Aラプターはアフターバーナーを使わないで超音速飛行を行う、いわゆるスーパークルーズが可能な機体だが、航続距離を伸ばせる一方で、アフターバーナー使用時ほどのスピードは出ない。
ボーイング787のGEnxエンジン。最前列にあるファン・ブレードの陰になっているのでわかりにくいが、中央部はファン・ブレードの後方に別のブレードが並んでおり、これが圧縮機から燃焼室に通じるコア部分。その周囲はファンから直接後方に空気を排出するため、隙間から後方が見える |
同じGEnxを後方から見たところ。円錐形の物体がある中央部が、いわゆるジェット・エンジンの部分。その周囲を取り巻くようにして、ファンを経由した大気が噴出される。ファン部分を取り巻く覆い(ナセル)の後端がギザギザになっているのは、騒音低減のため |
その他の動力源
ここまで述べてきたものが航空機の動力源の主役だが、それ以外の動力源もある。例えば、小型の無人機では電気モーターを使用しているものが多い。最近流行のマルチコプターもそうである。
エアバス・ディフェンス&スペース社の実験機「ゼファー」みたいに、太陽電池を併用する機体もある。ただし太陽電池だけだと日が暮れたら飛べなくなってしまうので、蓄電池を一緒に搭載する必要がある。昼間は太陽電池で飛びつつ蓄電池を充電しておいて、夜間は蓄電池を使うわけだ。
また、ごくまれにだが、ディーゼル・エンジンを使用している機体もある。エンジンをできるだけ軽く、発揮する出力をできるだけ大きく、という観点からすると好ましい選択肢ではないが、たまに採用事例がある。
ちなみに、実用には至っていないが、原子力飛行機という構想が出たこともある。陸上の発電所、あるいは艦船だと、核分裂反応によって発生した熱を使って水を熱して水蒸気にして、その水蒸気でタービンを回すことで動力源とする。ところが原子力飛行機だと、そんな迂遠なことをやっていたらかさばる上に重くなるので、吸入した空気を直接、原子炉の炉心で熱して、後方に噴射しようと考えた。
もちろん、そんなことをやったら、放射能汚染された空気がどんどん後方に排出されることになる。だから、この構想が頓挫したのは当たり前だし、強引に実用化したらえらいことになっていたはずだ。原子力飛行機は「サンダーバード」(北陸本線の特急ではなくてSF人形劇の方)の中の話だけにしておこう。
プロペラが取り付く位置
ガソリン・エンジン、ディーゼル・エンジン、電気モーター、ターボプロップ・エンジンについては、推進力の源となるプロペラが必要だ。ポピュラーな方法は、プロペラをエンジンの前側に取り付ける配置で、プロペラが機体を引っ張ることから牽引式(トラクター式)という。
それに対して、プロペラをエンジンの後部に取り付ける配置、つまりプッシャー式というのもある。人類初の動力飛行を成功させたライトフライヤーは、写真を見るとお分かりの通り、プッシャー式だった。近年の軍用無人機でも、プッシャー式の配置をとっている機体は案外とある。
今回はエンジンの種類と基本的な動作原理の話で終わってしまったので、次から、もっと立ち入った話に進むことにしよう。